月曜の夜は街からOLが消える―― と言われた「東京ラブストーリー」
「月曜の夜は街からOLが消える」。そう囁かれたのは1991年に放送されたドラマ『東京ラブストーリー』だ。その言葉通り、毎週月曜9時は多くの女性がテレビに釘付けだった。
ストーリーを知らない世代にざっくりと説明したい。
主人公の永尾完治(織田裕二)は就職で東京へやってきて、同僚の赤名リカ(鈴木保奈美)と出会う。そして、完治の学生時代の友人で、医学部に通う三上健一(江口洋介)、完治と三上の幼い頃からのマドンナで幼稚園教諭の関口さとみ(有森也実)といった4人が織りなすラブストーリーだ。
ストーリーとしては、ありきたりな三角関係の恋物語。それなのに一体なぜこのドラマが社会現象となったのか。そしてこの物語が、30年以上経った今もなおミュージカルとして形を変えながらも愛されるのか…。今回はドラマ再放送を受けて、現在夢中で視聴中の筆者が特に印象深かった部分をピックアップしながら、その魅力について考えていきたい。
ドラマティックなイントロ、主題歌は小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」
ドラマのオープニング、そして毎回、物語が最高潮に達する絶妙のタイミングで流れるのは、主題歌の小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」だ。ドラマティックなイントロと、
あの日 あの時 あの場所で
―― のフレーズだけで胸が熱くなる。
オープニング映像では、駅の公衆電話に人が殺到するシーンが映る。ポケベルで呼び出された人たちの姿なのだろう。そう、このドラマはまだ “携帯電話” が普及する前の時代なのだ。ドラマの中では、会社にフツーに友人から飲み会の誘いの私用電話ががかかってくる。今の時代ではとても考えられない!
そして、なんといっても携帯電話がないことで生まれる出来事といえば、“すれ違い” の物語だ。何時間も喫茶店でカンチを待ち続けるリカ。店が閉店しても、土砂降りの雨の中、来てくれることを信じて、なおも待ち続ける健気な姿…。携帯さえあれば「きょう来れないの? OK! んじゃ、帰るわ」で終わる話。携帯がないというだけで、何時間も好きな人を待ち続けるのだから、ううう、せつない…。せつないけど、これぞ恋!「ああ、このせつなさを携帯電話が奪っていったのか」と嘆かずにいられない。
どれほど好きな人に会いたいか、好きな人と会えるだけでどれほどの幸せを感じられるか…。このすれ違いのシーンからは、そんな恋の苦しさやせつなさがひしひしと伝わってくる。
あなたはリカ派? それともさとみ派? 問題
さぁ、そして、このドラマの最大の焦点にして、いまだに盛り上がるテーマ。「あなたはリカ派?それともさとみ派?問題」だ。
赤名リカはなんでもストレートに物言うタイプ。恋愛だって全力だ。カンチと付き合うきっかけとなった有名な台詞「セックスしよう」も、直球なリカらしいものだ。けれど当時は「女性が、はしたない!」と賛否が巻き起こった。
ほかにもリカの性格を表す印象的な台詞がある。リカと交際中にも関わらず、さとみに心揺れるカンチに言い放った言葉。
「気持ちはひとつしかないんだよ。2個はないんだよ! どこにおいてきちゃったの!? 24時間好きって言ってて。仕事してても、友だちと遊んでても、カンチの心全部で好きって言ってて! ちゃんと捕まえてて。私だけを見てて。でなきゃ、よそにいっちゃうよ!!」
―― すごい… ある意味、めっちゃ重い。けれど私はそんなリカのいつもひたむきなところが好きだった。そして何より、この時代に、こんなにはっきりと自己主張する女性を描いたのは、あっぱれに思った。
女性を取り巻く社会環境の過渡期に生まれた赤名リカという女性
ここで少し当時の時代背景に焦点を当ててみたい。このドラマが開始される4年前といえば、あの「アグネス論争」が起こった年だ。女性とは、母親とは、どうあるべきか熱く議論された頃だった。母親は仕事より子育てに専念すべきという伝統的女性像を支持する意見と、子育てをしつつ社会進出したいという物言う新しい女性像を求める意見で、世論は真っ二つに分かれた。
そんな時代を赤名リカというキャラクターが象徴している。精神的に自立し、ダメなものはダメ、好きなものは好きと、何者にも臆せず物を言い、タブーとされた言葉だって平気で口にする。これまでの固定観念を覆す女性のキャラクターは、とても魅力的に映った。新しい女性像の登場によって、「こういう生き方もあっていい」と救われる気持ちになった女性も多く存在したのではないか。このドラマが女性たちの心を掴んだ大きな理由は赤名リカの魅力にあったと思う。
もちろん、さとみ的な女性の生き方「男性を支え、支えられながら、一途に家庭を守っていく人生」だって素晴らしいもので、けっして否定されるべきものではない。
『東京ラブストーリー』が私たちに教えてくれたことは、赤名リカという新しい女性像を見せてくれたこと、そして “人をひたむきに愛することの素晴らしさ” にあったと個人的に思う。
当時は誰もが一生懸命に人を愛した。私たちはうんざりするほど恋愛に熱く、ひたむきだった。私たちが過ごしたあの時代は、携帯電話もなく、不自由ではあったが、その分、必死になって走って追いかけ、公園で喧嘩をし、ずぶ濡れの雨に打たれ、何時間だって愛する人を待ち続けた。まさに全身全霊傾けて恋愛に向き合った。時に笑い、時に泣き、傷ついたりしながらも、リカのように真っ直ぐに人を愛した。成就した人もいれば、悲しい結末になった人もいただろう。それでも今となっては、どの恋も素晴らしい思い出となって、それぞれの心の中で生き続けていると思う。
『東京ラブストーリー』は、あの頃、精いっぱいに恋をした、私たち一人びとりの物語なのだ。
最近は「恋人は必要と思わない」という男女も増えたり、マッチングアプリの登場などもあり、恋愛スタイルも変わってきた。けれど、どんなに恋愛の形が変わろうとも、「人を好きになる」という気持ちは普遍的なものではないだろうか。私はそう信じたい。
だからこそ「東京ラブストーリー」は、時代を超えて愛される名作中の名作なのだ。
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2022.11.27