1996年 2月5日

Mr.Children が歌ったフジテレビ月9主題歌「名もなき詩」はピュアなラブソングなのか?

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「Tomorrow never knows」に次ぐヒット曲、「名もなき詩」


1990年代の勝利の方程式といえば、横浜ベイスターズが誇る、五十嵐英樹と大魔神・佐々木主浩の必勝継投が最強か。いやいや中日の落合英二、岩瀬仁紀、宣銅烈もなかなかのモノだったぞ。それを言ったらオリックスの鈴木平、平井正史も忘れちゃならんよ!ところで “勝利の方程式” って言葉を最初に使ったらしい長嶋巨人は、なかなかクローザーが固定できずに苦労したんだよねぇ…… 。

ーー などという懐古系オヤジトークで遊んでいる場合ではない。何しろ今回のコラムテーマはMr.Children「名もなき詩」である。「Tomorrow never knows」に次ぐ、累計231万枚を売り上げたヒット曲にして、恐るべき完成度を誇る邦楽史に残る大傑作だ。

もし、人生の最後に聴きたい曲は何ですか?という “最後の晩餐” のような問題を出されたら、筆者は「名もなき詩」を選ぶだろう。これまで何十回、何百回、何千回も聴いてきたこの曲を、五感をフルに研ぎ澄ませてじっくりと味わうのだ。5分30秒の濃密すぎる音楽体験を経て、さぞかし安らかに最後の時を迎えられるに違いない。

奇跡と呼ぶに相応しい月9とミスチルの邂逅


今さらその歴史を振り返る必要もないかもしれないが、1990年代といえば人気アーティストとドラマ主題歌のタイアップこそが、最強の章哩の方程式だった時代だ。この時代に生まれた16曲のダブルミリオンのうち、ドラマ主題歌は過半数超えの9曲を数えるのだから、いかにその方程式が盤石だったのか一目瞭然だ。

そのうち実に6曲がフジテレビの “月9” である。テレビ視聴率とCDセールスにおいて無類の存在感を顕示した月9というドラマ枠は、紛うことなきエンタメ界の王者だった。そんな月9とのタイアップに、こちらも破竹の勢いでメガヒットを飛ばしまくっていたミスチルが抜擢されるというのだから、そりゃ当時のワクワク感は凄いものがあった。

「innocent world」以降のミスチルは、まるでスーパーマリオの無敵スターでも取ったかのような快進撃を見せていた。最初のヒット曲のインパクトを超えられないまま消えていくアーティストは少なくないが、ミスチルはそうした例には当てはまらなかった。それどころか期待値を遥かに上回るクオリティの作品を連発し、出せばミリオンが当たり前の無双状態となっていたのだ。

したがって月9とミスチルの邂逅は、まさしく 奇跡と呼ぶに相応しい出来事だった。全国民の大体3〜4人に1人が観ていた当時の月9で毎週曲が流れるのだから、これまで以上のメガヒットは約束されたも同然。果たしてミスチルが初めての月9主題歌でどんな歌を出してくるのか。誰しもが心底胸躍らせながら待っていた。

月9ドラマの主題歌とは思えないような尖った作風


ベールを脱いだ新曲は、全てが激烈だった。“NO NAME” と書かれた舌をダラリと垂らす桜井和寿のモノクロ写真が印象的なCDジャケット。「♪ちょっとくらいの汚れ物ならば 残さずに全部食べてやる」「♪君が僕を疑っているのなら この喉を切ってくれてやる」といった攻撃的な歌詞。

挙句には「♪ノータリン」というフレーズが放送コードに抵触するとかで、音楽番組で歌った時に当該箇所を「♪言葉では足りん」に改変させられるという騒動も起こった(それでも桜井は言いつけを守らず、生放送で「♪ノータリン」のまま歌ったのだが)。

おおよそ月9ドラマの主題歌とは思えないような尖った作風は、当時、心身共に疲弊し切っていたという桜井の内面的な葛藤が如実に現れており、ちょっと狼狽してしまうほどだった。栄冠も成功も地位も名誉も手にしたはずのフロントマンが抱えた闇。なぜアーティストの退廃的な感性というのは、いつの時代も人を魅了してやまないのだろう。



桜井和寿が歌うピュアな愛情に満ちたラブソング


恐ろしいのは、これだけ刺激的なフレーズを並べているにもかかわらず、この曲がとてつもなくピュアな愛情に満ちたラブソングだという点だ。Aメロ → Bメロ → Aメロに一旦戻ってサビという珍しい構成で進む曲の中で、桜井は一貫して愛の尊さを歌っている。それは、単純な恋愛感情というよりも、もっと普遍的な慈愛のようなものである。

白眉はCメロ。「名もなき詩」は、このCメロが一番好きという人もきっと沢山いるはずだ。

 絶望、失望(Down)
 何をくすぶってんだ
 愛、自由、希望、夢(勇気)
 足元をごらんよ きっと転がってるさ

と、これ以上ないほどストレートに前向きな言葉を紡いだかと思えば、15秒間の間奏を経て状況は一転。

 成り行きまかせの恋に落ち
 時には誰かを傷つけたとしても
 その度心いためるような時代じゃない
 誰かを想いやりゃあだになり
 自分の胸につきささる

ーー という、吐き捨てるような高速の絶唱は、まるで桜井自身の独白のようにも聴こえる。ドラマタイトルが『ピュア』という月9主題歌を依頼されて、これだけ感情剥き出しの楽曲を作れるのは世界広しといえども桜井くらいだろう。もはや天才なんて陳腐な域を超越した、ある種バケモノのような凄みすら感じさせる。

そして曲は大サビを迎える。ここで肝となるのが接続詞の使い方だ。上述したCメロの直後、つまり「♪自分の胸につきささる」と吐き捨てた直後に、桜井は「♪だけど」と続ける。

 だけど
 あるがままの心で生きようと願うから
 人はまた傷ついていく

感情さえもリアルに持てなくなりそうな現代社会において、誰しもが抱える “病み” と “痛み” を暴きつつ「♪だけど」不器用に生きようとする人間の健気さを照らし出す。傷つくことが分かっていながらも、あるがままの心で生きようとしてしまう矛盾。それによって時としてストレスが限界を迎え、情緒不安定になったとしても、それは決しておかしなことじゃないんだと、桜井は優しく語りかける。

 知らぬ間に築いてた 自分らしさの檻の中で
 もがいているなら誰だってそう
 僕だってそうなんだ

あけすけに人間の弱さを晒しながら、最後には全てを受け入れて寄り添うというマザーテレサのごとき慈愛。先に「名もなき詩」はラブソングだと書いたが、正確には人間讃歌と言うべきなのかもしれない。

J-POPの系譜から逸脱した突然変異的なモンスター


ドラマ放送から約1ヶ月後のタイミング(1996年2月5日)にリリースとなった「名もなき詩」は、店頭に並んだその瞬間から先例にない勢いで売れに売れまくった。それもそのはず、発売後1週間の初動売り上げは120.8万枚を記録。当時の歴代最高を塗り替える驚異的な数字を叩き出したのである。

邦楽ヒット史を見渡しても、ここまで難解な構造を持つ歌はそうは見当たらない。そもそもMr.Childrenというバンド自体が、従来の歌謡曲やJ-POPの系譜から逸脱した突然変異的なモンスターなのだが、「名もなき詩」はその数多ある楽曲の中でもとりわけ桜井のソングライターとしての才気が極に達した作品だといえよう。複雑で刺激的な歌詞であってもアコースティックなサウンドに桜井の声が乗り、小林武史のアレンジが絡み合えば超一級のポップ作品に仕上がってしまう。そこに月9ドラマの影響力が加われば、累計約231万枚という売り上げも当然の結果なのである。


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