平成で最もカラオケで歌われた、高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」
JOYSOUNDが発表した『平成で最もカラオケで歌われた曲ランキング』で総合1位だったのは、高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」であった。ご存知『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌である。TVシリーズの放送から30年足らず、この曲がどうして国民的ヒットソングになったのだろうか。自分との関わりを振り返りながら、探っていきたいと思う。
『新世紀エヴァンゲリオン』の本放送が始まった1995年10月は、自分にとっては、就職活動も終盤に差し掛かっていた大学四回生の秋だった。就職浪人も視野に入れながら、最後のあがきで何社か最終試験を受けるような、そんなタイミングだった。
そんな時期に、しかも夕方18時30分からの放送ということもあり、実はリアルタイムで“エヴァ”の放送は見ていなかった。これは同世代の人では意外と多いのではないだろうか。
それでも「なんか凄いアニメがやっているらしい」という噂は耳に入っていた。そして「人類補完計画」「使徒」「シンクロ率」など、謎めいたワードだけが伝え漏れてきていた。しかし、現在のように動画配信やSNSが普及しておらず、ネタバレや考察サイトなどなかった時代、後追いで確認をするには手段が乏しかった。
謎めく新世紀エヴァンゲリオンの世界 “テーゼ” “パトス” “宇宙(そら)”
主題歌の「残酷な天使のテーゼ」に関しても同様だ。サブスクはもちろん、まだケータイの普及もまだの頃なので、音源に触れるには、TVの歌番組か街で流れてくる有線かCDを借りてくるしかなかった。それでもサビのこのフレーズだけはよく耳にしたものだった。
残酷な天使のテーゼ 窓辺からやがて飛び立つ
ほとばしる熱いパトスで 思い出を裏切るなら
この宇宙(そら)を抱いて輝く 少年よ神話になれ
テーゼってなんやねん?
パトスってなんやねん?
―― 謎が謎を呼ぶ意味深で哲学的なワードが並ぶその歌詞は、まだ見ぬ “エヴァ” の世界をさらに謎めいたものにし、強く印象に残るものだった。
その後劇場版の公開など、社会現象化しつつあった『新世紀エヴァンゲリオン』だったが、自分自身は、すごく気になりながらも、なんとなくブームに乗り遅れた感もあり、敢えて距離をとっていた。
世代の壁を超えた “アンセム” になった数々のきっかけとは
そんな自分が本格的に “エヴァ” TVシリーズに触れたのは、TV本放送から10年以上が経ち、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』公開に合わせて実施された深夜の再放送だった。ここで30代半ばにして初めて「残酷な天使のテーゼ」が流れるオープニング映像を見ることになる。
意味ありげに浮かび上がる宗教画のような文様、次々にインサートされるサブリミナル効果を生み出すような文字、曲に合わせてテンポのいいカット割りで入り込む登場人物たち… まさに “シンクロ率100%” の映像にどっぷりと魅せられてしまった。
そこから自分は時間を取り戻すかのように “エヴァ” の世界にハマっていく。自分が “エヴァ” に取り込まれていくのに合わせて、“エヴァ” は国民的メガヒットコンテンツに成長を遂げ、「残酷な天使のテーゼ」もアニメファンの垣根、世代の壁を超えた “アンセム” へと変わっていった。
一方で「残酷な天使のテーゼ」が老若男女に受け入れられた背景として、パチンコの「CR新世紀エヴァンゲリオン」の影響も大きいと思う。大当たり時に流れる「残酷な天使のテーゼ」は高揚感がハンパなく、ドーパミンがドバドバと溢れ出てくる演出だ。パチンコがきっかけで、“エヴァ” を知らない世代や触れてこなかった層にも、この曲はかなり浸透したのではないかと思われる。
エヴァの世界にシンクロさせた及川眠子の詞
ではなぜこの曲が、全世代に受け入れられ30年近くも人気を得ているのだろう。自分はその歌詞に秘訣があるのではないかと考えている。
作詞家の及川眠子が、未完成の作品をチラッと見ただけで、細かな設定や内容をほぼ見ないでこの歌詞を作った―― というのは有名なエピソードだが、それでいてここまで “エヴァ” の世界観に “シンクロ” しているのは、まさに奇跡ともいえる。
“中二病”という言葉がある。Wikipediaによれば、
「中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動」を自虐する語。転じて、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラング。
―― とある。
この中二病の時に思わず口に出してしまいたくなるような難解な言葉、カッコをつけたワードがこの曲の歌詞には散りばめられている。前述の「テーゼ」や「パトス」がその代表であり、他にも「宇宙」と書いて「そら」と読むなど、青臭くも美しい言葉が並んでいる。
そして中二=14歳は、エヴァンゲリオンのパイロットである “チルドレン” の年齢と同じなのである。
及川氏は作詞に当たり、高橋洋子が歌うので、14歳の子供の立場ではなく母親の心情を書いたということだが、TVシリーズのオープニングやパチンコの大当たりで感じる高揚感を考えると、我々はこの曲を歌っている時には、まさに14歳の思春期に戻った感覚を得ているのではないだろうか。そしてそれこそが「残酷な天使のテーゼ」が世代を超えて受け入れられる要因なのではないかと思う。
私たちはこれからも “チルドレン” として、この曲を歌い継いでいくのではないだろうか。
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2022.08.28