1970年 12月11日

今こそ必要な「ジョンの魂」困難な時代を切り開くジョン・レノンの叫び!

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ジョン・レノンのソロデビューアルバム「ジョンの魂」がリリースされた日
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すでに歴史上の人物だったジョン・レノンとの出会い


1972年生まれの私がロックを聴き始めたのは中学生の時、80年代半ばだった。

この時、ジョン・レノンはすでに歴史上の人物で、私の認識は「元ビートルズで愛と平和の人でしょ? って言うか、ジュリアン・レノンのお父さんだよね? やっぱり親子だからジュリアンに顔似てるよね… えっ、声も似ているんだ? お父さんの方は聴いたことないんだよね…」的なものだった。

そんな私がジョン・レノンを真剣に聴く機会はもう少し後になってからだった。1989年にデビューしたレニー・クラヴィッツにハマっていた時、レニーはインタビューでジョン・レノンからの影響をよく語っており、レニーがきっかけでジョン・レノンを聴いてみたのだ。ジョン・レノンの初体験は『イマジン』からの『ジョンの魂』。

最初に聴いたアルバムは代表作『イマジン』だったのだが、この歴史的名盤がどうにもよく理解できなかった。理想主義的なメッセージとフワフワしたジョンの声、それを支える演奏もソフトなもので、とても中庸なものに感じられた。そんな話を同級生でビートルズ・フリークの藤田くんにしたところ、『ジョンの魂』を聴くように指南されたので、早速聴いてみた。

『ジョンの魂』は、『イマジン』よりはるかに私の耳をとらえ、かなりのお気に入りの愛聴盤となったのだ。



原初療法から聴こえてくるジョン・レノン魂の叫び


『ジョンの魂』は、心理学者のアーサー・ヤノフによる原初療法(長く抑制された幼い頃の心の痛みを、繰り返しさかのぼり、感じ、表現することが必要であるとする精神病の治療方法)に基づき表現された楽曲でアルバムが構成されている。もっと、言葉を選ばずに言ってしまうと、ジョンの心の奥底にある傷や痛み、ちょっとした邪悪な気持ちすらも声を大にして叫んでいる作品なのだ。

原初療法によって作詞された代表的な楽曲は「神(原題:GOD)」と言ってよいだろう。

 神なんてぼくたちが苦悩の度合いをはかる概念なのだ

―― と、始まる。続いて、

 ぼくは聖書を信じない…
 ぼくはイエスを信じない…
 ぼくはケネディを信じない…
 エルヴィスを信じない…
 ディランを信じない…

―― と、かなりショッキングで否定的な言葉が繰り返され、否定的なフレーズの最終センテンスでは「ビートルズを信じない」と歌われ、「ぼくが信じるのはヨーコとぼくだけ」と続くのだ。そして、この後の曲のエンディングでは…

 親愛なる友よ
 君たちも頑張ろう
 夢は終わってしまった

―― と締めくくられる。

ジョン・レノンによるビートルズの否定宣言は、後追い世代の私が聴いてもショッキングな歌詞だったので、リアルタイムで聴いた世代にとっては、まさに衝撃だったことは容易に想像がつく。

人間くさい心模様を強く感じる「ジョンの魂」の核心


ビートルズを脱退して、ソロデビューする。そして、オノ・ヨーコとともにソロ活動を進めるためには、大きな影響を受けたエルヴィス、ディランといったアーティストだけにとどまらず自らの青春そのものであるビートルズまで否定することで、今までの自分とは違う新しい自分(たち)で新しい一歩を踏み出そうという強い気持ちの表れのように感じられる。

しかし、こうした攻撃的で前のめりな気分だけだったかと言うとそんなことはないと思われる。ビートルズでの活動を夢として、その夢は終わったと宣言し、親愛なる友よ… とメンバーに向けた思いが歌われる。過ぎ去った自分の青春を振り返っており、その青春時代は全否定されることなく、かなりセンチメンタルに歌われていると私には感じられる。

新しい自分を肯定するために、過去の自分を否定する。でも、その思い出は美しすぎて、完全に否定することはできない… こうした揺れ動く葛藤からは、ジョンの人間くさい心模様を強く感じることができる。

変わりたい自分、変わらなければならない自分、変わることができそうもない自分の間で揺れ動く心は大きな摩擦を生み出し、喉が張り裂けそうなシャウトやノイジーなギターで表現され、過激で重たい音像が鳴らされている。こうした音像からは、切羽詰まった緊張感がヒシヒシと伝わり、シンガーソングライターが作り出す作風の一面を持ちつつも、パンクロックのようなザラついた剥き出しの激情も同居している。

「ジョンの魂」から聴こえてくる原初の叫び。ジョンのソロ活動から学ぶセラピーとは?


ジョン・レノンのソロ活動は、原初療法という自分を包み隠さない表現方法でビートルズ解散以降の混沌とした状況を切り開き、その先に愛と平和というユートピアを作り上げるための闘争だった。

こうしたジョン・レノンの生き様は、今を生きる私たちが抱える問題にもクサビを打ち込んでくる。特に今年=2022年は、主義主張やイデオロギーの違いによる国家間の対立が激しさを増している。個人レベルにおいても、コロナ禍の影響によるコミュニケーション不足や本音をぶつけるとハラスメント事案に発展してしまうリスクが常に付きまとい、人と人が分かり合うことの難しさを感じることがとても多い1年だった。

『ジョンの魂』から聴こえてくる原初の叫びは、傷つくこと、傷つけられることを恐れずに本音で語り合うことの大切さを現在の私たちに突き付けている。結局、人は腹を割って話し合うことでしか相互理解は進まないと私は思うのだが、皆さんはどう感じるのだろうか?

『ジョンの魂』は、リリースから半世紀以上が過ぎた作品だが、今だに私たちに多くのことを語りかけてくる作品だ。本音をぶっちゃけることが難しい現在、自分の本心を見失ってしまうことがないよう、私は『ジョンの魂』を聴く。自らの心の奥底にある原初の叫びに耳を傾けることは、何かと厄介ごとを抱えがちな中高年のリマインダー世代には、セラピーとして必要なことだと思う。

自分の深層心理と向き合うことで、難しい時代を切り開く知恵やヒントを得ることができるかもしれない。『ジョンの魂』は、世界を変えるためには、まず、自分を見つめることが大切なのだ―― と、ジョンより10歳も歳上になった私に気づかせてくれた。

さて、今年もクリスマスにむけて、街では「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」や「イマジン」がヘビーローテーションで流れてきそうだが、我が家のターンテーブルや私のサブスクは、『ジョンの魂』がヘビロテになりそうな気配だ。1年を振り返る年の瀬に自分の深層心理に耳を傾けるのも良いのではないかと思っている。



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2022.12.08
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カタリベ
1972年生まれ
岡田 ヒロシ
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