3月21日

六甲の大江千里と世田谷の都立松原高校【清水信之・EPO・佐橋佳幸・渡辺美里】

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photo:SonyMusic  

1985年の年明け、私は半年以上かかって運転免許証をやっと手にした。大学1回生の夏休みに教習所に通い始めてから半年が経っていた。

4本の電車とバスを乗り継ぎ2時間かけて通う大学、デパート家電売場やスナックでのアルバイト、エレクトーンのレッスン、女子大1回生の必須科目である合コン、そしてデートや友人とのお茶などに明け暮れてなかなか教習が進まなかった上に、最後は明石の試験場で2回も筆記試験に落ちたから仕方がない。

その移動中にウォークマンでよく聴いていたアーティストのひとりが、大江千里だった。

自宅近所の関西学院大学の中央芝生に居そうなオシャレなメガネ男子が、私のテリトリーの神戸や阪神間を舞台に、私たちの日常とココロの中を覗き見したようなリアルとファンタジーを切り取った詞を書いて、どこかに必ず引っかかりのあるメロディに載せて、ハスキーな声で歌う。コーラスで EPO の声が聴こえるのもチャーミング。六甲山の麓で同じ風景を見ている人が作った歌は、私にとって少し特別なものだった。

1984年11月にシングルで発売された「十人十色」。アレンジャークレジットは清水信之。それまでの大村憲司プロデュース・アレンジの千里ちゃんの曲とは少し毛色が変わって、よりソリッドなロックに寄せたサウンドになっていた。イントロのギターの音色がざくっと鋭くて勢いを感じた。

弾いているのは UGUISS を解散した頃の佐橋佳幸。都立松原高校で清水信之、EPOの後輩、その後大江千里が曲を提供する渡辺美里の先輩にあたる。

渡辺美里といえば、1985年の大江千里『未成年』のレコーディング時にデビュー前の彼女がスタジオで見学しており、これが清水信之と渡辺美里の出会いとなった。

2015年発売の清水信之アレンジャー歴35周年記念アルバム『LIFE IS A SONG』のライナーノートによると、大江千里が清水信之にアレンジを依頼しようと EPO に相談したところ、「自分で言ったほうがいい」とアドバイスを受け、清水信之が EPO と一緒に参加していたグリーンピア三木でのイベントの移動の車で、マネージャーを通して清水信之に「十人十色のアレンジをやってもらえないか」と頼んだのがはじまりだという。はじめてこのふたりがレコーディングしたのは「真冬のランドリエ」(「十人十色」のc/w)、1984年の話だ。


 十人十色 ぼくを選んだこと後悔させない
 十人十色 きっと世界一の幸せにさせる


女の子でも男の子でも、好きな人に言われたいことば。
こんなことを好きな人に言われたら、キュンキュンしてしまう。
決めてきたな、これは売れるな。18歳の子供なりにそう思った。

大江千里「Sloppy Joe Ⅱ」のライナーノートによると、このサビの詩を作ろうと思って当時電話で EPO に話したら、「あら、いいじゃない」と言われて、「そういうものか」と思って作った曲だそうだ。


明石の試験場で免許証を手にした日、迎えに来た4つ上の彼のクルマで、そのまま日本海へドライブに向かった。それまで彼のクルマでは自分のカセットはかけたことはなかったが、その日は思い切って、ウォークマンから大江千里のカセットを出してカーステレオにセットした。

「曲はいいけど声があまりにも個性的すぎる」運転していた彼は途中でブチっと止めて別のテープに変えてしまった。明石から日本海までは随分かかったと思うが、その後のことは覚えてない。ただ彼とはそれからも数年付き合って、同じ学校に通い、飼っていた猫の生んだ仔猫を1匹里子に出して別れた。

音楽の趣味は時々合わない彼とつきあいつつ、私は大江千里を引き続き聴いていた。ウォークマンで、部屋のラジカセで、自分で運転する車のカーステレオで。

清水信之がアレンジャーとしてクレジットされたアルバムは、1985年3月21日発売『未成年』1985年12月4日発売『乳房』と続き、その後は大村雅朗さんのアレンジした名作3作品を挟み、1989年の『Red Monkey Yellow Fish』以降復活することになる。

清水信之と佐橋佳幸のレコーディング時のやりとりが『LIFE IS A SONG』のライナーノートに載っており、情景が浮かぶので、最後に引用して載せておく。大江千里「REAL」の項に記載されていたので、おそらく REAL であったことだろう。


清水「佐橋ギター貸せ」
佐橋「はい」
清水ギター弾く、
清水「今弾いてるの覚えろ」
佐橋「了解です」


高校の頃から今でも変わらないスタイルだそう。

2018年1月に『EPO ×佐橋佳幸×清水信之 “My Generation, Your Generation” おとな文化祭』とタイトルされたライブをビルボードライブ東京で観たが、EPO も含めて本当に仲良しの先輩後輩というのがよくわかる。先のやりとりを思い出した私は、ステージを観ながら一人笑っていた。

2019.08.19
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カタリベ
1965年生まれ
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