1972年 7月21日

【テレビから聞こえてきた音楽 刑事ドラマ編】大都会、Gメン'75、太陽にほえろ!

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刑事ドラマの音楽70年代編を5曲トレース


bayfmの『Wave Re:minder -懐かしむより、超えていけ!-』(毎週水曜25:00~25:55)で、昭和の刑事ドラマ(または探偵ドラマ)における音楽について話すチャンスをいただいた。

放送は2023年10月4日と10月11日の2回。それぞれ70年代と80年代をテーマとすることになった。

そこで適度な大衆性を維持しつつも、わずかに専門性をアピールできる曲もねじ込む方針とした。そしてここでは、すでに放送済みの70年代編にて取り上げた5曲について改めてトレースしたいと思う。

ショーケンの猛プッシュで生まれたスタンダード曲


『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)オープニング曲
井上堯之バンド「太陽にほえろ! メイン・テーマ」 作曲:大野克夫 (1972年)


番組開始当時の『太陽にほえろ!』には2つの軸があった。映画界の大スター、石原裕次郎が演じた “ボス” を番組の看板としつつ、実質は萩原健一が演じた未熟な若手刑事 “マカロニ” の成長を描いていたのである。

石原裕次郎は、60年代に所属していた日活から独立。石原プロモーション(以下:石原プロ)を興して、プロデューサー兼俳優として意欲的な映画制作を続けていった。しかし、日本映画界の冷え込みから苦しい時代を過ごしていた。

一方、萩原健一は、ザ・テンプターズ解散後に参加した新バンド “PYG” の活動が今ひとつ軌道に乗らないなかで、俳優業に強い関心を持つようになる。両者はいずれも『太陽にほえろ!』は初のテレビドラマの本格レギュラー出演の機会となった。日本映画とグループサウンズという2つのジャンルの衰退が交差することで、石原裕次郎はボスに、萩原健一はマカロニになったのである。

『太陽にほえろ!』は東宝と国際放映の制作であり、いわば客人の待遇にあって石原裕次郎は「自分の歌を番組で流したい」とは要望しなかった。これに対し、萩原健一(以下、敬意を込めてショーケン)は、音楽について強く主張した。自らが出演するドラマの音楽が古臭いのはイヤだ、ロックがいいと考えた。そして、番組の岡田晋吉プロデューサーに、PYGのメンバーである大野克夫に音楽を担当させるようにプッシュしたのである。晩年の著書『ショーケン 最終章』(講談社)には、“大野克夫の起用が出演の条件だった” という旨の記述もある。

ここで、PYGについて補足しておきたい。このバンドは、ザ・テンプターズからショーケン(ボーカル)、大口広司(ドラム)、ザ・スパイダースから井上堯之(ギター)、大野克夫(オルガン)、ザ・タイガースから沢田研二(ボーカル)と岸部修三(ベース)が参加したドリームチームだ。当時は「ニューロック」と呼ばれたサイケデリックなロックを志向し、大野克夫はそのメロディメーカーの一人だった。

テレビドラマの音楽は、専門の作曲家が作り、オーケストラが演奏するという従来のパターンがあり、バンドによる例はほとんどなかった。しかし、岡田晋吉はショーケンの要望を通した。日本テレビ音楽(日本テレビ関連の音楽にまつわる各種業務を行う会社)の飯田則子プロデューサーの尽力もあり、メインテーマをはじめ『太陽にほえろ!』の音楽は大野克夫が作曲し、ショーケンとジュリー以外のPYGメンバーが “井上堯之バンド” として演奏を担当することになった。つまり、昭和屈指の認知度を誇るインストゥルメンタル曲「太陽にほえろ! メイン・テーマ」は、ショーケンという異才の強い主張により生まれたのである。

「太陽にほえろ! メイン・テーマ」はメインのメロディを3つの楽器がリレー形式で奏でるかたちがとられている。まずはギター(井上堯之)、そしてサックス(ゲストミュージシャンの市原宏祐)、わずかにギターを挟み、次にハモンドオルガン(大野克夫)、再びサックスという構成だ。それに並走するようなベース音が印象に残る。これは岸部修三、現在の岸部一徳によるものだ。

その後、大野克夫は、『太陽にほえろ!』を去ったショーケンが主演した『傷だらけの天使』でも作曲を担当。それを井上堯之バンドが演奏した。このようなバンドがテレビドラマの音楽を担当する流れは、以後、トランザムが『俺たちの勲章』、ゴダイゴが『いろはの “い”』『西遊記』といったように日本テレビ系の作品が継承していく。その背景には前述の飯田則子プロデューサーの存在があった。

中森明菜もカバーした哀愁の菊池俊輔メロディ


『Gメン’75』(TBS系)エンディングテーマ 曲
しまざき由理「面影」 作詞:佐藤純彌、作曲・編曲:菊池俊輔(1975年)


『太陽にほえろ!』の音楽は画期的だったが、バンドによるロック路線が刑事ドラマ音楽の主流になった訳ではない。従来のスタイルも残っていくのだ。そして、『Gメン’75』では劇伴の大家・菊池俊輔がドラマティックな音楽を作り上げた。

『Gメン’75』は “ハードボイルド” を掲げた大人向けのビターな作品だ。権力者による不正、反社会勢力による悪事、社会の歪みから生まれた事件を取り上げることが多く、それらを生んだ背景を掘り下げた。また、社会的弱者の悲しみを徹底的に描写した。娯楽性の強い「香港カラテシリーズ」という特別編もあったが、基本は社会派だった。TBS系の土曜日の夜、『8時だョ! 全員集合』の直後にそんなコンテンツが放送されていたのだ。

エンディング曲がなく、刑事たちの笑顔で終わる『太陽にほえろ!』と異なり、『Gメン’75』は後味の悪い終わり方をすることも多かった。たとえば、第1話「エアポート捜査線」ではレギュラー出演者である関屋警部補(原田大二郎)の婚約者が事件に巻き込まれて死亡。ドラマはそこで無情に終わる。だからこそ、最後に余韻を引っ張る音楽を流してソフトランディングする必要があった。

番組開始当初のエンディングで、黒木警視(丹波哲郎)以下Gメンのメンバーが横一列で空港の滑走路を歩く映像のバックに流れるのは、しまざき由理の「面影」だ。作曲者の菊池俊輔は梶芽衣子の「恨み節」、アニメ『タイガーマスク』(日本テレビ系)エンディング曲「みなしごのバラード」を作った人物である。どこか哀愁を感じさせる曲こそが、菊池メロディの真髄だといえる。『昭和仮面ライダーシリーズ』の一連の楽曲もどこか哀しい。そして「面影」もその系統に属する。悲哀に満ちている。なお、作詞の佐藤純彌とは、『新幹線大爆破』『君よ憤怒の河を渉れ』『野性の証明』などを代表作とする映画監督だ。その歌詞もやはり哀しい。そこがいい。

「面影」はヒットし、のちにいろいろな歌手がカバーしている。そのなかのひとりに中森明菜がいる。2009年の『ムード歌謡 〜歌姫昭和名曲集』というアルバムのなかで歌っているのだ。80年代のアイドルのなかで、哀愁の菊池俊輔メロディが似合うのは間違いなく中森明菜だろう。松田聖子には歌えない。歌う必然性がない。しかし、中森明菜には強い必然性が感じられる。「面影」はそんな曲である。



渡哲也がアドリブで歌った史上最大のヒット曲


『大都会 闘いの日々』(日本テレビ系)の最終回挿入歌
子門真人「およげ!たいやきくん」(渡哲也が歌唱) 作詞:高田ひろお、作曲・編曲:佐瀬寿一 (1976年)


昭和の刑事ドラマでは、オフィシャルな挿入歌以外に撮影当時のヒット曲が効果的に使われることがある。劇中のテレビ、ラジオ、有線放送からうっすら流れたり、登場人物が鼻歌として口ずさんだりする。市井の人々の暮らしのなかに歌があったのだ。

石原プロが制作した初のテレビドラマ『大都会 闘いの日々』は、刑事が犯人に容赦なく発砲しまくり、頻繁にクルマが炎上するような作品ではない。人間ドラマに軸を置き、世の不条理さを訴えたシリアスなドラマだった。犯人が逮捕されないこともあり、なかには芸能界の実力者の悪事をテレビ局がもみ消し、刑事たちは何もできず終わる回もあった。

そして、渡哲也が演じる主人公の刑事、黒岩頼介は常に葛藤する人物である。キャラ設定が『西部警察』(テレビ朝日系)の大門圭介とはまったく違う。妹と同居しているのは同じだが、大門の妹が呑気な漫画家であるのに対し、黒岩の妹はある忌まわしい出来事からトラウマに苦しんで生きている女性である。妹の傷は黒岩にとっても重い十字架になっている。

一方で黒岩は一人の女性に恋をする。だが、相手が悪い。自らが傷つくことが必至の相手である。番組の最終回で黒岩に奈落が待っている。警察官として、ひとりの人間として、耐え難い思いをするのだ。酒に逃げるしかなかった黒岩はテーブルに突っ伏してある流行曲を歌った。それこそが、累計450万枚以上をセールスした日本の音楽史上最大のヒット曲、子門真人の「およげ! たいやきくん」だ。

演出を手掛けた村川透監督がのちに語ったところによれば、当該シーンの撮影のとき、なにか歌うようにリクエストしたところ、渡哲也がアドリブで「およげ! たいやきくん」を歌い出したという。センスがナイスすぎる。その場面で黒岩が歌うのは「およげ! たいやきくん」だからいい。他の曲では成立しない。しかも、歌詞の一部を間違っているのも素晴らしい。“刑事ドラマで流れる流行歌” のナンバーワンはこれだ。



『ルパン三世』の作曲家が手掛けたスタイリッシュ曲


『大追跡』(日本テレビ系)オープニング&エンディングテーマ
You & The Explosion Band「大追跡のテーマ」 作曲:大野雄二 (1978年)


『大追跡』は、「遊撃捜査班」という特別部署の刑事たちを描いた作品だ。加山雄三が主演で、沖雅也、長谷直美、柴田恭兵、そして藤竜也と、刑事ドラマ史における重要俳優が共演した。無国籍な雰囲気を持つ横浜が舞台で、刑事たちがその場のノリでアドリブの応酬をするスタイルなど、その後のいくつかの刑事ドラマに影響を与えた点も特筆に値する。

そんな作品の音楽を手掛けたのは、 アニメ『ルパン三世』(日本テレビ系)で知られるジャズピアニストの大野雄二である。オープニングとエンディングでかかる「大追跡のテーマ」は、贅沢なアンサンブルによる、ジャズやフュージョンの要素があるスタイリッシュなものとなった。『ルパン三世』の音楽が好きな人なら、気に入ること間違いナシの大傑作だ。ある意味で『太陽にほえろ!』のアンチテーゼのようでもあるが、実はこれも前述した日本テレビ音楽の飯田則子の仕事だ。また、『ルパン三世』の音楽監督として知られる鈴木清司もプロデュースに加わっている。

大野雄二は82歳となった2023年時点でも健在だ。2022年には “You & Explosion Band” 名義で超豪華なビッグバンドを従えて東京国際フォーラムで『大野雄二ベスト・ヒット・ライブ』という公演を行い、「大追跡のテーマ」も披露した。その演奏の模様は大野雄二の公式YouTubeチャンネルで観ることができる。これは何度もリピートしたくなる。



明るくて軽妙。80年代前夜を感じるカントリー風ナンバー


『俺たちは天使だ!』(日本テレビ系)主題歌
SHŌGUN「男達のメロディー」 作詞:喜多條忠、作曲:ケーシー・ランキン、編曲:大谷和夫 (1979年)


『俺たちは天使だ!』はコメディー要素が強い探偵ドラマだ。もともと『沖田総司』という時代劇が予定されていたが、スポンサーの意向で制作中止に。同じキャストで急遽企画が練り直されて生まれたのがこの作品だ。『俺たちは天使だ!』で沖雅也が演じた主人公の探偵、麻生雅人は、本人の実像に寄せて描かれたキャラクターだったとされる。

麻生探偵事務所のメンバーはほかに多岐川裕美、渡辺篤史、柴田恭兵、神田正輝。さらに小野寺昭、長谷直美、勝野洋、下川辰平と『太陽にほえろ!』でお馴染みのメンバーも顔を出している。内容は明るく、ライトでコミカルだ。70年代らしい暗さ、重さはない。

それまでの刑事ドラマ・探偵ドラマはオープニングがインスト、エンディングはヴォーカル入りの曲が流れるケースが多かったが、『俺たちは天使だ!』はオープニングにヴォーカル入りの曲が流れた。このスタイルは意外に珍しい。主題歌「男達のメロディー」を歌うSHŌGUNは、芳野藤丸(ギター / ボーカル)、大谷和夫(ピアノ)らスタジオミュージシャンが結成した “ONE LINE BAND” が前身で、『俺たちは天使だ!』の主題歌を担当することになり、日本で活動するアメリカ出身の音楽家のケーシー・ランキン(ギター / ボーカル)をメンバーに加え、バンド名を改めた。

ケーシー・ランキンが作曲した「男達のメロディー」は刑事ドラマ、探偵ドラマには珍しいカントリー風の曲だ。そして、ドラマが毎回、「運が良ければ●●」もしくは「運が悪けりゃ●●」というサブタイトルとなることから、かぐや姫の「神田川」で知られる作詞家の喜多條忠に依頼し、それに合わせた歌詞が作られた。ドラマの内容とともに、曲の明るさ、軽さは80年代の足音を感じさせるものである。

SHŌGUNは同年に松田優作主演の『探偵物語』(日本テレビ系)の音楽も担当する。『俺たちは天使だ!』は東宝系、『探偵物語』と東映系(東映芸能ビデオ)と制作会社が異なるが、いずれもの番組も音楽には飯田則子が関わっており、その手腕によるものだった。



以上が選びに選んだ70年代の5曲だ。さて、放送2回目は80年代編である。70年代とはガラリと世界が変わり、刑事ドラマの音楽は歌モノが多くなっていく。シティポップやアイドルとの邂逅もある。一方で、低視聴率のあまり早期打ち切りとなった幻の刑事ドラマの主題歌も取り上げたい。しかも、歌っているのは今も第一線で活躍するあの大物バンドだ。

2回目の放送は10月11日(水)の25:00~。なお、70年代編もRadikoのタイムフリー&エリアフリーでも聴けるとのことである。




bayfm Wave Re:minder
懐かしむより、超えていけ!
毎週水曜 25:00~25:55
DJ:太田秀樹
radikoのタイムフリー&エリアフリーでもお楽しみいただけます。

https://radiko.jp/#!/ts/BAYFM78/20231005010000

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