リレー連載【ミリオンヒッツ1996】vol.1
globe / DEPARTURES
▶ 発売:1996年1月1日
▶ 売上枚数:228.8万枚
“ラスボス ”的存在感を放つスーパーユニットglobe globeの「DEPARTURES」は4枚目のシングルとして、1996年の元旦にリリースされた。つまり、あれから丸30年の時が経ったことになる。今や中年に片足を突っ込む私も、当時は小学生であった。少し早熟な子供たちは、どんな街にも2、3店舗はあったCDショップで小室哲哉プロデュース作品を手に入れ、友達同士で貸し借りをしたものだ。お小遣いで買える流行。“TK” は、いわば子供にとっても容易に手の届くブランド品であった。
安室奈美恵が圧倒的な歌唱力、華原朋美が可憐さ、trf(現:TRF)が洗練された格好良さを武器に支持を拡大していったのに対し、globeは小室哲哉自身が前面に立ちメンバーとして名を連ねることで、成功が構造的に組み込まれた、いわば “ラスボス” 的存在感を放つスーパーユニットとして登場した。
そんなglobeのボーカリストという大役を担うKEIKOは、夢を追って上京した普通のOLだった。子供の頃から厳しいレッスンを受けた安室や、アイドルの卵として、いわゆる下積み時代を経験した華原とは異なり、22歳のときに小室主催のオーディションに出場したことで資質が見出された。そして翌年にはglobeのボーカリストとしてデビュー。その歩みはまさに平成のシンデレラストーリーである。
約230万枚という大ヒットとなった「DEPARTURES」 TKが作り出す都会的なダンスミュージックと、KEIKOの伸びのあるパワフルなボーカル。そしてモデル出身のマーク・パンサーをラップパートに据えた異色のスリーピース・ユニットとして始動したglobe。デビューシングル「Feel Like Dance」でいきなり100万枚に迫るセールスを記録すると、「Joy to the love」「SWEET PAIN」と順調にヒットを重ね、4作目となる「DEPARTURES」は売上枚数約230万枚という大ヒットとなった。
降り積もる雪の情景と募る恋心を重ね合わせ、“出発、旅立ち” という意味を持つタイトルが与えられた本曲は、『JR SKISKI』のCMタイアップ曲として書き下ろされた。CMでは、竹野内豊と江角マキコ演じる仲睦まじい恋人同士がスキーへ向かう姿が描かれているが、楽曲を通して聴けば、そこにはむしろ切なさが強く込み上げてくる。
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最小限のコードで印象的なメロディを生み出す小室哲哉 メロディーラインに目を向けると、サビでは《Fm》というマイナーコードが多用されているが、《D♭M7》というセブンスコードと組み合わせることにより、冬の寂しさと都会のハイセンスが同居する、この曲の持つ緊張感と温かみを見事に表現した構成となっている。目がまわるほどの多忙にかかわらず、限られた時間の中でこんなお洒落な音を生み出してしまう小室の才能に驚かされる。
そして、続く間奏。マーク・パンサーのラップが始まる直前に現れるのが、《Gsus4 → G → C》というコード進行である。それまでの展開からは場違いなほど明るい和音が一瞬入ることで、切なさをより増幅させる効果をもたらしている。このあたりのセンスもさすが小室といったところで、最小限のコードで印象的なメロディを生み出す技術にかけては、後にも先にも彼の右に出る者はいないだろう。
globeの代表曲という域を超え、平成を代表する楽曲に また、歌詞においても小室の秀逸な表現が炸裂する。なかでも印象的なのが、終盤に登場するこちらのフレーズ。
前髪が伸びたね 同じくらいになった
左利きにも慣れたし 風邪も治った
それまで抽象的な表現にとどまっていた2人の人物像が、 「♪前髪」「♪左利き」、そして「♪風邪」という具体的な言葉によって、一気に解像度を高める。生活感のある言葉を散りばめ、歌詞の世界を身近なものへと引き寄せる手法は、ユーミンや槇原敬之が得意とするところだ。
「DEPARTURES」では、大サビへと向かう助走の部分にこれらの言葉を配置しており、楽曲全体の切なさを引き立たせている。聴き手の注意を引き寄せ、耳を傾けさせるためのフックとして機能しているといえる。なかでも、やや唐突にも響く「♪風邪も治った」という一節は、バックで鳴っているデジタルなサウンドとのギャップも相まって、一度耳にすれば忘れがたいフレーズだ。
シングル版は約230万枚の特大ヒットを記録し、この楽曲を収録したファーストアルバム『globe』は、音楽チャート史上初となる400万枚のセールスを突破した。「DEPARTURES」はglobeの代表曲という域を超え、平成を代表する楽曲となったのだ。
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小室哲哉の音楽的才能の尖った部分が前面に出たglobe この年(1996年)のTK旋風は凄まじく、華原朋美のファーストアルバム『LOVE BRACE』は約260万枚、安室奈美恵のアルバム『SWEET 19 BLUES』は約340万枚と、プロデュース作品が軒並みメガヒットを記録。小室哲哉は時代を象徴する存在として広く注目を集め、音楽業界にとどまらず、経営者向けセミナーに講師として招かれるなど、その影響力は社会全体へと広がっていった。
私を含め、あの時代を過ごした子供たちは、音楽的な自我ーー すなわち、親の影響で聴く音楽ではなく、能動的に聴く音楽を、小室ブームの中で芽生えさせていった。だから、彼の作る音楽は新鮮な体験として記憶されている。そして、子供時代の思い出が、小室哲哉の音楽を伴って蘇ることも少なくない。
豊富な音楽の知識を独自の理論によってポップスに落とし込み、J-POPとして完成させた功績は特筆すべきものがある。私たちは知らず知らずのうちに、良質な音楽を聴くチカラを小室哲哉によって与えられたのである。特にglobeは、小室哲哉の音楽的才能の尖った部分が前面に出た、実験性と複雑さを併せ持つユニットだった。今あらためてglobeを聴いてみれば、思い出だけでなく、新たな発見があるはずだ。
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2026.01.22