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連載【90年代の伊藤銀次】vol.25
これまでのウルフルズでは作りきれなかったヒットの匂い
まるで突然現れたかのように、ウルフルズの名を一気に世に知らしめた「ガッツだぜ‼」の制作はリハーサルスタジオでのプリプロ(本番前の事前準備)からすでに火事場のごとくの勢いで、僕もメンバーもまさに何かに取り憑かれたかのように、がむしゃらにレコーディングを進めていったものだった。
彼らのプロデュースを始めてほぼ1年、努力の甲斐あってか、やっと吹き始めた彼らへの追い風が止んでしまう前に、なんとか彼らをこの曲でヒットの大空へ飛ばすのだ。そういう覚悟を決めたからだろう、もう迷ってるヒマはなかった。しかも気持ち的には追い詰められているというのに、浮かぶアイデアがことごとくうまくハマって機能していったのはなんともラッキー。音楽の神様は僕たちに今度はしっかり微笑んでくれたようだ。
録り終わったサウンドは浮かれることなく、疑い深くこれでもかこれでもかと手を入れて仕上げたアレンジがうまくいった。そのおかげで、うれしいことにこれまでのウルフルズでは作りきれなかったヒットの匂いが予想以上にぷんぷんしてきた。
トータス松本と向き合ってリリック制作作業
さてさて、そこでうっかりはしゃいでしまうとぬか喜びに終わる。ダルマの最後の目を入れる大事な作詞の作業が待っているのだった。
できあがったサウンドは、その当時のロックバンドが絶対手をつけなかった、ロックバンドにあるまじき掟破りの “なんちゃってディスコ”。これは意表を突いて絶対目立つし、話題になるに違いないという手応えがあった。それをさらに盛り上げる歌詞をトータスに書いてほしかったのだ。ひと仕事終えたメンバーはここでお疲れさんとなり、スタジオには僕とトータスだけが残り、2人向き合ってのリリック制作作業に。これまでやってきた2人のやりとりのように、まずストーリーの背景にある “心" みたいなものを確認してからいよいよ作業がスタート‼
機関銃のようにおもしろいワードを連発
以前、「トコトンで行こう!」のとき、うっかり僕が曲先でトータスに歌詞を書かせたせいでかなり難航したことがあった。今回は同じように曲先だけど、すでに「ガッツだぜ‼」という向かっていくべきゴールがはっきりと見えていたからだろうか、トータスは次々と信じられないようなおもしろいワードを機関銃のように連発し始めるのだった。
まず出だしの「♪モテない できない 言えそーもない」と、「♪逢えない 抱けない できそーもない」の2行の脚韻の踏み方には参ったね。これはまるで洋楽のセンス。僕がトータスの歌詞で好きなところは、字面で見た意味だけじゃなく、音となって聞こえてくるときのリズムや響きにとても魅力があること。まるでジョン・レノンがビートルズ初期に書いた曲のようだ。
出だしからいい感じで始まったリリック制作。キャッチャーの僕が妥協することなくトータスをさらに刺激するサインを出すと、もう信じられないようなミラクルなスピードボールで僕のミットに投げ込んでくる。その中でも。特に「♪万が一 金田一」と「♪生まれて死ぬまであっちゅー間」には言葉を失ったね。いったいどこからこんなすごいアイデアがでてくるんだろう? あまり日本の音楽シーンで評価する人が少なくて残念だが、彼こそ間違いなく、天才だと思ったね。
そういえばこんなことがあった。アルバム『バンザイ』のレコーディングが始まる頃、トータスが出しぬけに “銀次さん、「♪おし愛 へし愛 どつき愛」ってのが浮かんだんですけど、どう思います?” と。どう思いますもない。こんなフレーズは見たことも聞いたこともないよ。かつて佐野元春から「♪ガラスのジェネレーション さよならレヴォリューション」というフレーズを聞かされた時と同じくらいの衝撃だった。そして彼のこの遊び心のある語呂合わせ的な言葉使いのセンスは、大滝詠一さんのノベルティソングのセンスとも、どこか深い水脈でつながっているような気持ちにさせられたね。
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2026.07.17