スリー・ストーリーズ by Re:minder
ザ・シャムロック ① 1980年代 奇跡のロックバンド【ザ・シャムロック】配信スタート!ブリティッシュ好き必聴
ザ・シャムロック4枚のアルバムがデジタル配信スタート
1988年にメジャーデビューを果たしたロックバンド、ザ・シャムロックのデジタル配信がこの10月から解禁された。そう、入手困難だったポニーキャニオン時代のアルバム4枚が、37年の時を経ていよいよ紐解かれるのだ。
▶ Who Loves Me?(1988年)
▶ Real In Love(1989年)
▶ Hello, Hi, How Are You?(1990年)
▶ Sometimes It's Better Than Sex(1990年)
バンドサウンドの圧倒的なグルーヴを全面に打ち出しながら、ツインボーカルの山森正之と高橋一路が織りなす美しくも絶妙なコーラスワークが、ザ・シャムロックを語る上で欠くことのできない大きな魅力だ。1980年代後半の音楽シーンを見渡してみても、そういった持ち味のバンドは稀有だったし、彼らの存在は異端であった。だからこそ、サブスクリプションサービス全盛の現代にそのサウンドが蘇ることは非常に意義深い。
今も忘れることができないザ・シャムロックのクールな佇まい
彼らがメジャーデビューした前年の1987年は、バンドブーム元年と言われた年だ。ザ・ブルーハーツを筆頭に、ユニコーン、レピッシュ、BUCK-TICK、ザ・コレクターズなどが次々とメジャーデビュー、音楽的に多様なバックボーンを持ちながらも、アグレッシブでダイレクトなステージを展開する数多くのバンドがメインストリームに浮上した。その中で、練り上げたサウンドと美しいハーモニーのマリアージュで魅了するザ・シャムロックの印象は、バンドブームと一線を画すものだった。
当時、筆者もザ・シャムロックのライブに何度か足を運んだことがある。一番印象深いのは1989年7月15日、ポニーキャニオンのロックアーティストが日比谷野外音楽堂で一堂に会したイベント『AGE OF THUNDER ROAD SPECIAL “野音の地響き”』だった。この日の出演アーティストはROGUE、GO-BANGS、ザ・ロッカーズ、川村かおり、関口誠人、高橋研…… このメンツにザ・シャムロックも名を連ねていた。
この日の野音は、陣内孝則率いるザ・ロッカーズが再結成されるということで、ロックイベントならではの熱量が渦巻いていた。しかしそんな中で、夕刻に登場したザ・シャムロックのクールな佇まいを今も忘れることができない。3つボタンのスリムなモッズスーツを着て登場した山森と高橋のハーモニー、タイトなバンドサウンド、そして繊細なギターの音色が夏の空に溶けていくひとときは、真夏の昼過ぎがらスタートしていたこのイベントの中でも特別な時間だったと今も覚えている。
東京モッズシーンで数々のイベントに出演
遡ること1980年代初頭ーー ザ・シャムロックは、ザ・ブルーハーツ、ザ・コレクターズを輩出した東京モッズシーンとも深い関わりを持っていた。1960年代の英国ユースカルチャーであるモッズムーブメントの渦中にいた若者たちは、クールでスマートを身上とし、カスタマイズしたランブレッタやベスパ等のイタリアンスクーターに乗り、R&Bやノーザンソウル、さらにはザ・フーやスモール・フェイセズといった地元ロンドンのビートグループの音に酔っていた。
1980年代の東京モッズシーンにいた彼らも、1960年代のイギリスのユースカルチャーを描いた映画『さらば青春の光』(1979年)さながらに、本家英国の若者たちのライフスタイルを貫き、新宿にあったライブハウス『JAM』を拠点としたコミュニティを生み出していた。ザ・シャムロックはザ・ジャム、シークレット・アフェアなどのネオ・モッズ・バンドの影響も受けつつ、山森、高橋のツインボーカルに顕著なように、1960年代の英国ビートグループ、とりわけザ・ビートルズから大きな影響を受け、卓越したメロディセンスと巧みなコーラスワークを持ち味として、1983年頃から数々のイベントに出演していた。
今聴いても、まったく古さを感じない普遍的な音
今回、デジタル配信される4枚のアルバムは、モッズカルチャーに関わりの深いビートグループの影響下にありながら、1960年代的な音作りに拘泥しているものではない。時には、ポール・ウェラー擁するスタイル・カウンシルのようにブルーアイドソウル的な解釈も見せ、来るべき1990年代に向かい、どこまで洗練された音作りができるかという挑戦であったようにも思えるのだ。あくまでもバンドサウンドにこだわり、自分たちのルーツに忠実に生み出した、オリジナリティ溢れるメロディラインは唯一無二の存在だ。
そして、特筆すべきは、ザ・シャムロックのサウンドが極めて普遍的で、今聴いてもまったく古さを感じないことだろう。1980年代のロックシーンで大流行した “ゲート・リバーブ” による特徴的なドラムの音など、ともすれば時代を感じるサウンドが多くみられる。しかしザ・シャムロックは、そういった当時の流行に飲み込まれず、時代に左右されない普遍的な音作りを続けていたのだ。確固たるルーツを持ちながら、試行錯誤を重ねていったポニーキャニオン時代の “ザ・シャムロック・サウンド” は、日本の音楽シーンの至宝といってもいいだろう。
Re:minderでは、ザ・シャムロックのスリー・ストーリーズ(全3話)として、次回以降は山森正之と高橋一路のインタビューからその軌跡とサウンドの秘密を深掘りしていく。ご期待ください。
Informationザ・シャムロックが1988年から1990年にポニーキャニオンからリリースした4枚のアルバムがデジタル配信スタート!

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Who Loves Me?▶
Real In Love▶
Hello, Hi, How Are You?▶
Sometimes It's Better Than Sex
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2025.11.04