「ファンタスティック! ブラボー!」
鳴り止まないスタンディングオベーションの中で私は打ち震えていた。
1980年冬、人生で初めてミュージカルを見た。それも本場ニューヨーク・ブロードウェイでだ。その演目は初演が1975年、翌76年にはトニー賞を9部門も獲得した作品だった。
私の手に握りしめられた半券には『コーラスライン』と印字されていた。その時の興奮は筆舌に尽くしがたく、例えて言うならカルピスをファンタグレープで割ったぐらいの贅沢感に包まれていた。
その後も私は様々なミュージカルを観劇したが、37年経った今でも『コーラスライン』が私にとってNo.1ミュージカルである。
突然だが、みなさんは2007年にキャメロン・ディアスが出演していたソフトバンクのCMシリーズをご記憶だろうか?
その中で使われている楽曲は、「ブレイクアウト」であったり、「ザナドゥ」であったり、「セレブレイション」や「コパカバーナ」であったりとリマインダー世代の心にクリティカルヒットするものばかりであるが、中でも1981年にビルボードで週間1位を獲得したシーナ・イーストンの「モーニング・トレイン」編が私の一番のお気に入り。
何故ならそれが同CMのシリーズでは唯一ドラマ仕立てでなく、『コーラスライン』のようなミュージカル仕立てであったからだ。それぐらい『コーラスライン』が私に与えた影響は大きかった。
2017年夏、とあるテレビの番組企画で、娘の高校に『コーラスライン』の創始メンバーの一人が演技指導に来るという。
「まじ? まじかよ!」
アラフィフが使うような言葉ではない。しかしそれぐらい私は興奮していた。
37年前、私がニューヨークで見た舞台に出ていた本人である。父兄も見学していいという。興奮するなという方が無理だろう。
その日演技指導の後、昼食を挟んで父兄と懇談するプログラムが組まれていた。37年ぶりの再会である。もちろん先方は私のことなど知らないし、一方的な片思いであることは分かっている。しかし、あの時の気持ちを、感動をどうしても彼女に伝えたい。最初の挨拶が肝心だ。
よし「ロング ロング タイム ミス ユー」で行こう。
そう決めた矢先、そんな事情を知らない多感な年頃の娘が「パパは余計な事を言うから『絶対』懇談会には来ないでよね! 来たら二度と家に入れないからね!」と。
えっ、私が建てた家なのだが…。
37年ぶりに打ち震えながら、カミさんと娘を残してひとり泣きながら校門を後にした私だった。
2017.10.03
YouTube / Alyssa Marino
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