80年代の初め。若かりし私は物欲の塊。
安月給の大半を趣味に使う為、当時の彼氏とは新宿から原宿経由渋谷間は原則徒歩が基本。中古レコードと古着抱えて、辿り着いた渋谷の最後はいつも「パテ書房」だった。
渋谷から明治通り沿いをひたすら恵比寿へ向かう道沿いの路面店。
一応古本屋なのだが、店内にはレコードのほかに映画のビデオやパンフレット、フィギュアもあり、かなりマニアックな貴重盤がところ狭しと並んでいた。店主男性は何故か客が来ると慌てて黒いサングラスをかけ小さなテレビで古いアニメを観始める。足繁く通って購入しても、店主と口を利いた記憶がほとんど無い。
ある日、彼氏がレコードコーナーを見ていて小さく声を上げた。お宝を見つけた時のリアクション。見に行くと「淫力魔人のテーマ(Raw Power)」イギー&ザ・ストゥージズの日本盤シングルだった。
「淫力魔人って、何だ!」
と二人でクスクス笑っていたら、サングラス店主も少し口元が緩んでいた気がした。彼氏は2000円しない位のシングルを購入。私は帰り際に何気なしに見た映画サントラコーナーにジェーン・バーキンの日本盤シングル「想い出のロックン・ローラー(ex fan des sixties)」を見つけた!
確か2800円位の値段だった。欲しい病の発作が起きた私…
散々悩み30分経過。
店主に彼氏が「ちょっとこれ高いですね」と聞いてみたら答えは「いい女だから」だって。
そういう値付けもあるのかとびっくりしながら私は購入を諦めた。金欠気味なのとそのうち中古でもう少し安く手に入るとその時は思った。1800円だったらきっと即買いしていただろう。
そして一晩考えて、やはり欲しいから次の日に再びパテ書房に一人で行った。いつもみたいに店主がサングラスを慌ててかけ、テレビのアニメを観ている中で初めて声をかけた。
「昨日のジェーン・バーキンまだありますか?」
「無いよ! あの後売れた。」
後になってこの店のレコードはバイヤーがいてしっかりセレクトしていた事を知る。どうりで見た事が無い珍しい物を次から次へと入荷していた訳だ。
そして渋谷の宝島の様なパテ書房は明治通りの拡張工事の為立ち退き、池の上に移転後閉店したらしい。
あれから、かなりレアだと言われるレコードも「淫力魔人のテーマ」も何回も催事や他店で見たが、ジェーン・バーキンの「想い出のロックン・ローラー」は未だパテ書房でしか見た事が無い。
「中古品は見た時に欲しければ買え。次は無いから。」
パテ書房から私が教わった人生訓である。
それは、後の私の揺るがない購入動機になった。出会いは一期一会。
音もモノも人も。
追記
88年に女優の安田成美さんが「想い出のロックン・ローラー」を日本語でカバーしている。プロデュースと訳詩は大貫妙子、ドラムはジャパンのスティーヴ・ジャンセンという夢の様な布陣で素晴らしい。
2018.06.12
YouTube / Ina Chansons
YouTube / finnur
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