1995年 5月21日

伊藤銀次とウルフルズ ⑩「びんぼう」に続いて大滝詠一「福生ストラット」をカバー!

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「福生ストラット」をウルフルズでカバー


1995年3月15日にリリースされたウルフルズのマキシシングル「トコトンで行こう!-Mission UNBELIEVABLE Vol.1-」の制作がはじまるとき、東芝EMIのA&Rであり、ウルフルズの担当ディレクターだった子安次郎さんがすんごいアイデアを振ってきた。

それは、なんと「びんぼう」に続いて、大滝詠一さんの「福生ストラット」をウルフルズでカバーしてはどうかという、強力なナイアガラーを自他共に認める子安さんらしいアイデア。大阪出身のウルフルズだから、福生を大阪に変えて「大阪ストラット」というのはという提案に、これはおもしろいと思わず僕は膝を打ったものだった。

ナニワの “どろソース” のようなこってりサウンドのウルフルズ


ただ、大滝さんのオリジナルバージョンはとてもおしゃれなノリのサウンドなので、これをナニワの “どろソース” のようなこってりサウンドのウルフルズでやるのはどうしたもんかと悩んだが、すぐに閃いたのは、ニューオーリンズのザ・ミーターズというグループ。泥臭くもあるがどこかオシャレなノリの彼らのレパートリーには、山というほど “○○ストラット” と名のつく曲がある。

そこでドラムのサンコンにミーターズは好き?と尋ねてみたら、なんと大好物でコピーまでしているという。おお、ラッキー‼バンドのプロデュースの場合、スタジオミュージシャンと違ってなんでもできるわけじゃないから、彼らが得意とすることにしっかり着目してそれを伸ばして使っていくのがもっとも大事なことだからだ。

そして続いてベースのジョンBに最近どんなベースを聴いてるの?と何の気なしにたずねてみると、G・ラヴ&スペシャル・ソースが好きで、彼らのファーストアルバムに収録されている「ザ・シングス・ザット・アイ・ユースト・トゥ・ドゥ 」という曲をコピーしているという。このバンドは、ジャズやブルースなどのルーツミュージックを新しい解釈でラップと融合させたような音楽を作ってシーンに登場したばかりのグループ。

ラッキーなことにこの曲のリズムはまさにミーターズの得意としていたストラット的。僕もこのバンドが気に入ってよく聞いていたので、頭の中でそのベースを鳴らしてみると、僕がイメージしていた「大阪ストラット」にぴったりのベースラン。 “OK!ジョン​​B、大阪ストラットはそのパターンでいこう!” と即、リズムの大枠の方向性が決まった。



「大阪ストラット」では、さらにストーリーを再構築


「福生ストラット」を「大阪ストラット」としてカバーする場合の一番大きな問題点は、オリジナルのほうがインスト曲に近いくらい歌詞が少ないこと。このまま福生を大阪に変えただけではあまりにも芸がなく面白みに欠ける。そこでトータスとミーティングをして、若いカップルがよくデートに行く場所を歌詞の随所に織り込んで、さらにストーリーを再構築していくことにした。

大阪の盛り場といえば、キタとミナミといわれる梅田や心斎橋。さらにその頃の大阪の若者たちがよくデートする場所として、ナポレオンフィッシュが見れる海遊館がある天保山や、東急ハンズのある江坂などの名前も織り込んで作っていくことにした。

そしてそのコンセプトで歌入れされたものが 幻の 「大阪ストラット・パートⅠ」。このバージョンはその後いろんな事情があって残念ながらリリースされることがなかった。実際にリリースされた「大阪ストラット・パートⅡ」は、大滝さんからの、“大阪の人間でないと多くの地名が入っていてもわかりにくいと” いうアドバイスを得て、梅田と心斎橋、いわゆるキタとミナミにしぼって歌を録り直したもの。

さらになんとなく入れてあった “アベックだらけ” というトータス以外のメンバーによるバックコーラスがおもしろいから、もっとあちこちに入れたらという大滝さんの提案でそれも増やすなど、幻の「大阪ストラット・パートⅠ」よりもはるかにコンパクトでキャッチーな仕上がりとなったのは、オリジナルの原作者である大滝さんの、俯瞰でみているクールな視点のおかげ。

ごまのはえで実現しなかった大滝さんと僕の共同作業が、はじめてここで、ぐるっと地球を一周して帰ってきたブーメランのように形をなしてきたようでとても感慨深いものがあったね。さて、次回はそのレコーディングで起こった奇跡のような出来事を‼

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2025.06.27
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カタリベ
1950年生まれ
伊藤銀次
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