連載【ディスカバー日本映画・昭和の隠れた名作を再発見】vol.18-「実録 私設銀座警察」
昭和のやくざ映画を代表するスター、安藤昇生誕100年
2026年が生誕100年ということで、特集上映やCS放映等で脚光を浴びている安藤昇。“誰、それ?” という方もいると思うので念のために説明しておくと、安藤は昭和のやくざ映画を代表するスターだ。やくざ映画というと鶴田浩二や高倉健、菅原文太などを思い浮かべる人が多いだろう。そんな中で安藤昇が特異であったのは、俳優に転身する前は本物のやくざの組長であったこと。反社のお人が映画スターになるなど今ではありえないことだが、昭和はそれほど大らかな時代だった。
1965年、服役を経て映画俳優に転身した安藤はやくざ映画の分野で当然のように注目され、1973年に『仁義なき戦い』が切り開いた東映の実録やくざ映画という路線で一気に狂い咲く。『仁義なき戦い』の以前と以後ではやくざ映画の主流はまったく異なる。以前は仁義を重んじるやくざの物語、すなわち仁侠映画だった。以後は実話にヒントを得た残酷なまでに生々しい実録モノ。言い換えれば、それまで仁義のある戦いを描いてきたやくざ映画のトレンドが本作の登場によってガラッと変わったということだ。
『仁義なき戦い』シリーズが1988年にビデオ化された時、大学生だった筆者はレンタルビデオ店でバイトをしていたが初めて観たときの衝撃は忘れられない。えげつないほど人間臭く、それでいてバイオレント。深作欣二監督作品らしい臨場感あふれるカメラワークはドキュメンタリーのよう。やくざ間の抗争をあくどさや汚らしさごと描いて見せたという点では、北野武監督の『アウトレイジ』シリーズの原点ともいえるだろう。
享楽的だが痛々しいカオスが渦を巻いていた「実録 私設銀座警察」
話を1973年に戻そう。実録路線は、すなわち実話に題材を得たやくざ映画。やくざだった安藤昇が、そこに出演しているとなれば観客の側も物語の説得力を簡単に得ることができる。安藤は、『やくざと抗争 実録安藤組』を皮切りに、次々とエネルギッシュな実録作品を送り出していく。
それらの作品の中でも、筆者の脳裏に鮮烈にこびりついたのは、『仁義なき戦い』の半年後に封切られた安藤主演の『実録 私設銀座警察』。これは昭和20年代前半、戦後の混乱の中で東京・銀座を中心に勢力を伸ばした裏社会の人々のストーリー。公開当初は史実と異なるという批判も浴びたが、それは『仁義なき戦い』にしても同じこと。肝心なのは、映画というフィクションの世界で、実話をベースにして何を描くかだ。そしてここには熱くも寒々しく、享楽的だが痛々しいカオスが渦を巻いていた!
簡単にストーリーを説明すると、昭和21年、敗戦の兵として辱めを受けていた若き復員兵たちが、反骨心をバネに銀座を根城にして裏社会でのし上がり、通称 “私設銀座警察” という暴力集団つくる。しかし彼らの結束は脆く、やがて仁義なき抗争に突入する…… というお話。広島を舞台にしていた『仁義なき戦い』の物語は10年以上にわたるが、こちらの映画の終幕は昭和23年、つまり2年ほどの物語。それだけに疾走感もある。
復員兵を演じた渡瀬恒彦の存在感
私設銀座警察のほとんどの幹部はやくざ気質が抜けず、主な事業は売春と麻薬、賭場。彼らがたがいのテリトリーを犯し始めたとき争いがおこる。もちろん、警察も乱入するのでバトルはカオス化。裏切り者の死体はブタ小屋に放り込まれてブタの餌に!殺し屋として雇われ、シャブ中となった復員兵はゾンビのごとく襲撃してくる!この復員兵を演じた渡瀬恒彦は、“死神” という呼び名のとおりの存在感だ。極めつけは、警察に逮捕される直前の酒池肉林の大宴会のクライマックスで、前衛ジャス風の音楽の効果もあり、サイケデリックな空気感に頭がぶっ飛んでしまいそうになる。
そんな混沌とした物語の中で、安藤が扮したのは、銀座警察の中でも頭が切れる幹部。戦後の混乱もそのうち収まることを見越して自分の組を株式会社化しようとして事業の合法化を図る。一方で若い部下にも腹いっぱい食べさせてやろうとする部下思いのところがあり、小林稔侍扮する、恋人が妊娠中の若いチンピラに所帯を持たせてやろうとひと肌脱いだり。本作における唯一の仁義あるやくざ者といえるかもしれない。カオスの中で野獣のようなキャラクターが揃うと、安藤昇のかっこよさが逆に際立ち、妙に印象に残ってしまった。
1988年に好評を博したニューやくざ映画
『仁義なき戦い』がビデオ化されたことで、若い世代が往年のやくざ映画の名作に注目し始めた1988年、この頃にはやくざ映画の新作が激減し、安藤も映画の世界から離れていたが、この年には面白い動きがあった。前年『ちょうちん』のやくざ役で賞賛され、俳優として上り調子にあった陣内孝則の主演作が2本立て続けに公開され、“ニューやくざ映画” と呼ばれて好評を博したのだ。
ひとつはユーモラスなタッチの『極道渡世の素敵な面々』。原作の安部譲二は安藤組の舎弟であったこともあり、そのときの体験を原作に反映している。安藤本人も、出番はわずかだが本作で久しぶりに映画出演を果たした。もうひとつの『疵(きず)』は、安藤組の大幹部だった実在のやくざ、花形敬の人生を描いたドラマ。安藤は企画プロデューサーの仕事を務め、映画化の実現に奔走したという。ちなみに花形敬の物語は度々映像化されており、安藤の俳優現役時代には『安藤組外伝 人斬り舎弟』(1974)では菅原文太が花形をモデルにしたキャラクターを演じている。
『仁義なき戦い』のビデオ化以降、東映は多くのやくざ映画をソフトリリース。安藤の主演作も今やほとんどが配信やDVDで観ることができる。この機会に、スカーフェイスの凄みも鮮烈な安藤作品に、ぜひぜひ触れていただきたい。
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2026.06.26