山口百恵の引退と松田聖子のデビューが鮮やかに交差した1980年、アイドル界は一新された
僅か10年の隔たりしかなく、地続きのものであるにも拘わらず、70年代アイドルと80年代アイドルとではだいぶ印象が違う。時代背景が異なるのはもちろんだが、デビューに至る経緯、芸能界における位置付け、楽曲の音色まで、あらゆるものが変わった。山口百恵の引退と松田聖子のデビューが鮮やかに交差した1980年を境に、アイドル界は一新されたのだ。
一口に80年代アイドルといっても、84年以前と85年以降ではまた違った世界が展開されていたわけで、時代を巡りながらのアイドルの考察はたまらなく楽しい。「アイドル総選挙」と銘打たれた今回の企画も幅広い世代から寄せられるであろう投票の結果が非常に興味深いところだ。ここでは80年代アイドル・マイベスト10を独断と偏見で選ばせてもらった。自分がまだ10代だった1984年デビュー組までに留まってしまったのは、あくまでも個人の趣向。決して客観性を考慮したランキングではないことをお断りしておく。
第10位:柏原よしえ
『スター誕生!』の決戦大会で審査員の阿久悠に「大物かもしれない」と言わしめたのは、未曾有の才能を秘めていた証拠。デビュー時にはまだ14歳にも拘わらず不思議な色気があった。ブレイクしたカヴァー曲「ハロー・グッバイ」のカップリング「恋はマシュマロ」が無性に好きだった。岡田冨美子の詞が素晴らしい。
“柏原芳恵” に改名して以降はシンガーソングライターからの楽曲提供が目立つようになる。谷村新司「花梨」はとりわけ好きな1曲だが、その後の「春なのに」の大ヒットで、「カム・フラージュ」「最愛」「ロンリー・カナリア」と中島みゆき作品が多くなり、表現力が一段と増したような気がする。
第9位:河合奈保子
果てしなく素直で純情無垢な印象。そのキャラクター性は当時漫画にもなった。後のグラビアアイドルの如く惜しげもなく水着姿をふんだんに披露してくれたのも屈託のない性格ゆえであったろうか。
楽曲にもそれは反映され、デビューから2年ほどはひたすら開放的で明るい曲が続いた。変わり目はやはり、竹内まりやが供した「けんかをやめて」ということになる。筒美京平や林哲司の作品を経てどんどん大人の階段を上り、やがて自ら作曲するようになっていった。個人的なベストワンはずっと変わらず「スマイル・フォー・ミー」だ。
第8位:浜田朱里
恵まれたルックスで大人っぽい雰囲気。ポスト山口百恵と呼ばれたが、アイドルとして今ひとつ伸び悩んでしまったのは、実際に仲もよかったという松田聖子とレーベルメイトだったこともあるかもしれない。
どうしても暗めの曲が先行してしまい決め手となるヒットが生まれなかったのは残念。山口百恵で言えば「乙女座 宮」や「夢先案内人」の様なレパートリーを聴きたかった。天地真理の「想い出のセレナーデ」をカヴァーした時に出された同タイトルのアルバムに収録された「みずいろの手紙」や「芽ばえ」はとてもよかった。
第7位:小泉今日子
『スター誕生!』の決戦大会で「彼が初恋」を歌ったのは、なんと的確な選曲であったことか。三人姉妹の末っ子とは思えないしっかり者で自己プロデュースにも長けていた。自らの判断でいきなりショートカットにしたのがターニングポイント。別人のように溌剌とした振舞いになり、筒美京平らが手がけたヒット曲を連発した。
いち早くリリースした12インチやリミックスなど、アイドルの域を超えた自由なアプローチは、聖子、明菜に次ぐポジションであったからこそ。ある意味アンチテーゼ的な意味合いの「なんてったってアイドル」がアイドル期の代表作とされてしまうのはどうかと思うのだが。
第6位:中森明菜
ひんしゅくを覚悟で正直なことを言ってしまうと、あまり好みのタイプの歌手ではなかった。しかしずば抜けた歌唱力と存在感には抗えず、時折見せる女の子らしい可愛い表情にも魅せられて、レコードが出る度に買っていたのもたしか。
完全に屈服させられたのが「北ウイング」だった。アーバン系アイドルポップスの最高峰ともいうべき林哲司の曲とアレンジが素晴らしく、それを気高く完璧に表現した中森の歌唱は凄いとしか言いようがない。
2度目に強く惹きつけられたのは井上陽水が提供した「飾りじゃないのよ涙は」。歌う姿も美しかった。同曲を含む『BITTER AND SWEET』は一番好きなアルバムだ。
第5位:松本伊代
なんと言っても個性的な声の魅力に尽きる。ビジュアル先行で認識し、初めて歌声を聴いた時はそのギャップに少し驚かされた。しかしその声に惚れて、筒美京平は多くの傑作を提供したのだろう。デビュー曲「センチメンタル・ジャーニー」はアイドルポップスのエッセンスが凝縮された完璧な作品。名前を入れ込んだ湯川れい子の詞もお見事。
ターニングポイントとなった尾崎亜美作の「時に愛は」以降の大人哀愁路線もよいのだけれど、伊代ちゃんにはやっぱり「TVの国からキラキラ」や「オトナじゃないの」ようなハジけたキューティーポップがよく似合う。
第4位:三原順子
これぞ個人的な思い入れになる。『3年B組金八先生』でファンになり、ファンクラブに入会した。真面目なオタクほど不良少女(あくまでも演技上)への憧れがあったのだ。
「セクシー・ナイト」は、けだし名曲。続編ともいえる「ド・ラ・ム」もよかったが、コカ・コーラのキャンペーンでプレゼント用に作られた「いとしのサマーボーイ」や、主演ドラマ『GOGO! チアガール』の主題歌「Let's go! 青春」のような明るい曲では違う一面が見られた。山口百恵のトリビュート・アルバムで「愛の嵐」をカヴァーしているのも見逃せない。
第3位:菊池桃子
アイドル界で一番天使に近い存在だと思っている。ずっと変わらない慈悲深い笑顔と立ち振る舞い。優しい人柄が全身から滲み出ている。デビュー時のアイドル指数の高さも群を抜いていた。ほとんどの作曲を手がけた林哲司は初めて会った時に「この娘を芸能界に居させてはいけない」と思ったという。それなのにデビュー作が映画『パンツの穴』だったなんて…。しかし音楽世界はスタイリッシュで、現在もシティポップ支持層から高い評価を得ている。周りのひとを幸せにするオーラを持つ稀有なアイドル。「Say Yes!」はすべての人を勇気づけてくれる人生の応援歌なのだ。
第2位:薬師丸ひろ子
野性の証明』で惹き付けられ、『翔んだカップル』で完全にノックアウト。クラス全員がファンになった(男子校だったので)。同年代ということもありデビューからずっと見守り続けているアイドルというかマドンナ。
本業はあくまでも女優ながら、歌の実績も素晴らしい。来生えつこ×来生たかおの「セーラー服と機関銃」に始まり、大瀧詠一、南佳孝、ユーミン、筒美京平作品はすべて松本隆の作詞、さらに井上陽水、竹内まりや、中島みゆきと錚々たる布陣による楽曲が、気品に満ちた透明感のある美声で歌われてきた。近年のコンサートも全く素晴らしいの一語に尽きる。これからも歌い続けてくれますように。
第1位:松田聖子
極端なことを言えば、松田聖子がいたから80年代アイドルの世界が保たれ、現在も支持されているのではないだろうか。それほどまでに大きな存在。
『ザ・ベストテン』に初登場し、羽田空港からの中継で「青い珊瑚礁」を歌う彼女は姿も歌声も神がかっていた。毎週テレビにかじりついて歌番組を見ていた我々も、天賦の才能を持った新人の出現を確信したものだった。
だからこそ、その後も数々の名作を歌ってきたけれども、今も一番好きな曲は? と問われれば、迷わず「青い珊瑚礁」と答えてしまう。とにかくレベルが違うアイドルのレジェンドであり、奇跡的に今もアイドルで在り続けている。
80年代アイドル総選挙 ザ・ベスト100
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2022.12.10