24年間音楽界をサバイブしてきた竹島宏 今回は、ロマンティック歌謡歌手と自らを称する竹島宏に注目してみた。Re:minder読者には馴染みのない方も多いかもしれないので、最初に彼のプロフィールを記しておきたい。
竹島宏は、1978年福井県出身で、明治大学在学中に歌手を目指し、2002年にシングル「いいもんだ いいもんだ」でデビュー。以降、ムード歌謡を中心に歌ってきたが、2017年のリリースした「月枕」(作詞:松井五郎、作曲・編曲:都志見隆)で初のゴールドディスク認定(出荷10万枚突破)。2020年の「はじめて好きになった人」でオリコン週間ランキングで総合10位となり、以降2025年の「小夜啼鳥の片思い」まで7作連続総合TOP10入りを継続してきた。また、2025年は自らの楽曲をモチーフとしたミュージカル『プラハの橋』に初挑戦と、王道演歌でもポップスでもない絶妙なラインで24年間、目まぐるしい動きの音楽界をサバイブしてきた。
そんな彼が、2026年4月、通算31作目となるデビュー25周年記念シングル「純愛」をリリース。本作は、(作詞:松井五郎、作曲:幸耕平(みゆき・こうへい)、編曲:坂本昌之)という作家陣によるミディアムバラードだ。歌謡曲というよりも穏やかなJ-POPという聞き心地の良さがある。そこで、本作やそのシングルのカップリング曲、さらには25周年に向けた様々な取り組みについて、前後編の2回に分けてインタビューを試みた。この前編では、デビュー25周年記念シングル「純愛」にまつわるエピソードを中心にお届けする。
新歌舞伎座で行われた「竹島宏 25周年の入り口 Jewel Box〜トパーズ」 その前に、2026年3月に行われた新歌舞伎座での単独公演『竹島宏 25周年の入り口 Jewel Box〜トパーズ』について軽く触れておこう。本公演は、取材中 “新歌舞伎座さんだけのセットリストを組み立てていてすごく贅沢な内容なんです” と本人が語るほど趣向を凝らした内容だった。
まず1曲目、松田聖子の「瞳はダイアモンド」のカバーで始まり、その後 “踊らされちゃう歌謡曲” としての3部作「夢の振り子」「噂のふたり」「恋町カウンター」を立て続けに歌った。ここで竹島は、歌謡曲系の歌手とは思えないほど奇抜なダンスを取り入れており、彼の几帳面すぎるダンスはどこか笑みがこぼれてしまうので、是非ミュージックビデオやコンサートで確かめてもらいたい。
VIDEO その後は、オリジナル曲も交えつつ、『山上路夫作品で紡ぐロマンティック歌謡』と題して「ある日突然」(トワ・エ・モワ)「生きがい」(由紀さおり)「甘い生活」(野口五郎)の3曲をカバーするコーナーや、『色褪せない映画主題歌の世界』と題して、「ムーン・リバー」(ティファニーで朝食を)、「慕情」(慕情)、「好きにならずにいられない」(ブルー・ハワイ)、「アンチェインド・メロディ」(ゴースト / ニューヨークの幻)と懐かしの洋楽をカバーするコーナーが続いた。
特に、山上路夫コーナーでは、ミュージカルの経験を活かしたひとり語りを入れ、また洋楽映画主題歌コーナーは、すべて英語でカバーしつつ、ラスト「アンチェインド・メロディ」では高音でシャウトしながらエンディングを迎えるなど、ロマンティック歌謡歌手でありつつ、その枠に収まらない魅力をアピールしていた。
また、この公演では、2009年発売のシングル「禁じられた想い」を披露したが、発売当時と比べより感情が伝わる大人のバラードに成長していた。本作で初めて、松井五郎の作詞のオリジナル曲を歌うことになったが “先生の楽曲は、デビューする前からも安全地帯さんやCHAGE&ASKAさんに提供されたヒット曲を聴いていました。今思えば、この曲が現在の路線につながっていますよね” と、感慨深げに語った。
デビュー25周年記念シングル「純愛」 そして、この公演のアンコールで初披露されたのが、この4月にリリースされたデビュー25周年記念シングル「純愛」だ。筆者自身、竹島がそれ以前と比べて段違いに歌が上手くなっているように思えた。全体を繊細に表現しつつ、言葉の一つ一つが粒立って心に浸透してくるように感じたからだ。もともと、「♪離さない」の “は” や、「♪誰よりも」の “だ” などメロディーの頭を切なく歌う、いわば “竹島節” のような部分も残しつつも、作品全体をしなやかに歌いこなしているのが伝わってくる。これはどういった経緯で生まれたのだろうか。
竹島宏(以下:竹島):僕の作品は、2021年のシングル『プラハの橋』から、作曲の幸耕平先生が中心となってプロデュースをしてくださっていて、今回は今までやっていないタイプの歌を作られたんです。
僕も最初、デモテープを聴いた時はあまりにも大人しい曲で、これはリード曲の候補なのか?と疑ったくらいで(笑)。いつも幸先生は、勝負作となるようなスケールの大きな作品を作ってくださっていたのに、今回はあえて“一見”地味なんですよ。ただ、地味に聞こえるかもしれないけれど、ずっと聴いていたくなるような。地味だけどかっこいい作品、まさに僕のための作品です!
誤解を恐れずに言うと、筆者はマイナー調の大作がまた続くのでは… と心配していたので、メジャー調の「純愛」を聴いた時、正直ホッとした。
竹島:実は僕も嬉しかったですね。この作品の前に、幸先生に “次のシングルはメジャー調で、明るさの中にも儚げな淋しさもあるといいですね” と遠回しに伝えていたんです(笑)
実際、作詞の松井五郎もXで “飾り気のない純粋な気持ちを竹島君が導いてくれました” と絶賛していた。
竹島:でも実は戸惑いもあったんです。僕は、不幸な主人公の歌を得意としてきたので、これまでも違和感はありませんでしたが、この「純愛」の幸せな世界観をどうやって伝えたらいいんだろうって。もちろん、カップリング曲ではメジャー調の作品も多く、例えば「I love youをこの場所で」はカップリング曲の「ハルジオンの花言葉」で、“恋人の聖地親善大使” にも任命され、その親善大使として明るく歌えたのですが、今回の「純愛」は自分の歌としっかり歌いたいと思ったんです。
だから、最後の「♪守り続けたい あなたを」の着地点には特に気をつけました。2番では「♪僕をいつまでも信じて」となり、最後にまた「♪守り続けたい あなたを」できちんと回収する部分を、聴いた方がちゃんと受け止めてくださるのかどうか。ここが、一番難しかったかもしれません。
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一番ピュアな自分の声でレコーディングできた 実際、本作での竹島は、最初つぶやくような歌い方から、最後に決意が見えるような歌唱に昇華させており、竹島の丁寧な歌唱に深いため息が出るほどだ。
竹島:これは恋愛の歌なんですが、ある意味、僕からファンの皆さんへの思いを伝えるメッセージソングのつもりで歌いました。だから、歌だけでいかに感情が溢れ出てくるか、が今回のポイントなんです。「純愛」は来るべきタイミングで僕のもとにやってきてくれた作品だと思っているんです。初めて歌うタイプの曲だけど、竹島宏の “地味かっこいい” というイメージどおりの作品で、さらに何回も聴いていただくと、じわじわと温かいものがあるし、僕自身ようやくこの楽曲を歌える年齢になりました。こうした思いが、より多くの皆さんの心に染みわたっていけばと思っています。
こうしたレコーディングには、数日前の貴重な体験が少なからず影響したそうだ。
竹島:実は歌入れの数日前、教会でのライブで、「アメイジング・グレイス」や「ユー・レイズ・ミー・アップ」、さらには今回初めて知った「鹿のように」という讃美歌も歌わせていただいたんです。鹿は、神様の使いであり、私たちと神様の間をつないでくれる大切な存在だと聞いて、リハーサルの時に涙が止まらなくなって、僕が抱えていた何かが溶けていったように感じたんです。その経験があって、自分の心を取り戻せた気がしました。だから「純愛」は一番ピュアな自分の声でレコーディングできたと思っています。もちろん、ビジネスとして、ランキングも意識しなきゃいけないでしょうけど、大切なものを見失わないようにはしたいですね。
自分をアピールするキーワード、ロマンティック歌謡歌手 竹島は前年の10月のコンサートにて、自らを “ロマンティック歌謡歌手” と命名した。その最新シングルが「純愛」というのはバッチリだ。
竹島:僕は昔から “竹島君はネタがないんだよね~、だからプロモーションしづらくて” とよく言われていたんですよ(苦笑)。それで、これから先も歌手として頑張っていくために、自分をアピールするキーワードが欲しいなと思って、“ロマンティック歌謡歌手” が最もしっくり来たんです。この「純愛」は、今後どんどん歌い込んでいって “地味かっこいい” 竹島宏しか歌えないものに進化させたいんです。やっぱりお客様が目の前にいらっしゃった状態で、より良い歌い方を見つけていくのもこの25周年の大きな課題ですね。
幸耕平ならではのこだわりを感じさせる竹島宏への提供曲 その基礎となるレッスンのために、師匠である幸耕平のもとへ足繫く通っているそうだ。
竹島:初めてお邪魔したのが、2009年の “イケメン3” (北川大介、山内惠介、竹島によるユニット)の『恋の摩天楼』の頃だから、もう15年以上経ちますね。そこから、自分のオリジナル曲も作っていただくうちに “歌を真剣に勉強する気があるなら通ってもいいよ” と言われ、そこから週1ペースですね。
レッスンの後は人生相談のような話も。僕自身、周りのスタッフの方々に感謝しつつ、ファンの皆さんにまっすぐな気持ちで歌っていくよう心がけていますが、先生からも “この世界、真面目にやっているヤツが最後まで生き残るんだぞ” と背中を押してもらっています。皆さんから貴重なアドバイスをいただき、いつも甘えさせてもらいながら活動していますが、25周年を迎え、より全力で歌に情熱を注いでいこうと思いました。
ちなみに幸耕平は、昭和時代にも石野真子「ジュリーがライバル」、小泉今日子「常夏娘」、などのヒットを手がけているが、令和時代においては、竹島宏のほかに、純烈、辰巳ゆうと、市川由紀乃、梅谷心愛などオリコン総合ランキングでもシングルTOP10クラスになる他の歌謡曲・演歌歌手の作品も連続して手がけており、今やこのジャンルのトップ級の作家となっている。その中で、竹島宏に提供する作品は、楽曲の構成がちょっと複雑だったり、細かいメロディが多用されていたり、幸耕平ならではのこだわりを感じさせる。
竹島:それは、先生のこだわりでしょうね。先生がおっしゃるには、互いにライバルにならないよう年間最大でも6組のアーティストだけに曲を書くというポリシーがあるそうなんです。その中で、竹島の歌は、特殊なコード進行を使うので時間がかかるとおっしゃっていますね。作品によっては歌詞も書かれるんですが、竹島には物語性のあるものが合っているから、と近年は作詞家の先生に依頼されて曲に専念されています。そうやって練りに練った作品が多いので、お客様からカラオケで歌うのが大変だとよく言われますが…実は僕も大変で(苦笑)、レッスンに頻繁に通ってようやく歌いこなせているんです。
編曲家、坂本昌之の手腕による奥行きのあるアレンジ また、竹島宏の近年の作品がとてもエレガントな雰囲気に包まれているのは、徳永英明や平原綾香、Toshlなど落ち着いたJ-POPを担当することが多い編曲家、坂本昌之の手腕による所も大きいだろう。
竹島:2021年の「プラハの橋」からずっと坂本昌之先生にお願いしていますが、幸先生から物凄く細かい注文があって、最初のデモテープの段階から数えて毎回5~6回、多い時は10回ほど直しては仕上げてくださっています。制作費がかなりかさむらしいんですが、良いものを丁寧に作れば必ず聞いてくださる方にも伝わるというのもまた幸先生のポリシーです。だからこそ最終形は、奥行きのあるアレンジになるのでしょうね。坂本先生はアレンジだけでなく、ご自身もオシャレで紳士的。レコーディングの現場でもいつも “竹島さん、(演奏が)どこか歌いづらくないですか?” と心配してくださるんです。今回の「純愛」もとても丁寧な音作りなので、是非とも多くの人にじっくり聴いてほしいですね。
ーー インタビューに受け答えする態度からも、また発せられる言葉の隅々からも、常に自分に関わるすべての人々への配慮を感じさせる竹島だが、だからこそ、作家陣から、こうしたとても繊細なバラードである「純愛」が提供されたのだろう。本作が、今後、どのようにリスナーに浸透していくのか、またそれによって彼の歌唱がどのように変わっていくのか大いに期待したい。
後編となる【竹島宏 インタビュー】② では、これまであまり語られてこなかった竹島宏の葛藤や歌との向き合い方、さらには25周年に向けて新たに始めたYouTubeライブなどにも踏み込んでいく。
2026.05.08