夏うたを2026年の視点で再編集 vol.16
じゃっ夏なんで / かせきさいだぁ
かせきさいだぁの代表曲となった「じゃっ夏なんで」
夏が好きだ。四季のなかでどの季節が好き?なんて質問をされたら、夏!と答える人は少なくないだろう。その理由は明確にあって、この季節に聴きたくなる名曲がたくさんあるからだ。冬になると聴きたくなる曲もあることはあるが、夏のほうが圧倒的に多い。それほど僕らの生活と夏うたは密接に結びついているということだ。そのなかでも、格段に再生頻度が爆増する曲が、かせきさいだぁの「じゃっ夏なんで」なのだ。
1990年から1993年にかけてヒップホップチーム “TONEPAYS” で活動した後、1994年にソロユニット “かせきさいだぁ” を始動。インディーズでの活動を経て、1996年にトイズファクトリーからメジャーデビュー。同年リリースのファーストアルバム『かせきさいだぁ≡』にも収録された「じゃっ夏なんで」が彼の代表曲となる。
松本隆の描く叙情的な歌詞の世界を表現
ここで、かせきさいだぁのルーツを振り返ってみたい。ラップと出会う以前、彼は幼い頃からテレビの歌番組を観て、松田聖子の歌に強く惹かれていた。なぜ彼女の歌だけが、これほど鮮やかに情景を思い浮かばせるのか。その理由を探るうちに、答えは歌詞にあることに気づく。そしてレコードのクレジットを見ると、そこには必ず“松本隆”の名前があった。
その後、友人から借りたはっぴいえんどの『風街ろまん』を聴き、“僕はヒップホップではっぴいえんどと同じことをやればいいんだ” と腑に落ちる。英語のように韻を重ねるのではなく、日本語ならではのリズムを活かしながら、松本隆が描く叙情的な世界をラップで表現する──。その発想から生まれたのが、俳句にも通じる七五調を取り入れた独自のスタイルだった。それこそが、かせきさいだぁが切り拓いた新しい叙情派ヒップホップなのである。
日本語ヒップホップ黎明期に果たしたかせきさいだぁの役割
「じゃっ夏なんで」はかせきさいだぁの生まれ故郷である静岡県中川根のお祭りをモチーフにした楽曲。虫の鳴き声から始まるイントロが流れてきただけで、もう夏を感じずにはいられない。恋人、もしくは想いを寄せる女の子と一緒にお祭りへ繰り出す少年のテンパり感と高揚感、そして松本隆直系ともいえる「♪モコモコと ソフトクリームのような入道雲」という秀逸な詩的表現によって、その情景が尋常ではないほど鮮やかに頭に浮かんでくる。さらに、楽曲の随所に散りばめられた風鈴の音やセミの鳴き声、打ち上げ花火の音が、より一層夏の景色を演出している。
ヒップホップにマッチョでハードコアなイメージを抱き、苦手意識を持つ人も少なくなかった時代に、キャップを斜めに被り、大きすぎるサイズの服を着てオラつく――そんなイメージとは一線を画し、文庫本を片手に、まるでそれを朗読するかのような、不良性をまったく感じさせないかせきさいだぁの叙情派ヒップホップが、1990年代の日本語ヒップホップ黎明期に果たした役割は大きい。
さあ、今年も夏真っ盛り。クールなサウンドの叙情派ヒップホップ「じゃっ夏なんで」は、体感で2〜3℃くらい気温を下げてくれる、この夏必須の清涼剤になるだろう。
2026.08.07