竹内まりやの新曲、ハートフルなバラードソング「歌を贈ろう」 竹内まりやのシングル「歌を贈ろう」が、8月28日にリリースされた。前作シングル「君の居場所(Have a Good Time Here)」から1年8ヶ月ぶりのシングルで、今回ももちろん自身による作詞作曲、夫である山下達郎の編曲。そしてABCテレビ / テレビ朝日系ドラマ『素晴らしき哉、先生!』の主題歌で、彼女が学園ドラマの主題歌を書き下ろすのは初めてとのことである。
ドラマは生田絵梨花演じる主人公の若手高校教師・笹岡りおが、問題の多い生徒や保護者、先輩教師たちとのやりとりでストレスを抱え、夢と現実の狭間で悩みながらも成長していく物語だが、「歌を贈ろう」はこの主人公に寄り添うように、今を生きる人々を温かく見守るようなメッセージが込められた、ハートフルなバラードソングとなっている。
ピアノのイントロで始まる、しっとりしたミディアムのバラードは、竹内まりやがデビュー初期の頃から親しんできた70年代のウエストコーストを思わせるメロディーとサウンドで、どこか懐かしさを感じさせると同時に、この上ない安心感を持たせてくれる。さらに後半では生田絵梨花もコーラスに参加、ドラマと楽曲のマッチングが展開されているのだ。
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「元気を出して」が “2024 New Remaster” バージョンとして収録 ウエストコーストの香り、そして歌詞のハートフルな内容など、この曲を聴いて思い出すのは、竹内まりやが1984年に薬師丸ひろ子に提供した「元気を出して」である。薬師丸のファーストアルバム『古今集』に収録された1曲で、シングル曲を含まない全曲オリジナルで発表されたこのアルバムの中でも、ひときわ人気が高い曲で、竹内まりやも自身のアルバム『REQUEST』でセルフカバーしている。
この「元気を出して」は、のちに竹内自身が語ったところによると、ジェームス・テイラーと離婚したカーリー・サイモンを励まそうと考え作られた楽曲だったそうだ。薬師丸バージョンのアレンジは椎名和夫だが、竹内バージョンは山下達郎が、それこそジェームス・テイラー風の編曲を施している。失恋した女性を女友達が励ます、といった歌の内容は、今回の「歌を贈ろう」とテーマ的にも近いものを感じさせる。
竹内バージョンの「元気を出して」には、薬師丸ひろ子がコーラス参加しているが、今回の「歌を贈ろう」では、生田絵梨花が参加していることも連続性を感じさせる。何より、今回のCDのカップリング曲として「元気を出して」が “2024 New Remaster” バージョンとして収録されているのだ。
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和製リンダ・ロンシュタットと呼ばれた竹内まりや 竹内まりやは、デビュー初期の頃からウエストコースト・サウンドをこよなく愛するアーティストでもあった。また同時に、アメリカ西海岸の女性シンガー、リンダ・ロンシュタットを彷彿とさせる魅力を持ち“和製リンダ・ロンシュタット" と呼ばれることも多かった。英語が堪能で、乾いた感性を持ち、カレン・カーペンターや伊東ゆかりに通じる声質も、ポップスの歌い手として天性のものを感じさせたことは言うまでもないだろう。
彼女はデビュー当時、現役の慶應大生であった。ことに79年にリリースされたアルバム2作目『UNIVERSITY STREET』は、大学生のキャンパスライフを主題に、その後キャンパスポップスと呼ばれるジャンルの先駆け的な作品となった。このアルバムでは、カーラ・ボノフの「イズント・イット・オ ールウェイズ・ラブ」をカバーしており、この際のバックを務めたドン・グロルニック、ラス・カンケル、ワディ・ワクテルらはリンダ・ロンシュタットのバックバンドでもあった。初期のまりや作品は、当時の音楽シーンを沸かせていたウエストコースト・サウンドがベースの1つにあったのである。
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自身の音楽ルーツに忠実な作風で他のアーティストへ楽曲提供 また、初期から自作曲も発表していた彼女が、本格的に他のアーティストへの楽曲提供を始めるのが、活動休止後の80年代中盤以降で、河合奈保子、堀ちえみ、薬師丸ひろ子、岡田有希子、中山美穂ら女性アイドルへ書き下ろした作品はいずれも秀逸なポップチューンだが、これらも60年代のアメリカンポップスや70年代のウエストコースト・サウンドがベースになっている。
岡田有希子のデビュー曲として書き下ろした「ファースト・デイト」は、マイナー調の歌謡曲風メロディーに思えるが、この曲などは竹内まりやが幼い頃に親しんだ、弘田三枝子や伊東ゆかりなどのカバーポップス風でもある。こういった自身の音楽ルーツに忠実な作風は、自身の楽曲や提供曲を問わず、現在まで一貫して変わらない。
J.D.サウザーとイーグルスのカバーも収録 また、今回のCDには「元気を出して」の他にも、J.D.サウザー「ラスト・イン・ラヴ」とイーグルス「ニュー・キッド・イン・タウン」のカバーが収録された全6曲入りの構成になっている。J.D.サウザーは70年代ウエストコースト・サウンドの核となるアーティストで、前述のリンダ・ロンシュタットとも交流があり、特にイーグルスとの関係は深く “6人目のイーグルス” という呼び名もあったほど。
今回カバーしたイーグルスの「ニュー・キッド・イン・タウン」は、名盤『ホテル・カリフォルニア』に収録されたナンバーで、こちらもJ.D.サウザーが共同の作者としてクレジットされている。故にカップリングのカバー&セルフカバーの3曲は、「歌を贈ろう」の音楽的ルーツの提示、あるいはヒントのようになっているようだ。
このように「歌を贈ろう」は、竹内まりやの音楽的ルーツの1つであるウエストコースト・サウンドを2024年型にアップデートしたもののように感じられる。メロディーラインは竹内まりや固有のものであり、加えて80年代終盤から「シングル・アゲイン」「告白」などで歌謡曲的・日本的なメロディーも自身の中に取り入れてきた彼女の、絶妙なブレンド具合を感じさせるものだ。
ウエストコーストとジャパニーズポップスの融合。メロディーにピッタリと収まる、わかりやすい日本語の歌詞と、サビでの英語詞のはまり具合にもそんなことを感じさせる1曲だ。なお、10月16日には、10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』のリリースが控えている。この「歌を贈ろう」も収録されるとあって、今から期待が高まる。
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2024.09.16