2010年 3月10日

【追悼:KAN】魅力的な歌の中から1曲選ぶので「よければ一緒に」ラララで歌いましょう

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61歳の若さで飛び立ってしまったKAN


シンガーソングライターと言われる人のお仕事は、いろんな曲を聴いてきて、その人の解釈で別の作品を作って歌唱して、音楽、映像作品、ステージパフォーマンスを、世間に作品(成果物)として出すこと。わたしはそう思っている。2023年11月12日に、61歳の若さで飛び立ってしまったKANさんというのは、まさにそういう音楽家だったと思う。

クラシック、ジャズ、シャンソン、ビートルズから、70年代から80年代の良質な洋楽、近年ではPerfume等、その幅は非常に広い。影響を受けた楽曲を消化し、オリジナリティ溢れる楽曲として、KANさんの世界観を構築し、作品として世の中に送り続けてきた。その作品たちは、どこか洋楽を感じるポップスばかり。1987年、24歳でのデビュー当時から、その楽曲のセンスはずば抜けていた。

改めてKANの素晴らしさに触れた瞬間


『歌謡曲 meets シティ・ポップの時代』(シンコーミュージック刊)で、著者の鈴木ダイスケさんと対談をしている漫画家 江口寿史さんはKANさんのことを「感覚が編集者的」と語る。

KANさん自身は、2021年のラジオ番組『武部聡志のSESSIONS』(JFN系)で「いろんなことをやりたい、というのが基本にある。KANはどんな音楽、と絶対言えない、いろんなものをやるのが自分のやりかた、というのが基本的な考え方」と語っていた。

根本要さんによると、KANさんは「なんでも深掘りする、研究するひと」だったという。2023年11月28日のラジオ番組『NACK de ROCK』(NACK5)ではKANさんのことを「KANちゃんは、系統立てて分析して音楽を考えていく人。なぜこの曲がすごいと感じるかを、感性ではなくて音の構成として理詰めで、理数系の考え方で音楽を作っていったひと」と語っていた。

KANさんが得意とするメロディアスなバラードも、ディスコものやダンサブルな夜の猥雑さを持った楽曲にも共通するポップで人懐こいメロディは、理詰めで生まれていたのか!感性だけで音楽を聴いてきたわたしが、改めてKANさんの素晴らしさに触れた瞬間だった。

中学校3年間はビートルズしか聴いていない


前述した武部聡志さんの番組では音楽的なルーツも語っていた。小学校1年からクラシックピアノを8年間続け、中学生だった1974年〜75年にチューリップのアルバム『TAKE OFF(離陸)』を初めて買い、その後にビートルズを聴くようになる。中学校3年間はビートルズしか聴いていない。

高校に上がって水泳部の友人からビリー・ジョエル『ニューヨーク52番街』を借りてそれまで聴いていたビートルズにない音楽がいっぱいあることを知り、あっという間に惹かれたようだ。中学時代からビートルズを全部耳コピでやっていて、ビリー・ジョエルも一生懸命耳コピしたのだけど、ジャズが出てきて、上手く耳コピできなくて、断念してヤマハに楽譜を買いに行った…



そんなエピソードを熱っぽく武部聡志さんと話していた。

どこかビリー・ジョエルを想い起こさせる「Songwriter」


耳コピから、身体に音楽を刻み込んだKANさんはビートルズやビリー・ジョエルをはじめとした洋楽の影響を隠さない歌を多数発表した。ビリー・ジョエルの「エンターテイナー」(The Entertainer)をどこかに想い起こさせるメロディを持つ「Songwriter」(1997年)はそのひとつだ。

KANさんをデビュー当時から知っていたという武部聡志さんは「KANちゃんは独特のWorldを持っている。その人にしか作れないWorldを持っているということは、ミュージシャンとして本当にリスペクトすべき存在」と同番組で評した。実際に多くのミュージシャンから愛され、リスペクトされていた。

KANさんが空に飛び立ってから1か月後の2023年12月12日には、KANさんをリスペクトするアーティストによって結成されたユニット、KAN with His Friendsによる「KANのChristmas Song 2023」がFM802 / FM COCOLO / STVラジオの番組限定でオンエアされている。生前交流が深かった、aikoさん、トータス松本さん、スキマスイッチ、根本要さん、秦基博さん、馬場俊英さん、槇原敬之さんが参加している。

サービス精神旺盛のステージパフォーマー


そして、KANさんはステージでのパフォーマーとしても大変面白い存在だった。音楽だけではなく、お喋りもコスプレも。わたしは2021年4月29日に大阪・靭公園で行われた「風のハミング」を配信で観たが、モニター越しでも、こんなにサービス精神旺盛で面白い人だったのか、と改めて驚いた。

たとえ歌わない場面であっても、喋り手としてもキュートな人だった。2022年11月17日、神奈川県民ホールでの写真家の大川直人さんとのトークショーでは、背中に大きな羽の生えた姿でステージに登場し、CDジャケット写真を含め多数の写真を撮影した大川さんと往時のエピソードを楽しそうに語っていた。1993年のアルバム『弱い男の固い意志』の1曲目「ラジコン」に登場する “カメラマン” は、あの夏目漱石コスプレも撮影した大川さんだ。



まさかその1年後に、空に飛び立ってしまった報せを受けるとは、このときは思いもしなかったが。

優しさと愛嬌を感じるOne and Onlyの歌声


しゃべり手としてキュート、と書いたが、KANさんの楽曲の歌詞がこれまたチャーミングなのだ。「プロポーズ」「永遠」(1991年『ゆっくり風呂につかりたい』)「エキストラ」(2020年『23歳』)等の甘々のラブバラード上でうたわれる言葉は日常にとてもフィットしていて、心にスーッと入り込むチャーミングさがある。「世界でいちばん好きな人」(2006年)のようなメッセージ性のある歌であっても、どこか優しい。

歌詞のアイデアも斬新だ。植物である桜の木の目線で唄われる2016年の「桜ナイトフィーバー」は異色の桜ソングだ。また、2020年2月に発表し、Juice=Juiceがカバーした「ポップミュージック」には、“Po Po Po 鳩 Po Po Po” (ぽっぽっぽ、はと、ぽっぽっぽ)というJ-POP史上例を見ない、鳩が豆鉄砲を食ったような歌詞も登場する。

直接間接を問わず、セクシャルな歌詞も度々ある。「丸いお尻が許せない」「甘海老」(1993年)、「胸の谷間」(2016年、『6×9=53』収録)など。生身の男の子ってそんなものでしょう、と女性から顰蹙(ひんしゅく)を買わないのは彼と桑田佳祐さんくらいだろう。

えらくふざけた歌を歌っているな、と思っていたら、次の瞬間には、“あのね、うんとね” とか情けない男の子の心情を吐露するラブソングで許してしまう。どんな楽曲も人懐こく感じさせる、優しさと愛嬌を感じる歌声はKANさんのOne and Onlyだ。

音楽の楽しさ、素晴らしさを、さりげなく最大限に表現した「よければ一緒に」


数多ある魅力的な歌から、シンガーソングライター・KANさんから、お勧めの1曲を選ばないと、この文章はエンドレスになってしまいそうだ。



選んだのは「よければ一緒に」(2010年)。人間の営みが続く日常のなかで、さっぱりとこんな言葉を言われたら嬉しい、そんな歌だ。

この曲は1番、2番、3番、4番、5番でちょっとずつコード進行が違う、と根本要さんのラジオで教えてもらった。さらっと聴いていたら気づかないくらいの違いだ。

 なにかにつけていちいち
 歌などうたいたい
 うたいたいけどいつもこれといって
 歌詞がない
 歌詞がなければ
 ラララララララで歌えばいい
 よければ一緒に その方が楽しい

ーー 音楽の楽しさ、素晴らしさを、さりげなく最大限に表現している、心に残る歌だ。

音楽の神様に呼ばれたのか、空に飛び立っていってしまったKANさん。彼のつくってきた多彩なポップソングたちが、これからも、もっとたくさんの人たちに聴いてもらえますように。”よければ一緒に” 聴いてください。

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2023.12.25
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カタリベ
1965年生まれ
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