2026年4月、デビュー25周年記念シングル「純愛」を発表した竹島宏。今回のインタビュー前編では、初披露となった大阪新歌舞伎座での公演の様子や、本作を歌うにあたっての心意気などを語ってもらったが、この後編では、本作のカップリング曲の内容や25周年に向けたコンサートの内容、さらには今年から本格的に始めたYouTubeチャンネル『竹島宏.TV!』での歌唱動画などについても触れていこう。
石原裕次郎の映画の世界を意識して松井五郎が書いた「太陽の残光」 今回はまず、Aタイプ、Bタイプで異なるカップリング曲について尋ねてみた。シングル「純愛」(Aタイプ)のカップリング曲はギラギラ系の「太陽の残光」。前作「小夜啼鳥の片思い」(Cタイプ)のカップリング「薔薇のしずく」の延長線上にあるような、郷ひろみが昭和や平成初期に歌っていそうな、セクシーかつデンジャラスなアッパーチューン。歌詞中の「♪太陽がいつも狂わせる」や「♪誰が邪魔しても君を奪うだけ」といったフレーズは、いつも温厚な竹島からはかなり冒険的なフレーズだろう。それでいて、間奏のギターのフレーズはGS歌謡も想起させる。
竹島:完全にその路線狙いですね。作詞の松井五郎先生は、石原裕次郎さんの映画の世界を意識して書かれたそうです。カップリング曲はライブで盛り上がるものをと、幸耕平先生にも僕からお願いしていました。この歌のサビは、キーが高めなんですが、ライブはちょっと頑張って歌うくらいの方が盛り上がるから、このままのキーでいくことにしました。
夏うたといえば、以前取材した際、竹島は学生のころ、TUBEの作品も買っていたと話していたが、いったいどの歌なんだろうか。
竹島:TUBEさんの「夏を抱きしめて」のシングルカセットを買いました。その当時テレビで聴いていい歌だなと思って。1990年代は、他に徳永英明さんの『LOVE IS ALL』とか山本譲二さんの『奥入瀬』とか。でも、最初に買ったのはB.B.クイーンズさんの「おどるポンポコリン」です。それ以前は、僕の出産祝いでいただいたクラシック名曲集カセットの6本組をよく1人で聴いていました。その後、「おどるポンポコリン」のあたりで、ひいおばあちゃんと坂本冬美さんのコンサートに出かけて、演歌っていいなと思ったんですね。
でも、思い出しました! 実は僕、その頃、吉田栄作さんになりたかったんです!吉田さんが農道に立って “あーーーーっ!” って叫ぶCMがとても衝撃的で。その後は、中西圭三さんや宇徳敬子さん、DEENさんのアルバムや、スピッツさんの「空も飛べるはず」も好きですね。大学生のころはTHE YELLOW MONKEYの「JAM」を友達や先輩がよく歌っていて、友達の家でもよく聴いていたので、皆さんが思う以上に当時のJ-POPを知っているかもしれませんね。
1人でしんみりと聴きたくなる寂寥感漂うバラード「こころからの声」 演歌もポップスもロックも壁を作らずに聴くという姿勢も、その中でミディアム調の楽曲を好むという指向性も、現在の竹島宏のユニークな音楽性とひと続きになっているのが興味深い。彼は柔和なようでいて、実はとても芯が強い人なのだとあらためて実感した。対する「純愛」(Bタイプ)のカップリング曲「こころからの声」は、夜中に1人でしんみりと聴きたくなる寂寥感漂うバラード。
もしかして、3つの新曲の中で、彼のボーカリストとしての成長ぶりが最も感じられる楽曲かもしれない。というのは、本作において竹島は、声をまったく張っておらず、言葉が持つ響きだけで心に届けるような歌唱に徹しているからだ。ちあきなおみ「紅い花」や、由紀さおり「あなたにとって」などで見られるような、いわば、引き算の美学を実践している。何か本人なりに考えたのだろうか。
竹島:いえ、逆に上手く歌おうとせずに素直な気持ちで歌いました。確かに伸ばして歌わないからこそ、言葉が際立って聞こえますね。あとは、あえて(歌声も演奏もなく)無音になる部分を作って、聞く人に投げかけるよう意識しました。幸先生も、坂本九さんの『見上げてごらん夜の星を』のように、恋愛ではなく人生について歌ったものを目指されたのだと思います。
竹島宏には、「こころの詩」「こころ花」「心の近くで」、またタイトルにはないが心と向き合った「生きてみましょう」や「いつかの青年」など “心” をテーマにした楽曲がとても多い。これは本人が希望してのことだろうか。
竹島:確かに多いですよね。僕は、ふだんから気になった言葉をメモ書きしているので、自然とそういう歌が似合うだろうと思われて結果的に集まるのかもしれません。実は、松井先生からも作詞を勧められたんですよ。共作でもいいからって。玉置浩二さんやASKAさんの歌を書かれる時も、ご本人が直すつもりもなく自然と自分の言葉に変えて歌うことがあって、その方が良いことがあるそうなんです。それに近いものを僕にも感じてくださっているようで。とはいえ、餅は餅屋ですから…(笑)。
でも、氷川きよしさんがkii名義で書かれた曲を、ラジオで聴いた時とても感動しました。だから気持ちが入ってるんだなって。確かに僕はブログで思いのままになんでも書いちゃっていますけどね。ブログは、僕のライブに1年に1回か2回しかお会いできない方に向けて、せめて本音トークの部分を伝えたいと思って書いています。これも1つの表現というか、自分の人となりみたいなものを知っていただくポイントかと思っています。
選曲や歌唱の深さが話題を呼んでいる「竹島宏.TV!」 竹島は、1~2週間に1度ブログを更新しつつ、X(旧:Twitter)の方では、花を手に持ってその花言葉を添えるという “花便り” を、コロナ禍以降なんと毎日欠かさず続けており、こちらもファンに好評だ。
竹島:“花便り” は長めのブログを読まない方にも向けて投稿しています。やっぱり1日の終わりに見ていただくので、皆さんの気持ちが穏やかになるよう明日に向かうような花言葉をチョイスしています。ブログでは、割とシリアスな内容もあるので。
キッカケは、ファンの人と会えないのは淋しいし、仕事を抜きにして喜んでもらえたらという思いだったんですよ。当初は、自分たちで花を買って撮っていたのですが、今は有難いことにファンの方が送ってくださるんです。地方でいただいたものも、基本的には持って帰って撮影するか、それが難しい時は、その場で撮影するようにしています。
そして、ブログやXを継続しつつ、2026年1月からは自身のYouTubeチャンネル『竹島宏.TV!』では10回シリーズで、「竹島宏アンプラグド」と題し、ピアノソロでのカバー動画を配信中。その選曲や歌唱の深さが話題を呼んでいる。
VIDEO 竹島:25周年に向けて、これまで歌に集中し過ぎて、自己アピールが足りなかったなと反省したんです(苦笑)。今年はいろいろと自分からやっていこうと思い、その1つが「アンプラグド動画」なんです。選曲は、「シクラメンのかほり」(布施明)や「昴」(谷村新司)など、僕がライブで歌ったことのあるものや、ファンの方からのリクエストを中心にカバーしました。9本目までは男性アーティストのカバーが大半だったのですが、10本目は中島みゆきさんの「誕生」を歌わせていただきましたし、今後は選曲の幅も広げていこうと思います。
歌詞やメロディーの深さがより心に響いている中島みゆきの「誕生」 中島みゆきの「誕生」は、1992年のシングル。オリコン最高13位と中島みゆき作品の中で特別ヒットした楽曲ではないが、命の尊さを歌った壮大なバラードで、今でもファン投票のリクエストでは必ず上位となるほどの超名曲。まさに “記憶のヒット” と呼ぶにふさわしい。1990年代の楽曲は竹島が10代の頃に自然に聴いていた楽曲が多いので、今後も演歌・歌謡曲に限定せず幅広くカバーしてほしいところだが、この「誕生」はどういった理由で選曲したのだろうか。
竹島:僕は、高校生の時にみゆきさんの『お時間拝借』(TOKYO FM系列)というラジオ番組を聴くのが好きで、そこでみゆきさんの歌もいっぱい聴いたので、1996年にリリースされた『大吟醸』というベスト盤を買ったんです。その中で「誕生」を聴いた途端、嗚咽するように泣いてしまったんです。やはり生きることに対して葛藤があったんでしょうね、その頃はまだ高校生ですから、自分でも何をすべきかずっと悶々としていたので、こみ上げるものがあったんだと思います。
実は徳光和夫さんの歌番組で「誕生」を歌わせていただいたことがあり、亡くなった先代の(事務所の)社長が病と闘っている時だったので、社長が眠っているそばで歌っていたんですよ。今は、そこから2年近く経っていて、(大切な人を亡くした経験から)歌詞やメロディーの深さがより心に響いています。
竹島がカバーした「誕生」は、竹島のファンだけでなく、中島みゆきのファンからも、優しく包むような歌声で、子どもや孫が生まれたのを思い出した、といったコメントが数多く寄せられている。亡くなった人を想う楽曲といえば「アンプラグド動画 #6」に投稿した、「冬隣」(ちあきなおみ)も披露している。こちらは、「誕生」よりも長く歌っている様子が見て取れる。
VIDEO 竹島:「冬隣」の方は、昔からよく歌わせていただいています。ただ、ある時期まで雰囲気だけでなんとなく歌っていたのですが、瀬川瑛子さんとご一緒した時に、瀬川さんのスタッフの方が “サビあたりから、会場にいるお客様を包み込むような気持ちで歌ってみたら?” とアドバイスしてくださったんですよ。その瞬間、自分の歌に足りないものが見えました。僕などのためにわざわざアドバイスをくださるなんて、良いご縁に恵まれていますよね。僕の場合、こうした学びが結構多いんですよ。多分、皆さんが、 “大丈夫か、こいつ? ちょっと言ってやろうか” なんてある種の隙(すき)があるんだと思います(笑)。でも、お金を払っても学べないことばかりで感謝しています。
デビュー25周年、まずは書き下ろしのアルバムを出したい 竹島はデビュー25周年に向けた記念アルバムも考えているという。
竹島:これは僕のわがままで、25周年のご褒美として出したいとお願いして、レコード会社の方たちも乗ってくださっています。今はアルバムを出すのも大変な時代ですが、最初に言ったからには責任をもって良いものをちゃんとリリースしたい。特に、応援するためにずっとシングルを買ってくださっている方へのプレゼントとして、まずは書き下ろしのアルバムを出したいと思っています。他にはカバー曲ばかりのアルバムとか、シングル・コレクションのようなものとかも考えています。
さらに、昨年の秋からライブを継続しているが、この公演名『竹島宏 25周年の入り口 Jewel Box~〇〇』にはサブタイトルとして、○○の部分に、パープルサファイアやムーンストーンといった異なる宝石の名前が毎回つけられている。
竹島:宝石にもさまざまな “石言葉” があるそうで、その中で希望や平和、絆を感じられるものを選んでいます。1つずつご自身の心の宝石箱にジュエルを集めて、心の中を宝石でいっぱいにしてくださいねという意味も込めているんです。会場に来られた方や、会場に来られない場合でも配信ライブを観てくださった方には毎回異なるジュエル・カードもお渡ししています。
竹島のコンサートでは、観客がスケッチブックやカレンダーの裏紙などを用いて、MCの時間にメッセージボードとして掲げ、それを竹島が可能な限り読んでいくというコーナーも面白い。こうした歌の合間でも彼の優しい人柄や、何か言ってあげたくなるという人徳をも感じさせる。
竹島:あれは、コロナ禍の最中、お客様が声を出せないっていうのがキッカケですね。何枚読んでも全然疲れないし、わざわざ書いてこられたファンの方がいらっしゃると、もっと読もうって頑張っちゃうんですよ、アドレナリンが出ていることもあって。でも、CD購入の特典会の時もつい喋りすぎて、昼夜公演があると、夜公演の開場時間が遅くなってしまいお叱りを受けることもあります (苦笑)。
デビュー記念日の7月24日 からはライブのタイトルも『25周年の入口』から “25周年” になりますが、内容自体は、入口であろうとなかろうと、実はほぼ毎回構成を変えているんですよ。その方がお客様も喜ぶと思って。会場によっては大掛かりなセットが組めなかったり、演奏がシンプルになってしまったりすることもあるので、その分、事前にお手紙などでいただいているリクエストにお応えしたり、それぞれの土地にまつわる歌を歌うようにしています。そうやって毎回セットリストを考えていると自然と内容が変わるんですよ。これも、スタッフや演奏するバンドの方たちの対応があって初めて実現できることなのでいつも感謝しています。
僕のようにちょっと変わった人間がこの世界にいてもいい 余談ではあるが、演歌・歌謡曲の若手歌手どうしの交流がSNSで頻繁に見られる昨今、竹島の場合はどうなのだろうか。
竹島:僕は演歌・歌謡界の友達ってあまりいないんですよ(笑)。仲間内でゴルフに行ったり、お酒を飲んだりという大人の付き合いを知らないまま25年ほどが過ぎました。デビューした頃、カラオケ雑誌の企画で、山口ひろみさん、椎名佐千子さんと僕の同期3人でカラオケBOXに行って座談会をしたくらいです。僕の場合は、1人でライブを観に行ったり、美しいものを見たり、人と語るにしてもカウンターで料理人やバーテンダーの方のお話をうかがったり、そういう時間を通して自分の世界を作るのが好きですね。1人ぐらい僕のようにちょっと変わった人間がこの世界にいてもいいと思っています(笑)。
ただ、同じ事務所の蒼彦太さんは、友達というより家族だと思っているので、ご飯をよく一緒に食べていますよ。ヒコタン(蒼彦太の愛称)には自分が勉強してきたことや、先生方から教わったことなど、役に立ちそうなことは全部伝えています。彼の方からも、今度、自分が出演する番組ではどうしたらよいかとか、どんな本を読めばよいかと尋ねてきますね。彼は、犬と猫とうどんのこと以外は、歌のことばかり考えていますからね(笑)
「純愛」が竹島宏の歌を聴くキッカケになれば嬉しい このように、25周年に向けて、様々な盛り上がりを見せている竹島に、ポップス調の記念シングル「純愛」の魅力をあらためて語ってもらった。
竹島:「純愛」は、これまでのファンの方たちにも気に入ってもらいたいし、同時に今までもさほど興味がなかった方たちも竹島宏の歌を聴くキッカケになれば嬉しいです。意外と歌いやすいと思うので、是非カラオケでも歌ってみてください!また、「純愛」のミュージックビデオもガラリと変わって明るい感じなんですよ。竹島宏に焦点を絞って、静かな表情の中に見える心の動きのようなものをお届けしたいです。
さらに『純愛』は歌詞もメロディーもドラマティックなんですが、作品の基礎として、リズムで感情を作っていて、バラードなのにリズム感があるので、意外と聴きやすいんじゃないかと思います。コード進行もジャジーで、その根底にあるリズムを、とても大切にして作られていて。例えばベースやドラムの演奏にも耳を傾けていただくと結構面白い発見があるんじゃないですかね。今後も作品に沿った発声の仕方や、声色の使い方などを究めていきたいですね。
少なくとも直近の10年間は、手堅いセールスを残している竹島宏だが “毎回学ぶことばかり” と控え目に発言を重ねては、日々練習に励んでいる、まさに “謙虚のかたまり” とも言える竹島宏。彼は、圧倒的な声量があるとか、俳優やモデルなど多面的な実績があるとか、そういった天賦の才能に恵まれた形でデビューしてはいない。しかし、年を追うごとに着実に成長しており、その証拠に数年前の彼の作品を聴くと、今の方が歌に味わいがあるな、といつも感じさせる。そういうさりげなさも、まさに彼が “地味かっこいい” と呼ばれる所以だろう。
ーー そういった自然な成長ぶりに、聴き手である私たちは “ジブンゴト” として彼を応援し、彼から大いに励まされるのではないだろうか。たとえ殺伐とした世の中であろうと、彼のロマンティックな歌声を聴いていれば、心の平穏を保っていられるような気がする。だからこそ、この「純愛」が人々の “記憶のヒット” になることを心から願っている。
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2026.05.09