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連載【90年代の伊藤銀次】 vol.26
これまでのウルフルズの作品を超えた面白さに満ち満ちていた「ガッツだぜ!!」 トータス松本と僕の、ほぼ1年近い作詞作業のやりとりが実ってきたからなのだろうか、やっとできあがった「ガッツだぜ!!」の歌詞は、これまでのウルフルズの作品を遥かに超えた面白さに満ち満ちていた。
長くレコーディングに携わっていてもなかなか巡り会えない、いわゆる “曲が化ける" という瞬間に出くわしたような実感。ちょっと前にはまったくこの世に存在していなかった、トータスにも僕にも予想すらできなかった、関わっていた僕たち2人の常識をもはるかに超えてしまったようなものがついに出来上がったような気がしたのだった。やったぞ!ねばった甲斐があった。よ~し、それではいよいよ歌入れだ。
ディスコのようなお祭りのようなフィールにぴったりのボーカルに そこで歌い出したトータス。う〜ん、何かグッとこない。とてもコミカルで軽やかな歌詞には似つかないすごくシリアスな歌い方でのアプローチで、曲の躍動感がこっちに伝わってこないのだ。この曲こそウルフルズのプロデュースを始めた時に描いていた未来像、クレージーキャッツの植木等さんのような明るく痛快な怪人像にぴったりな曲。それがかなりストイックな感じすらする真剣な歌いっぷりで、スピーカーから顔は見えないが、まるで眉間に皺を寄せた表情で歌っているように感じさせるのだった。
クレイージーキャッツの楽曲が誰が聴いても楽しい気分にさせてくれる大きな原因は、まるで笑いながら歌っているかのような植木さんの歌にある。そこで一度歌い終わったトータスに僕から “トータス、笑いながら歌ってみようか” と、ひと声かけてみた。あれほど集中してじっくり練り上げた歌詞をいよいよ歌うとなって、彼はほんとに真面目にこの曲に立ち向かおうとしていたのかもしれない。ちょっとムッとしたような口調で返ってきた返事は “そんな、銀次さん、笑いながらなんか歌えませんよ” 。それは確かにそう。そこで言葉を変えてさらに “じゃあ、試しに顔を笑顔にして歌ってみようよ” と。
本当に納得がいったからかどうかわからないけれど、彼はそれにトライしてくれたようで、次のテイクが始まった途端、アッと驚くほど歌の表情が激変した。歌い方が変わると同じオケなのにまったく違う曲のよう。今度はバッチリ、あのディスコのようなお祭りのようなフィールにぴったりのボーカルに。そのとたん、いきなり全部の歌詞に命が吹き込まれた気がした。これだ。これこそウルフルズのプロデュースをはじめたときにトータスの未来像として描いてたあの植木等さんと同じ怪人感。これまでのほぼ一年にわたる僕たちの取り組みがこの1曲に見事に凝縮することができた気がして、これほどうれしいことはなかったよ。
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一睡もせずにプロモーションビデオの撮影に向かうことに うれしい歌入れが終わって、これまでにない手応えを感じたが、何せ疑り深い僕は、オリコンの左ページの50位以内には確実に入るんじゃないかなというかなり控えめな予想。まさかベスト10入りする大ヒットになるとは……。分厚そうに見えた壁が崩れる時というのはこういうものなのかもしれないね。
前日から始まったレコーディングが終わり、やっと会心作が出来上がったのは翌日の明け方の4時だったか5時だったか。お疲れさまの乾杯もそこそこにメンバーはなんと、そのまま一睡もせずにプロモーションビデオの撮影に向かうことに!あの時代劇の楽しい映像の彼らは、どこから見ても全然寝てないってことがわからない。そこにも彼らのエンタメ魂を感じて結構グッときたものだったよ。
実はこのプロモーションビデオの監督、竹内鉄郎君から、「SUN SUN SUN '95」に続いて、僕も出演を依頼されていたのだが、プロデューサーとしてそのままエンジニアのトム・デュラックと共に曲のミックスに入らなければならなかったので、残念ながら丁重にお断りした。竹内君が僕にどんな役をくれるつもりだったのかは定かではないが、もしそのまま出演していたら、ひょっとしてあの吹き矢が命中して倒れる役は僕だったのかもしれない。
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2026.08.17