【Y2Kリバイバル】ちゅらさん
朝ドラ史上初、沖縄県が舞台に
和也「なぁ、文也、えりぃ」
恵里「なに?」
和也「お前たちさぁ、いつか結婚しろよ」
文也「冗談やめろって」
和也「冗談じゃないよ、本気だよ。オレのお願いだ。な、えりぃ?」
恵里「私は… オーケーさ」
和也「文也はどうなんだよ。イヤなのか?」
文也「そんな… イヤってことじゃないけど…」
和也「よし、じゃあ決まりだな。約束だぞ」
―― これは、2001年4月にスタートしたNHK朝ドラ(連続テレビ小説)『ちゅらさん』の第1週の1コマである。同ドラマは、朝ドラ史上初の沖縄県が舞台。時に1983年11月―― 沖縄・八重山列島の小浜島で民宿を営む古波蔵(こはぐら)一家のもとに、東京から上村和也(遠藤雄弥)・文也(山内秀一)兄弟とその母・静子(真野響子)がやってくる。兄・和也は不死の病に侵され、その療養が目的だった。
“えりぃ” こと、ヒロイン・古波蔵恵里は、沖縄が本土復帰した日(1972年5月15日)に生まれた11歳の活発な女の子。豊かな自然に恵まれた地元・小浜島を世界で一番好きと公言し、明るく真っ直ぐに育った。一家は、陽気な三味線好きの父・恵文(堺正章)と、しっかり者の母・勝子(田中好子)、生意気盛りの弟・恵達に、 “おばぁ” こと祖母のハナ(平良とみ)の5人暮らしである。
「ちゅらさん」子役期間のリアリティ
恵里は年の近い和也と文也とすぐに打ち解けた。毎日、2人を連れて島の方々で夕刻まで遊び、語り合った。ある時、森で巨大なガジュマルの木に遭遇した際には、昔からガジュマルの木に宿るとされる妖精 “キジムナー” の伝承を兄弟に教えた。近しくなった人間には、幸運や富をもたらしてくれるという。
恵里「いたずら好きだけど、ホントはいい子。私たちのこと、見守ってくれてるかもしれないよ」
和也「キジムナーね… 」
文也「信じるの?」
和也「(笑顔で)信じるよ」
そんなある日、和也が無人島へ行きたいと言い出し、恵里の父・恵文の計らいで、皆で出かけることに――。島に着き、海を眺めながら浜辺でくつろぐ一行。穏やかな時間が流れる。その時、不意に和也が一人、海の中へと歩いていく。浜辺で見ている母・静子の顔が曇る。と、その瞬間―― 和也は振り返ると笑顔で水をかき上げ、大声で叫んだ―― “気持ちいいね!” 。それを合図に、他の子どもたちも海に入り、水をかけあって遊ぶ。その様子を手持ちのカメラで一心に撮る静子――。冒頭の会話は、その日の夜、日が暮れて、焚火に照らされた浜辺に座り、3人で語り合ったものである。翌日、和也は息を引き取った。
数日後、恵里と文也は、海が見える丘の上に “和也の木” と名付けたガジュマルの苗木を植える。そして恵里は、東京へ帰る文也に手作りのミンサー織りのお守りを渡し、お返しに文也から綺麗なスーパーボールをもらう。いよいよ、文也一家を乗せた船が港を離れる日―― 恵里は泣きながら防波堤を走った。“結婚しようねー! いつか、大人になったら…” その声に、船上から必死で手を振り返す和也――。
ドラマ『ちゅらさん』の子役期間は、他の朝ドラ同様、1週間である。それにしても、子役時代の恵里を演じた浦野未来サンと、成長した恵里役の国仲涼子サンの似ているコト! 普通の朝ドラなら1週間の子役期間に、そこまでのリアリティは求めない。同ドラマが妥協しなかった理由の1つは―― 国仲涼子という稀代の新人女優への期待値の表れだろう。事実、彼女は2,132人のオーディションから選ばれた、朝ドラ史上初の沖縄出身のヒロイン。その透明感と天性の明るさはずば抜けていた。それゆえ、自ずと子役のキャスティングにも力が入ったと―― 。
「タッチ」へのオマージュ
そして、子役期間を丁寧に作った、もう1つの理由―― その1週間が、同ドラマにおいて極めて重要だからである。ここまで読んだ皆さんなら、とうにお気づきだとは思うが、2人の兄弟と恵里が織り成す三角関係に始まり、兄・和也が亡くなり、弟・文也がその遺志を引き継ぐストーリー、そして何より “和也” という名前――そう、マンガ『タッチ』(作:あだち充)へのオマージュである。同マンガ、全26巻のうち上杉和也が亡くなるのは7巻目と、意外と早いが、印象度で言えば、全話の半分ほどを占めると感じたくらい、密度が濃かった。『ちゅらさん』が子役期間の1週間を丁寧に作ったのは、オマージュ元を思えば当然だろう。
同ドラマの脚本は、岡田惠和サンである。実際、彼はあるインタビューでこう答えている。 “自分の物書きとしての土台は、あだち充さんと高橋留美子さんです。『タッチ』と『めぞん一刻』には、どんな小説や映画よりも影響を受けていると思いますね” ―― おっと、タイトルが出てきたついでに付け加えると、恵里が高校卒業後に上京して暮らす “一風館” なるアパートと、ソコに暮らす個性豊かな住人たちの舞台設定もまた、かの『めぞん一刻』(作:高橋留美子)の “一刻館” へのオマージュである。
ちなみに、同館の住人を演じた役者陣も個性豊かで、コーヒー好きの老管理人をベテラン女優の丹阿弥谷津子サン、元外科医で部屋に引きこもってオペラのレコードを聴く頑固オヤジを北村和夫サン、豪快な性格でアネゴ肌のOLを余貴美子サン、“あんた、バカぁ?” が口癖の毒舌で皮肉屋のメルヘン小説家を菅野美穂サンがそれぞれ演じている。
主題歌は沖縄出身の2人組の女性ユニットKiroro「Best Friend」
ドラマ『ちゅらさん』は、朝ドラ初の沖縄県が舞台の作品である。沖縄と言えば―― 1990年代後半、安室奈美恵を始め、SPEED、MAX、DA PUMPら沖縄アクターズスクール出身のアーティストがチャートを席巻、放送前年の2000年には『九州・沖縄サミット』(第26回主要国首脳会議)が開催され、そのタイミングで首里城の守礼門がデザインされた新紙幣の二千円札も発行されるなど、まさにY2Kの時代―― 何かと “沖縄” にスポットライトが当たった。同県が舞台の朝ドラが作られるのは半ば必然だったとも。ゆえに、ヒロインを始め、何かと沖縄出身者たちが多数起用されたのも、同ドラマの特徴である。それは主題歌も例外ではなかった。
もう大丈夫心配ないと
泣きそうな私の側で
いつも変わらない笑顔で
ささやいてくれた
―― そう、主題歌の「Best Friend」(作詞・作曲:玉城千春)は、沖縄出身の2人組の女性ユニットKiroroの10枚目のシングル。タイトルの通り、友情ソングだ。作詞・作曲を務める玉城千春サンが、相棒のピアノ担当の金城綾乃サンに感謝の気持ちを綴った曲と言われる。その意味で、ヒロイン・恵里が幾度となく人生の壁にぶつかる度に、絶妙な距離感で寄り添ってくれる “一風館” の住人たちを彷彿とさせる。まさに、同ドラマを象徴する楽曲である。
沖縄出身の出演者たち。そして数々の名言を残した “おばぁ”
ちなみに、同ドラマに出演した沖縄出身者たちは―― 一攫千金を夢見て製作したものの全く売れず、 “ゴーヤーマン” の大量在庫を抱える、恵里の兄・恵尚役のガレッジセールのゴリさんを始め、その親友でプラスチック工場を営む島袋役に相方の川田サン、高校時代の恵里がマネージャーを務めた野球部のキャプテン・誠にDA PUMPの宮良忍サン、そして上京した恵里がアルバイトをする沖縄料理店「ゆがふ」の常連客に、ダチョウ倶楽部のリーダー・肥後サン、BEGINのボーカル・比嘉栄昇サン等々。同店にはKiroroの2人も来店した。
そうそう、恵里の弟・恵達の青年時代を演じた山田孝之サンもルーツは沖縄と言われる(あの体毛の濃さは間違いない)。劇中、恵達は高校を中退してロックミュージシャンを目指すが、彼がギタリストとして所属するバンドをプロデュースした我那覇猛(がなは たけし)役の川平慈英サンもまた、沖縄出身である。
そして―― 極めつけは、同ドラマでナレーションも務めた “おばぁ" こと、恵里の祖母のハナを演じた平良とみサンだろう。生粋のウチナーンチュ(沖縄の地元民)で、夫婦で立ち上げた地元の劇団で50年以上のキャリアを持つ沖縄芝居の第一人者。リアルの愛称も “おばぁ” であり、もはや役なのか素なのか分からないところも凄い。そんな “おばぁ” は同ドラマでも数々の名言を残している。
「なんくるないさぁ(なんとかなるさ)」
「人間は、きっと死んでからのほうが長いかもしれないねぇ」
「命どぅ宝… 沖縄の言葉さ。何よりも人の命が一番大切ということさぁ」
奇跡が起こるクライマックス
『ちゅらさん』のクライマックスは、子ども時代に文也と交わした約束が忘れられず、上京して紆余曲折ありながら、やがて看護婦になる道を選択した恵里――。そんな彼女が、兄・和也の死をきっかけに医師になる道を選んだ文也(小橋賢児)と再会し、告白するシーンだ。だが、年月の経過は、恵里に非情な現実を突きつける。
夢を諦め、過去と決別する道を選ぶ恵里。だが、それは彼女の本心じゃなかった。そんな彼女に “一風館” の住民たちは、あえて普段と変わらない体で明るく接する。そして、メルヘン小説家の真理亜は、半ば強引に恵里を郷里の小浜島に連れ出す。行先は、あの “和也の木” がある丘の上だ。そして―― 奇跡が起きる。
子どものころ、恵里と和也と文也の3人で、森で巨大なガジュマルの木に遭遇した時、恵里が話した、近しくなった人間に幸せをもたらしてくれる妖精キジムナーの伝承を文也はいぶかしみ、和也は “信じるよ” と笑顔で返した。
でも―― 文也も信じていたのである。
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2026.06.27