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連載【90年代の伊藤銀次】vol.27
彼女への想いから生まれた「バンザイ 〜好きでよかった〜」
今日は、ウルフルズの人気を確実なものにした「バンザイ 〜好きでよかった〜」の話を。
ある意味ミラクルな楽曲「ガッツだぜ!!」をしゃかりきになってなんとか録り終わったあと、いよいよ『すっとばす』に続くサードアルバムに向けての曲作りが始まることに。その作業はそれまでのように、まずトータス松本が僕の自宅まで来てくれて、彼の頭の中にあるいくつかの曲のスケッチを聴かせてくれるところから始まった。この時は、彼とのこれまでの作業では決して聴けなかった、僕の心を激しくときめかせる飛び抜けた曲が、いきなりその中に現れた。
ちょうどその頃、トータスがいっしょに暮らしていた彼女と付き合い始めて何年目かの記念日が近づいていた。お祝いのプレゼントとして指輪などをあげたいのだけれど、まだバンドとして売れてなかったのでそんな余裕がなかったという。そんな思いで街を歩いていた時、彼の頭の中にあるメロディが、歌詞も同時に浮かんだそうだ。まだ当時はスマートフォンなどなかったので、家に帰るまでに忘れないようにと、近くの電話ボックスに急いで飛び込み、自宅の電話にかけ留守電に歌ったという。そういうエピソードを話してくれたあと、おもむろに僕に歌って聴かせてくれたのが「バンザイ 〜好きでよかった〜」だったのだ。
驚いた。なんていい曲なんだ!と即座に感じた。それはすがすがしいほどに心に響いてきた。「ガッツだぜ!!」はどうしてもヒットが欲しいという僕たちの強い願望から生まれてきた曲だったけれど、この曲は、トータスの彼女への素直な想いが導いた無垢なメロディーだった。ヒットを狙うという下心からは絶対に作れない、一生に一度あるかどうかわからない奇跡の曲。
「ミスター・ムーンライト」が導いた「♪バンザーイ」の始まり
パッと聴いた瞬間にこれはきっとシングル曲になると感じたのだけれど、そのときの彼は短いイントロから歌い始めて、Aメロ、Bメロと順に歌ってくれ、一番心を鷲掴みにするサビの「♪バンザーイ」が出てくるのが、僕には遅い気がした。そのときいきなりひらめいたのは、ビートルズのジョン・レノンが歌ってた「ミスター・ムーンライト」だった。
みなさん気づいていただろうか。ジョンの歌には、イントロなしでいきなり彼の声から始まるものが実に多い。たとえば「ノー・リプライ」や「恋のアドバイス」、そして「ガール」などなど。その中でも、一番ぼくの印象に残っていたのが、十代の多感な時期に聴いた「ミスター・ムーンライト」だった。イントロなしで「♪ミスタ~~アアア ムーンライト」とジョン・レノンがいきなり歌い出すあの曲の出だしのインパクトはすごかった。
普通なら、キャッチーなイントロを作ってそれでリスナーの気持ちを惹きつけておいてから歌を始めることが多いけれど、どんな楽器よりもパンチがあって情感溢れるジョンの声で始めたほうが聴く者の気持ちを捕まえることができる。僕はウルフルズとの作業を始めた時から、どこかトータスにジョン・レノンと同じ、声と歌い回しに天才的なものを感じていた。そこでトータスに “この曲、イントロなしでいきなりボーカルから始めようぜ!” と提案。結果論ではあるが、この始まり方によって「バンザイ 〜好きでよかった〜」はいきなり音楽ファンの日常へ飛び込み、それがヒットにも大きく貢献したのではないかと思う。何気ないひとつのひらめきこそ大きなパワーの源だったりするのだ。
「ガッツだぜ!!」と「バンザイ」がウルフルズ人気を不動のものに
かつて1970年代、サザンオールスターズが「勝手にシンドバッド」というインパクトの強い曲でデビューした時、多くの人たちは、この曲一発で消えると思い込んでいた。だが第3弾の「いとしのエリー」の名曲ぶりが、サザンの人気を不動のものとしたことがあった。まさにウルフルズにも同じことが言え、この2曲がそろったことで、一発屋に終わらずに続けていくことができたのだと思うと、実に感慨深い。
最後に、「バンザイ 〜好きでよかった〜」がヒットして本当によかった。
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2026.10.15