夏うたを2026年の視点で再編集 vol.20
おつかれSUMMER / HALCALI
ゆるラップのパイオニア的存在、HALCALI「おつかれSUMMER」
夏といえば海。海といえばナンパ。ナンパといえばひと夏の恋。この方程式は時代が変わっても変わらない。気がつけばそこで勝ち組と負け組が分けられている。それが若さであり、理性を失わせるのが夏なのである。HALCALIの「おつかれSUMMER」は、ゆるラップのパイオニア的存在らしく、夏のビーチでの出会いから夜の危機的状況までをコミカルにラップする。
リリックでは、とにかく背伸びしたい年頃の女の子の気持ちが描かれている。まだまだ日焼けも怖くない若さ 怖いもの見たさ(と韻を踏んでみる)である。「♪ハッとしてグッときてあなたに パットの胸踊る〜」と、田原俊彦の「ハッとして!Good」を引用しながら、ナンパになびく早さから胸のサイズまで見事に緩い。パット入りの胸を期待で膨らませ、健全にナンパされるも、その時になればおさらばして、でも少し後悔するのだ。覚悟の決まらない10代女子の揺れる乙女心よ……。
PUFFYの存在感にも近いHALCAとYUCALI
この「おつかれSUMMER」がリリースされた2003年といえば、SPEEDの影響でダンスやラップを始めた小中学生たちが色気づいてくる年齢になる頃。だけど、甘い恋のかけひきで、痛いこととか怖がっちゃうあたりの描写が文化系なのである。
HALCALIのHALCAとYUCALIは、当時まだ14歳と15歳の中学生。2人は小学生の頃にダンススクールで知り合った仲だ。彼女たちのラップは、あえて淡々とした抑揚のないもので、リズム感と滑舌だけで単調にならずに世界を広げていく。このあたりは女性2人組ということで参考にしたであろうPUFFYの存在感にも近いものがある。しかし、ダンスの下地があるからだろうか、言葉のキレは抜群に良い。
プロデュースを担当したのはFPM(ファンタスティック・プラスティック・マシーン)として活動を続ける音楽プロデューサーの田中知之。緩いラテン調のピアノが南国感を醸し出すトラックに8ビートのリズムという、いわゆるヒップホップ的なものと違った感性は、渋谷系の残り香的なものに文化系ラップを絡めて真夏を描いてみたという感じで、ノリイッパツのラップとは違うユーモアや批評性がある。だから、サマーソングなのにセクシーさはゼロだ。もちろん、歌うのが中学生ということもあるのだが、これがミレニアムの時代の空気だったのかもしれない。
TikTokでの総再生回数は70億回を突破
「おつかれSUMMER」は、ハルカリのファーストアルバム『ハルカリベーコン』(2003年)に収録されていたものだ。当時はアルバム中の1曲という程度の扱いだったが、2025年の4月頃からTikTokでこの曲を使ったUGC(一般ユーザーが生成したコンテンツ)が爆発的に増えてバズり始めた。結果、TikTokでの総再生回数は70億回を突破。ストリーミングの累計再生回数も1,5億回超え。各所音楽配信サービスが独自に集計したバイラルチャートでは、米国やアジア各国など、世界35か国でトップ50にランクインするというヒットとなった。
このヒットを受け、22年の時を経た2025年9月にはアニメによるミュージックビデオを制作して公開。2026年2月には『ハルカリベーコン』がアナログLP盤でリイシューされるなど、日本国内でも改めて注目が集まっている。HALCALIの2人も、2025年には小籔千豊が企画する音楽フェス『KOYABU SONIC』に出演。かつて共演経験があるTOKYO No.1 SOUL SETのステージにシークレットゲストとして参加。12年ぶりの再集結となった。今年(2026年)に入ってからは正式に活動を再開し、『SUMMER SONIC』をはじめとする夏フェスへの出演が予定されている。2人からしても、まさか曲が勝手に話題となって、活動再開にまで至るとは思ってもみなかっただろう。
ビーチはもう昔のように日焼けを気にせずなんて言ってられないほどに灼熱で、海に行く人が減ってきたとも聞く。代わりにすっかり定着した夏フェスでは、酔っ払いながら大盛り上がりするのにHALCALIの緩さはぴったり。でも熱中症には気をつけて。
2026.08.11