1998年 3月18日

ガールポップ時代の実力派シンガー【森川美穂】90年代最後の挑戦的アルバム「tasty」

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森川美穂90年代の7作品がリイシュー、配信開始


2023年9月27日、森川美穂が1990年代に東芝EMI(当時)で発表した7作のオリジナルアルバムが再びCD発売され、同時にストリーミングサービスでの配信も始まった。

この7作のアルバムは、オリコンTOP10入りが4作と森川美穂がセールス面で大きく飛躍したことに加え、アーティストとしての表現の幅も大きく広げている点が大きなポイントだろう。

実際にリリース順に簡単に説明してみると、まず、1990年の『Vocalization』は、彼女の突き抜けるような高音ボーカルを徹底的に追求し、キャリア初のオリコン週間TOP10入り(最高4位)。続く1991年の『POP THE POP!』では、さらにライブを意識した曲調が増加(こちらもオリコン最高4位)。そして、1992年の『FREESTYLE』は、夏を意識した爽快なポップス中心で、この頃からバラエティー番組『夢がMORI MORI』にレギュラー出演したことも奏功し、ファンを広げ自身最高のCD売上枚数に(オリコン最高10位)。



1994年の『情熱の瞳』は、軽快なポップスから壮大なバラードまでバランスの取れた編成(オリコン最高10位)。さらに1995年の『HALLOW』は、激しいダンスビートから、シンプルな演奏でのバラードまで大きく幅を広げ(オリコン最高19位)、1996年の『Solista』では、ラテンに大きく舵を切って、新たな “森川美穂” 像を打ち出した(オリコン最高29位)。そして、同レーベルでのラストアルバム『tasty』は、さらに一転し、ソウルを中心とした落ち着いたサウンド中心となっている(オリコン最高90位)。

次のキャリアへとステップアップした森川美穂の「tasty」


実際のヒット時期と一致するように、“パワフルなド直球こそ森川美穂” という印象を持つ人も多いことだろう。しかし、そういった安定路線をあえて選ばない『tasty』のような作品を発表していたことは、更に次のキャリアへとステップアップしたいという本人の決意も強かったのではないだろうか。

実際、98年にはブロードウェイミュージカルの日本版『RENT』に、また01年には蜷川幸雄演出のミュージカル『三文オペラ』にそれぞれ出演を果たしている。さらに、98年から02年にはポピュラーソングをカバーする音楽番組『青春のポップス』にも度々出演していた。これも、本作のように幅広いポップスに挑んだからこそ、確かな自信に繋がったと考えるのが自然だろう。その意味でも、このセールス的には地味かもしれない『tasty』も、あらためて聴いて欲しいと思い、今回取り上げることにした。以下、順を追って作品を見ていこう。



まず、1曲目「Father Sun」は、ブルージーなギターとダンスビートが絡むミディアムナンバー。その数年前まで、1曲目からかっ飛ばしてきた元気なイメージを待ち構えていると、艶っぽくもタフな歌声が聞こえてきて想定外のカッコよさに度肝を抜かれる。続く「もう一度恋してみようかな」は、キュートなボーカルが映えるクラブ系サウンドのラブソング。これも、初めて聴いたら森川美穂とは分からないだろう。

3曲目の「それでもみんな生きている」と4曲目の「Soul Generation」は先行シングルだが、いずれもファンキーなナンバー。この98年はMISIAを筆頭に女性R&Bブームが一気に巻き起こったが、森川のように、前向きな日本語中心の歌詞とファンクという組み合わせで攻めていくアーティストは、かなり珍しかった。

さらに、5曲目の「ながれたい」は、ギターやピアノを中心としたシンプルな演奏の中で、なんとなく次の場所へと流されたいという不穏な感情をサラっと歌うスローバラード。これも、一見地味ながら彼女にとってはかなりの挑戦だっただろう。

サウンド面で果敢に新路線に挑む


後半は更に深淵へ向かう。まず、6曲目「真夜中の海」は、過去の恋愛を海へ葬るような自作詞のミディアム曲。ダンスビートと融合するような呟き気味のボーカルが、切なさを増幅させる。続く「遠い空を」は、アコギとマンドリンだけの中で、終わった愛を回想する哀しくも優しいバラード。8曲目「Life To The World」は、カントリーポップス風ではあるものの、明るく前向きな歌詞、9曲目「愛してるなら」の方も、ダンサブルなビートとエレキギターがループしつつも、愛に向かって真っすぐな歌詞で、まさにこれらは従来のイメージ通りだ。

彼女のヒット路線が好きな人は、まずはこの2曲から聴いてみると良いかもしれない。逆に言えば、それ以外の8曲はほぼ想定外だし、この2曲もサウンド面で果敢に新路線に挑んでいる。

映画のエンディングを観ているかのよう、最大の意欲作「あじさい」


そして、最大の意欲作がラスト収録の「あじさい」。儚くかすれた歌声から凛とした力強い歌声までの幅広いレンジで、別れにトドメを刺す瞬間を森川が歌い込んでいるのだ。間奏にて作詞・作曲を手がけた柴草玲が2分近くピアノを弾いた後、狂おしく咲き乱れ、そして散っていくように森川がドラマティックに歌う様子は、まるで映画のエンディングを観ているかのようで息を吞む。

こんな風に1曲ごとの繊細なこだわりが本作の大きな特徴だろう。1990年代は、ビーイング系や小室哲哉サウンドなどのヒットが量産された時代で、森川自身も、上へ、前へとぐんぐん伸びる歌声でヒットアーティストの仲間入りを果たした。だからこそ、その反動でどの枠に収まらない作品を作りたかったのかもしれない。おそらく、一度だけより二度、三度と聴いた方が、心に沁みる作品で、当時、ピンと来なかった人も、いい大人になった今だからこそ、是非聴いてもらいたい逸品とここに断言したい。

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2023.10.30
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カタリベ
1968年生まれ
臼井孝
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