1992年 7月3日

冬彦さんが大ブーム【ずっとあなたが好きだった】主題歌はサザンの名曲「涙のキッス」

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photo:TBS  

とある結婚を発端とする家族間の愛憎劇「ずっとあなたが好きだった」


1990年代に放送されたテレビドラマの視聴率ランキングを見ると、37.8%を記録した「ひとつ屋根の下」を筆頭にフジテレビのドラマが上位を占め、ベストテンに5本がランクイン。それに次ぐのがTBSの4本で、残り1本は日本テレビの作品となっている。

90年代、フジテレビの大攻勢に対して常に守勢に回ることになっていたTBSだが、80年代は真逆の様相を呈しており、定番のホームドラマや学園もの、時代劇といった定番コンテンツでフジテレビよりも優位に立っていた。

ただし、これらはいずれも80年代の早い時期に制作されたもので、後にトレンディドラマと呼ばれるような連続ものは登場していない。その走りとも言われるのは、1986年に始まった “男女7人シリーズ” で、「男女7人秋物語」の最終回で記録した36.6%という視聴率は際立っているが、話題作ではあってもなかなかメガヒットには至らない…。

TBSの制作者が、連続ドラマで視聴者の心をつかむコツのようなものを会得したといえるようになるのは、90年代に入ってからのことではないだろうか。

ドラマ「ずっとあなたが好きだった」は、前回取り上げたTBSドラマ「愛していると言ってくれ」豊川悦司と常盤貴子が主演で主題歌はドリカム!など、後にいくつもの大ヒットドラマに携わったプロデューサー・貴島誠一郎が手掛けた2作目の作品である。これに先駆けて担当した前作「結婚したい男たち」では、フジテレビのドラマ「抱きしめたい!」や「ハートに火をつけて」などを手掛けた脚本家、松原敏春を起用しながら、相応しい結果が出せなかったことの反省から、TBSのドラマとしてのカラーを打ち出しながら取り組んでいくべきか、コンセプトを練り直して制作に臨んだと言われている。

当時「フジテレビのドラマでは結婚式は行われない」との定説があり、それは物語の主なテーマが “都会の独身男女による洒落た恋愛ドラマ” であったことに由来する。まして実家の両親や家族といった登場人物が介在することはない。ゴールを “結婚” に据えたりせず、せいぜい “恋愛の成就” 程度に止めておかなければ世界観が損なわれてしまうからだ。

故に「TBSらしさの原点はホームドラマ」との発想はその “アンチトレンディ” の考え方に基づいている。物語の軸はあくまで主人公の “恋愛” に置きつつも、彼らの素性や家族を丁寧に描きながらストーリーを展開する。だからこそあえて、この作品では物語の起点をあえて “結婚” に置いたともいえる。

佐野史郎、役名が “マザコン” の代名詞にもなるほどの怪演ぶり


役割を担ったのは賀来千香子と布施博という、ガチのトレンディコンビである。美人なのに優柔不断で恋愛下手なキャラクターを演じてきた賀来と、一見体育会系ながら、どこか軽薄な三枚目の布施は、例えるなら主演格のW浅野や、織田裕二、吉田栄作、加勢大周といったトレンディ御三家たちの周りを彩る引き立て役のような存在であった。

両親世代のキャストは物語の重石のようなものだ。野際陽子、橋爪功の両名は貴島氏の作品に欠かせない存在であり、多くのドラマで脇を固める役割を担っている。彼らのプレゼンスはいつも視聴者にリアリティを呼び起こさせる。

そしてこのドラマのあり様を大きく変えてしまった最重要キャスト、本来主人公に望まれることがなかった結婚相手… 役名 “桂田冬彦”。当時、“冬彦さん” と呼ばれ、空前のブームを引き起こした俳優・佐野史郎の怪演ぶりである。

ⓒTBS


当時その役名が “マザコン” の代名詞にもなるほどのインパクトを視聴者に与えることになるのだが、あれ程の奇行は当初から想定されていたものではなく、そもそもマザコンの設定すら明確ではなかったという。

物語の序盤、ふと転んだはずみで負傷した彼の手指を母親役の野際が傷口を塞ぐように口に含み、それに呼応するように佐野がその指を咥えるというアドリブ演技に感じ入った貴島氏が思いつきの判断で推し進めたのである。

賀来演じる美和と冬彦の新たな生活が始まると、初めは食事の味付けに関する小言程度のほころびだった違和感が、回を重ねるごとに大きくなり、次第と耐え難いものになっていく。セックスレスをはじめとする諸々の拒絶行動、付きまとい… その強い執着の裏側にまさか深い愛情が潜んでいるとは、なかなか思い至ることができない。

猟奇性を際立たせる蝶の標本のコレクションや幼児退行をうかがわせる木馬、子供がぐずるような唸り声… これらすべてのモチーフが撮影現場から生まれたアイデアを集積させたものらしい。視聴者からの反響が強まるほど新しい発想を積み上げて “冬彦さん” のキャラクターをエスカレートさせていった。貴島作品はこうした制作現場のフレキシブルな対応から勝ちパターンを少しずつ掴み取っていった。

“寝取る男” の正義を描く、脚本家 君塚良一が担った重要なミッション


トレンディドラマの制作者たちが得た視聴者の心を掴むコツ… その1つは大衆の期待に応じてストーリーを書き変える事であり、それを辞さない覚悟を持つことであった。何より脚本家たちの協力がなければ、決して実現することはできない。だがこの作品の脚本を書いた君塚良一には、それを受け容れることができた。彼の経歴がそれを可能にする見識とフレキシビリティを育んでいたからである。

彼はテレビ制作者としてのキャリアを萩本欽一が主催する制作者集団「パジャマ党」でスタートさせる。そこで主に経験したバラエティ番組の現場は、視聴者からの反響が振るわなければ企画の即落ちもあり得る厳しさに塗れていた。

近年の君塚脚本の代表作でもある、警察を舞台にした数々のエンタテインメント作品等では、いずれも個性の強いキャラクターが度々登場しては、物語の行方を左右することがある。当初は「ロミオとジュリエット」のようなラブストーリーを意識して執筆を始めたこの作品でも、次第に視聴者の求めに応えるように作品をまとめていく。機を見るに敏な制作スタンスは、おそらく彼のキャリアによって培われていったものなのだろう。

課題もあった。不幸な結婚生活を乗り越え、真実の愛をつかむという純愛劇は、視点を変えれば現代風に言い換えれば “NTR” な展開…。不倫略奪愛ということになり、これでは主人公カップルに対する視聴者の見方も賛否両論、万人の支持を得ようというのは至難の業というものだ。貴島、君塚のコンビは寝取る側の男の正当性を誇示すべく、“冬彦さん” の特異性を一層際立たせる方向に舵を切っていく。

こうなるとバラエティの現場で鍛え上げられた君塚のペンは冴え、佐野は舞台で培った実力を活かしエキセントリックなパフォーマンスを魅せつけていく。逆説的なアプローチではあったが、マザコンという偏愛ストーリーを隠れ蓑にした純愛ドラマはこうして完遂される。番組スタート時には13.0%だった視聴率は最終回で34.1%という高視聴率を記録する。

主題歌「涙のキッス」は、大人目線で描かれた平成版「いとしのエリー」だった




同ドラマで主題歌を提供したサザンオールスターズは、2023年の今年、メジャーデビュー45周年を迎えた。これほどまで長い年数を第一線で活躍し続けるまさにモンスター、言わずと知れた日本を代表する国民的ロックバンドである。1992年当時、キャリア15年目を前に充実の時を迎えていたのだが、意外なことにそれまでシングルでミリオンセールスを記録したことはなかった。

同じTBS金曜22時のドラマといえば1987年「ふぞろいの林檎たち」では、すでに既存曲であった「いとしのエリー」が主題歌に起用されていたが、本作品「涙のキッス」は桑田佳祐が初めてドラマのために書き下ろした楽曲としても当時話題を呼んだ。

オリジナル曲として書き下ろすにあたっては、ドラマの内容を事前に知らなければならない。桑田も事前に企画書に目を通して楽曲の制作に入ったが、その内容が当初と大きく違ったものとなっていったのは先に述べた通りである。

桑田自身、純愛ドラマと思って曲を書いたつもりだったのに、とんでもないマザコンドラマの楽曲になってしまったと後に語っていたとのことだが、作品としてはまさに会心作となった。放映開始の翌週に新曲としてリリースされると瞬く間にヒットチャートの1位を獲得、7週にわたってその座を守り続け、その夏最大のヒット曲となった。最終的に154万枚を売り上げる大ヒットとなったが、これは数多あるサザンの代表曲の中でも「TSUNAMI」「エロティカセブン」に次ぐ3番目の記録である。

なお貴島氏は主題歌を依頼するにあたって、平成版「いとしのエリー」を作ってほしいと語ったそうである。それは純粋に「人々に長い間歌い継がれるような楽曲を」との思いから発せられた言葉であって、果たしてその出来栄えは期待を大きく超えるものであった。桑田自身30代からの大人の恋愛を意識したというこの楽曲は、今まさに自分の元を去ろうとする恋人を見つめる男性の視点で描かれており、まさしくかつての「いとしのエリー」を彷彿とさせるラブバラードとなっている。

 今すぐ逢って見つめる素振りをしてみても
 なぜに黙って心離れてしまう?
(涙のキッス)

 二人がもしもさめて 目を見りゃつれなくて
 人に言えず思い出だけがつのれば
 言葉に詰まるようじゃ恋は終わりね
(いとしのエリー)

フレーズが対になって聴こえるのは、果たして偶然だろうか。

「涙のキッス もう一度 誰よりも愛してる」と語りかけた相手と、15年前「エリー My love so sweet」と歌った相手にはきっと重なる面影があるのだろう。

ラストで明かされる「ずっとあなたが好きだった」という言葉の意味


ⓒTBS


さて、タイトルコールというわけではないが、まるでセリフの一部のようなドラマのタイトルが付けられている場合、その重要な一言はいったい物語のどのパートに配置されているか見つけ出すのは、私にようなドラマウォッチャーにとっていわゆる1つの “伏線回収” を探る愉しみでもある。

「ずっとあなたが好きだった」というぐらいだから、それはもちろん数々の困難を乗り越えて、主人公がようやく意中の相手との “初恋” がまさに実らんとするその瞬間に放たれるセリフである。二人は過去にある出来事がきっかけでやむなく関係を絶たれた経験を持っているから、その時からどれほどの時間が経過したかでセリフが持つ意味の重さが変わってくるというものだ。

だが主人公の他にもう1人このセリフに絡んで、秘めた思いを抱いている登場人物がいたことを我々は知ることになる…。

このコラムでそれを明かすのは無粋であるから、ご存じない方のために詳細は伏せるが、何故 “冬彦さん” が主人公である美和に固執してストーカーまがいの行為を繰り返すのか、という疑念への回答にもなっている。本来脇役であった冬彦を当初の想定以上にフィーチャーしたことで成功を得た制作陣から “冬彦さん” に対する感謝の念が込められていたように思う。終始奇異に映った彼の行動を理解し、最後に愛すべき側面があったという設定を付け加えたことで、彼も視聴者も救われ、視聴後にどこか温かい気持ちにさせられた。主人公だけのハッピーエンドではなく、すべての登場人物にもその後の人生があったことを示唆したことで、この作品は人々の記憶に残る作品になったのだろう。

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2023.11.17
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カタリベ
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