2024年 3月24日

新作はロックに挑戦!【梶芽衣子インタビュー ①】世界中からリスペクトが止まない理由

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6年ぶりのアルバムをリリース、梶芽衣子インタビュー


数々の映画やドラマでアウトローヒロインを演じ、同時に歌手としても自身の主演映画の主題歌「怨み節」「修羅の花」などをヒットさせてきた女優・梶芽衣子。主演作『修羅雪姫』にオマージュを捧げたクエンティン・タランティーノ監督の2003年の映画『キル・ビル』で、一躍世界中から脚光を浴びる存在となり、現在も世界中のファンやクリエイターからリスペクトの対象となっているのはご存知の通り。

そんな梶芽衣子のキャリアに新たな展開が生まれたのが、昨年。イギリスのレーベル『wewantsounds』から、彼女が73年に発表したアルバム『はじき詩集(うた)』が復刻発売され、今後3年にわたって5作品の復刻が決まっている。そしてこの度3月24日に、6年ぶりのオリジナル・フルアルバム『7(セッテ)』をリリース。5月12日にはお披露目のライブも開催される。ワールドワイドに注目を集める梶芽衣子の今の心境を、ご本人と『7(セッテ)』の作編曲・プロデュースを手がけた作曲家の鈴木慎一郎を交えて、存分に語っていただいた。

ーー このたびはニューアルバム『7(セッテ)』の完成、おめでとうございます。6年ぶりの新譜ですが、このアルバムを作る契機となったことの一つに、過去の梶芽衣子さんのアルバムが、イギリスのレーベルから発売されたことがあったそうですが。

日本人が日本語で歌っているものが世界に受け入れられた


梶芽衣子(以下:梶):本当にどうしてだろうと思いました。私が昔、歌った曲の中から5枚のアルバムが選ばれて、海外での発売が決まったんです。第1弾として『はじき詩集(うた)』を出しました。彼らが日本にやってきた時にお会いしたんですが、昨日今日大学を卒業したぐらいのすごくお若い方たちなので驚いてしまって。こんな若い人たちが昔の歌謡曲、演歌をどんな風に聴いているのだろうと。例えばアーティストで言ったら誰のような感じなのかと聞いたら、矢野顕子さんだって言うんですよ。それにはビックリしました。“私、あんな天才の方の足元にも及びませんよ” と申し上げたんです。歌のタイプもジャンルも全然違うでしょう? でも彼らの耳にはそう聴こえるんだそうです。

―― ちょっとそこは日本人の感覚ではないですね。でも、今は日本の楽曲を外国人の方が発見して “これ、いいじゃないか” ということで、それが日本にフィードバックしてくる現象が多いです。シティポップのブームもそういう形で生まれたものですし。だけど、外国人が発見してすごい!となる現象に関しては、梶芽衣子さんはもう先駆者というか、『キル・ビル』の際に起こっていたことですから。

梶:でも、このことを私はすごく誇りに思っています。私がその国に出向いて歌うとか、その国の言葉でお芝居するとかではなく、日本人が日本語で歌っているものが世界に受け入れられたということですから。それでその時、スタッフに「新譜は出さないんですか?」と聞かれたんですよ。そこで、去年からお世話になっているテレビマンユニオンの杉田浩光さんに “私、歌をやりたいです” とお願いして、徳間さんにも入っていただき、今回の『7(セッテ)』の制作に至ったんです。

増村保造監督が作詞をした「恋は刺青」「真ッ紅な道」


―― 今回は、前作アルバム『追憶』に続いて作曲家・ミュージシャンの鈴木慎一郎さんが全面的に作品作りに関わっています。慎一郎さんのお父様である、すずきまさかつさんとも、梶さんは今から50年前の1974年にリリースしたアルバム『去れよ、去れよ、悲しみの調べ』を制作されていますね。



梶:あのアルバムは、下田逸郎さん、松任谷正隆さん、大野克夫さんなどすごいメンバーが集まってくれました。「怨み節」のイメージが強い私が、いきなりああいった内容のアルバムを作っちゃったから、従来のお客さんはちょっと横を向いちゃったところはありました。中身はいいけれどまだこの世界までいかないでくれ、というか、映画のイメージが強かった頃でしたから。

―― すずきまさかつさんのお仕事は、その後の美空ひばりさんの「愛燦燦」とか、石川さゆりさんの「ウイスキーが、お好きでしょ」など、演歌や歌謡曲を歌っている方に、従来とイメージの違う、洗練された楽曲を歌ってもらうようなお仕事が多かったので、梶さんのこのアルバムはその先駆的な存在だったように思います。そこでご子息の慎一郎さんがプロデュースした本作ですが、まず耳を引くのはやはり、映画監督の増村保造さんが作詞をされた「恋は刺青」「真ッ紅な道」の2曲です。この詞を受け取ったのはどういう経緯でしたか。

梶:私が主演した増村監督の映画『曽根崎心中』の前に、増村監督とは企画の相談などでしょっちゅうお会いしていたんです。ある時、入ったお店にカラオケの機械があって、監督に “梶さん、ちょっと歌ってくださいよ” ってお願いされて、何を歌えば良いか聞いたら、内藤やす子さんの「弟よ」をリクエストされて。私も内藤やす子さんの曲は好きでしたから、歌わせていただいたら監督が 「あなたはね、歌う使命感をお持ちなさい」とおっしゃるんです。急に言われたものですから私も勢いで「それなら監督、私に詞を書いてくださいよ」とお願いしちゃったんです。

そうしたら、当時の私のマネージャーに「詞を書く前に、梶くんのレコード、何枚あるか知らないけど全部送って」とおっしゃられて。それからしばらくして、送っていただいたのがこの2曲の歌詞でした。そこにはお手紙が添えられていて、《細かく、短く切って、激しく、強く、切なく、悲しく》って書かれていました。増村監督って、演出の際にそうやって演技指導されるんです。一度にそんなことできれば苦労しないんですけど(笑)。でも、きっとそういう雰囲気の歌が似合うと思ってくださったんでしょう。私、いただいたこの詞に曲をつけられる人がいたら、天才だなと思っていました。

特に「恋は刺青」は難しかった


―― それが今回、鈴木慎一郎さんの作曲で世に出ることになりましたが、歌われた手応えはいかがでしたか。

梶:とても難しかったです。シンちゃん(鈴木慎一郎)に歌詞を預けたのは、『追憶』が出るより前でしたが、今回、全面的に彼でアルバムを作ることになり、その時「あの詞に曲を付けます」と言ってくれて、それは嬉しかったですね。

鈴木慎一郎(以下:鈴木):実はメロディーはギター1本でつけてありました。それは芽衣子さんに聴かせることもなく、自分自身のチャレンジとしてやったんです。そもそも僕は詞先でやることがないので、それ自体が挑戦でした。メロディーと言葉がはまるタイミングをずっと待ち続けて、パッと浮かんだメロディーなんです。

梶:特に「恋は刺青」は難しかった。私、ふだんはメロディーがスッと入るほうなんです。でも今回は掴みどころがなくて、冒頭の “初恋” と “刺青” の部分を、どう歌えばいいのか、今回ほど悩んだことはなかったです。

ーー 増村監督以外にも、演技のお仕事で縁の深い方々が作詞された楽曲も2曲ありますね。

梶:「女…」は私がずっとレギュラー出演していたドラマ『鬼平犯科帳』でずっと一緒だったスクリプターの竹内美年子さん。「虫けらたちの数え唄」はやはり助監督から始まって、のちに監督になった酒井信行さんの作詞です。2人は京都の撮影所で同期でしたから、仲が良かったのでお願いしたところ、真面目に書いてきてくださったんです。いつ曲がついて発表されるかわからないのよ、と言っても、「そんなことはいいですから」ということで。増村監督の2曲とこの2曲の歌詞は、私はずっと宝物として預かっていたんです。

どう歌おうかと葛藤している姿も聴き手に届けられるんじゃないか





――『7(セッテ)』の収録曲は、長い梶さんの歌手キャリアの中でも、初めて歌うタイプの曲調が多いですね。ロックテイストが強く、その上、全ての曲調が違いますし。鈴木さんは作者・プロデューサーとしてどういう思いでこういう作風にされたのですか。

鈴木:ご自分なりに考えて歌ってくださるだろうという安心感があるのと、どう歌おうかと葛藤している姿も聴き手に届けられるんじゃないか、と思っていました。

―― 先ほどの増村監督や『鬼平』スタッフの方の詞以外は、全て鈴木さんの作詞ですが、その詞は現在の梶芽衣子さんの心境を代弁しているかのような内容に思えました。「愛の剣」という曲は特にそれを感じさせます。

梶:「愛の剣」は、世相を歌っているようですけど、それだけではなくて、シンちゃんの作詞した曲に関して言えば、この人は私の心を見抜いているんじゃないかと思いましたよ。

鈴木:僕の音楽の向き合い方、作り方は、王道ですが、まず歌ってくださる方と音楽の話はしたくないんです。普通に接して話している中で、探っていく。「上等じゃない」という曲では、芽衣子さんが何かの時に「上等じゃない?」って言った、その一言がポンと浮かんできて、それを膨らませて歌詞を書きました。そういう日常的な部分、パブリックじゃないところに真実はあると思うので、今までの会話や、培ってきた中から「こういうことを歌ったら面白いかな」「こんなことを思ってるのかな」というのを自分なりに歌詞に落とし込んだんです。

―― シンガーソングライターのような、歌い手が自身の言葉で歌っているように作られたと。

鈴木:そうですね。色々な音楽のスタイルがありますが、僕が好きな音楽もそういうものです。私はこう思っているから聞いてください、というスタンスほど伝わることはないと思いますし、歌い手の方が自分のものとして歌ってくださるのが一番です。

梶:5月12日にライブを控えているんですが、まだ歌に慣れていないんですよ。私は芝居でもそうだけど、セリフが自分の中に入れば、お風呂に入っていようがお料理作っていようが、セリフが出てくるんです。歌でも歌詞がふっと口ずさめる。でも今のところこの歌に関しては出てこない。普通、歌を受け取ってこれだけ経っていれば、完全に入っていて、歌詞を見ないでも歌えるんです。それは、私がこれまで歌ってきた歌謡曲とは違って、彼の曲はアレンジが難しいの。でもその緊張感はありながらも、面白いコンサートができればいいな、と思っています。

“昔のヒット曲だけで成り立っている方ではない” というオーラ


―― 鈴木さんのイメージする梶芽衣子さん像が、この作品群に投影されているということですね。

鈴木:芽衣子さんが今回おっしゃっていた葛藤や挑戦、その姿勢を示せることって、とてもかっこいいことだと思うんです。“昔のヒット曲だけで成り立っている方ではない” というオーラがある。せっかくオリジナルアルバムを作るなら、その挑戦している姿にも共感してもらいたいです。それが希望にもなるわけですし。それに芽衣子さん自身がロックなイメージなんです。葛藤や挑戦は、ロックの尊さと美しさだと思っている。それがきっとライブに来てくれるお客様にも伝わると思っています。

梶:私も “慣れ" というものがすごく嫌いなんです。人が想像し得ないものを自分の想像力で表現する、そこが伝わればいいという気持ちでずっといるんですよ。役者でもそうです。今回もなんだか挑発されているみたいで、それこそ「上等じゃない?」と(笑)。その意味で、シンちゃんとやるのはいつも刺激的です。彼が投げてくるものに、真っ向からぶつかってやろうという気にさせられる。今回は特に、それを思いました。だから練習していて、「修羅の花」になるとホッとするんですよ。あの曲が唯一の救いですね。あれは何度も歌っている曲ですから。

――「修羅の花」は、梶さんが主演した73年の映画『修羅雪姫』の主題歌。作詞は原作者である小池一夫さん、作曲は平尾昌晃さんです。2003年のクエンティン・タランティーノ監督の映画『キル・ビル』では、この曲が挿入歌として重要なシーンで使われていました。今回、リメイクした理由はなんだったのですか。

梶:あの歌を好きなファンが多いんです。でも、時々テレビに出て歌う際も、「怨み節」しか言われないんですよ。それが残念で、生前に平尾先生とたまにお会いすると「芽衣子ちゃん、たまには(僕の歌も)歌ってよ」と仰っていたので、今回、やっと恩返しができました。当時、『修羅雪姫』のオールラッシュを平尾先生がお1人で観に来てくださって、ラッシュが終わった後に「先生、お忙しいところありがとうございました」とご挨拶に行ったら「いい曲書くからね」と、それだけおっしゃって、それであの曲ができてきた時は、鳥肌が立ちました。


後編【梶芽衣子インタビュー ②】は、5月8日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

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2024.05.06
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