リレー連載:2000年代ドラマ主題歌特集▶ 忘却の空 / SADS
▶ 池袋ウエストゲートパーク
▶ 主演:長瀬智也
▶ 放送期間:2000年4月14日〜6月23日
▶ 放送局:TBS系
社会不安を加速させた世紀末の出来事
世紀末とはよく言ったものだが、新しい世紀に向かってのカウントダウンが5を切った頃から、社会不安を加速させる事象が次々と起こり始める。1995年の阪神淡路大震災とオウム真理教によるいくつものテロ。この年を境に30年に及ぶデフレが始まった。
1997年には猟奇的な神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)。1998年には和歌山毒物カレー事件。1999年は悲惨で、池袋通り魔殺人、下関通り魔殺人、東海村JCO臨界事故、桶川ストーカー殺人。2000年には6件もの10代の少年による殺人事件や爆破事件が起き、沼津のストーカー殺人事件では17歳の女子高生が犠牲になり、少年事件が社会問題化した。1998年には自殺者が3万人を超えている。悪い流れが連鎖していく、そんな時代の空気を感じていた人は多かったはずだ。
そんな時代から逃げるように、少年少女たちは共通点を求めて群を作った。同じ時期に渋谷のセンター街を中心としたギャル文化が花開いている。ギャルというのは1980年代のヤンキー文化の延長にあるものといっていいだろう。そして、2000年代半ばにはファッション雑誌『小悪魔ageha』の登場により、ギャル文化はキャバクラへと流れていく。同様に、その男性版であるギャル男もスーツを着てホストへと流れていった。硬派な不良少年たちは、チーマーを経て、ヒップホップ系のギャング文化を取り入れながら、2000年前後にはカラーギャングというスタイルに発展する。
そんな少年少女たちの心の内側にある孤独を歌ったのが安室奈美恵「SWEET 19 BLUES」だったし、浜崎あゆみの初期作品は、常に居場所を求め続ける心の叫びだった。1990年代後半の目立った事件の多くは、極端に言えば、社会に馴染めず、孤立と孤独に耐えきれなかった者たちの暴発と言っていい。
一貫して除け者の歌を歌ってきた清春
前置きが長くなったが、そういった時代の一場面を描いたのが石田衣良の小説『池袋ウエストゲートパーク』(通称:IWGP)だ。当時の池袋は、文化的な発信力もなく、外からの流入を拒むような空気すらあった。2000年に放送されたドラマは宮藤官九郎の脚本により少しコミカルに描かれてはいたが、当時の “ブクロ” には確実にヤバい空気が充満していたし、そもそも、ブクロはブクロ、新宿は新宿、渋谷は渋谷で独立した文化圏を持ち、それぞれに干渉し合うことはなかった。
ⓒ TBS
そのドラマ版の主題歌となったのがSADSの「忘却の空」だ。SADSの中心人物で、作詞・作曲も担当するヴォーカルの清春は、1991年に黒夢を結成し、その活動が停滞した1999年にSADSの活動を始めた。黒夢時代から一貫しているのは、除け者の歌を歌ってきたということだ。それは1980年代のTHE MODSやTHE STREET SLIDERSから地続きになった世界だが、SADSの時代になると、閉じた自意識の中で嘲笑を繰り返すような半径50センチの世界の歌が増えていく。
「池袋ウエストゲートパーク」と「忘却の空」の整合性
そんな中で「忘却の空」は、それでもここから抜け出したいと心に秘めていることを忘れていないという思いを歌っているのが珍しい。ドラマの登場人物たちは、都会にいながら、小さなムラ意識の中で同じような日常を繰り返し、どこか諦めたような無気力さを感じながら満足できずにいる。この曲がドラマありきで書かれたものなのかは分からないが、当時の清春はタイアップのことなど気にも留めなかったかもしれないが、ドラマのストーリーと不思議な整合性を見せている。
「忘却の空」は2000年にSADS4枚目のシングルとして、「ストロベリー」と同時発売となった。ドラマの世界観との相性もあってか、オリコンで最高2位、SADSにとって最大となる30万枚のセールスを記録した。しかし、ヒットしたこと以上に、ドラマの世界観と共にあの時代の荒んだ空気が刻まれている人も多いだろう。あまりにもアイコニックになりすぎてしまったこともあってか、近年のライヴで演奏されることは少ないようだが、世界が新しい時代へと歩を進め始めた今、この歌は未来の空の下でどんなふうに聞こえてくるのだろうか。
2026.06.09