ギネス認定!6年代連続でアルバム1位獲得という記録を樹立したユーミン 2022年7月5日、ユーミンはデビュー50周年を迎え、同年10月4日にベストアルバム『ユーミン万歳!』をリリース。このアルバムはオリコンチャートの1位を獲得し、オリコン史上初となる1970年代から6年代連続でアルバム1位獲得という、これまでに誰もなし得なかった記録を樹立した。
この記録は『Most consecutive decades with a No.1 on the Japanese albums chart』(日本のアルバムチャートで1位を連続で獲得した最多デケイド数)として、ギネス世界記録に認定。現在、書籍『ギネス世界記録2024』の日本語版に掲載されている。
そして、2023年5月からスタートした、ユーミンのデビュー50周年を記念した全国アリーナツアー『大和証券グループ presents 50th Anniversary 松任谷由実コンサートツアー「The Journey」』は、昨年12月28日の名古屋公演を以て無事終了。日本全国16都市、全54公演、57万4,000人動員の自己最大規模となるツアーとなり、2023年ソロアーティスト動員数1位を記録。つまり、ユーミンの50周年イヤーは “記録尽くし” の周年となったわけである。
「ユーミン乾杯!!」、アルバムのコンセプトは “懐かしい未来、新しい過去” そんな、ユーミンの50周年イヤーの終わりを華やかに飾ったのが、12月20日に発売に
された『ユーミン乾杯!!〜松任谷由実50周年記念コラボベストアルバム〜』だ。もともとこのアルバムは『ユーミン万歳!』と同時に発売される予定もあったそうだが、構想から発売まで約2年半を費やし、今回満を持しての発売となった。
アルバムのコンセプトは “懐かしい未来、新しい過去” 。ユーミンのオリジナル・マルチテープを開放し、アーティストがそれぞれの解釈でスクラップ&ビルド、楽曲を再構築するという、これまでに類を見ないコラボアルバムになった。
VIDEO 当初発表になっていた収録曲は8曲だったが、急遽、世界No.1フィメールDJ、NINA KRAVIZ(ニーナ・クラヴィッツ)の参加が決まったため制作上の都合からの発売日変更になった(当初の発売予定は11月29日)。
ニーナはシベリア出身のDJ、プロデューサー、シンガーソングライター、そして熱心なレコード・ディガーとしても知られるアーティストだ。今回ニーナが手がけた「春よ、来い」は、世界の平和を願うユーミンからの願いが込められた1曲となった。かつて開催されたコンサートツアー『シャングリラ』でロシアのシルク・ドゥ・ソレイユとコラボレーションをしているユーミンにとって、今、ロシアのアーティストとコラボをすることは、世界情勢を踏まえると非常に大きな意味がある。
「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない) 2023」が収録 そして、アルバムの延期となった理由がもうひとつあった。1986年、桑田佳祐が中心となって企画された伝説の音楽番組・日本テレビ系『メリー・クリスマス・ショー』のテーマソング「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)2023」が収録されることになったからだ。当時、番組のために制作された作詞:松任谷由実、作曲:桑田佳祐による原曲を、世界観はそのままに新しくレコーディングした1曲は、長らくCD化が待ち望まれていた曲だったため、音楽ファンへの最高のクリスマスプレゼントになったことは間違いない。
VIDEO そしてもう1曲、長らくCD化が待ち望まれていた曲がある。それは1985年に発売され、オリコンチャートの1位を獲得した、松任谷由実・小田和正・財津和夫の「今だから」だ。1985年6月15日に国立競技場で行なわれた、国際青年年イベント「国際青年年記念 ALL TOGETHER NOW」で、レコーディングのメンバー(坂本龍一/キーボード、高橋幸宏/ドラムス、後藤次利/ベース、高中正義/ギター)+ 加藤和彦をバックに演奏された伝説の1曲だが、38年の月日を経て、GOH HOTODAによるリマスターで「ユーミン乾杯!!」に収録されることになった。
荒井由実時代の代表曲「中央フリーウェイ」をセレクトしたYOASOBI 上記3曲はもちろんスペシャルな曲になったことは間違いないが、今回収録された他の7曲が、あくまでもアルバムの核になっていることを忘れてはいけない。ユーミン自身がラジオのゲストなどで接点を持ったアーティストに直接オファーしたそうだが、くるりは、2009年に “くるりとユーミン” 名義で「シャツを洗えば」という楽曲をコラボしており、すでに音楽的交流がある気心の知れたバンドだ。
くるりは「輪舞曲(ロンド)」を手がけているが、ヴォーカル・トラック以外は全てリハーモナイズし、アレンジも変えて欲しいという依頼のもと制作されている。すでに完成度の高いヒット曲のコード感を変えていく作業は、さぞかし悩ましい作業だったのではないだろうか。
YOASOBIは荒井由実時代の代表曲「中央フリーウェイ」をセレクトしているが、新たに歌詞とメロディーが書き加えられており、その新たな世界観はまるで近未来の「中央フリーウェイ」を聴いているようだ。すでにスタンダードになっている曲に歌詞とメロディーを加えることは、YOASOBIだから許された制作方法だろう。この曲こそアルバムのコンセプトである、“懐かしい未来、新しい過去” そのものかもしれない。
小室哲哉の名アレンジが聴きどころ「守ってあげたい」 90年代のメガヒット時代、ユーミンと共に音楽界で戦い抜いた、戦友・小室哲哉は「守ってあげたい」を手がけている。ボーカルにはトップアイドルグループ・乃木坂46が参加しているが、彼女たちが歌うことで、この曲の持つイノセントなエッセンスがさらに際立って聞こえてくる。どこか祈りのようなものすら感じる小室哲哉の名アレンジも、このアルバムの聴きどころのうちのひとつだ。
VIDEO RHYMESTERはユーミンのデビュー40周年を祝う武道館ライブですでに披露していた「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」をアルバムのために新たにリメイク。2018年に行われた武部聡志主催のコンサート『SONGS & FRIENDS』で「Hello, my friend」をカバーしたYONCEは今回「真珠のピアス」を手がけている。
ユーミン自身が大ファンでもある2人組ロックユニットGLIM SPANKYは「真夏の夜の夢」をセレクトしているが、GLIM的サイケデリック感満載のガレージロック風に仕上がった。
VIDEO そして、アルバムのオープニングを華やかに飾る、岡村靖幸による「影になって」は、BPMを上げたアシッドジャズ風のアレンジで、この曲の持つ寂寥感をさらに色濃くしている名トラックだ。ちなみに筆者は、この「影になって」が一番気に入っているが、過去のユーミンと、現在の岡村ちゃんのデュエットを体感できるのもこのアルバムならではの醍醐味だ。
アルバム『ユーミン乾杯!!』に指名を受けたアーティストは、あくまで自身でサウンドメイクすることの出来る才能あるアーティストだが、すでにスタンダードになっている楽曲に手を加えることは、プレッシャーもあり、かつ大きなチャレンジだっただろう。
最後に、この『ユーミン乾杯‼』には、実は隠しトラックが収録されている。自分もまったく知らず、CDを聴いていていきなりスピーカーから流れてきたので非常に驚いた。こういうサプライズはサブスクでは体感できないので、今からでも遅くないので是非CDでお聴きください。そして、ユーミンが参加してくれた各アーティストに感謝の気持ちを綴った直筆の手紙もブックレットに掲載されているので、この作品は是非CDでお楽しみいただくことを推奨させていただく。隠しトラックはCDを聴いた人だけのお楽しみということで!(笑)
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2024.01.19