3月8日

美少女・小川範子が歌う「桜桃記(ひとひら)」切ない想いが時を超え胸をしめつける

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「東京宝映テレビ」の広告に載っていた谷本重美という少女


その美少女の存在はわりと早くから認識していた――。

昔はよく、平凡や明星といった雑誌に劇団の新人募集の広告が載っており、中でもよく見かけたもののひとつに「東京宝映テレビ」があった。その時々に所属していた看板俳優が広告の顔になっていて、70年代後半には大場久美子、まだ日高のり子になる前の伊東範子、80年代になると三原順子、そして80年代後半には、谷本重美という少女の写真が掲げられた。

子役から活動していた彼女はいかにもアイドル然とした可愛らしいルックスで、TBS系『おんな風林火山』で比企理恵が演じた真理姫役の少女期や、フジテレビ系『愛の嵐』で田中美佐子が演じたひかる役の少女期を演じるなどして、次第に注目を集めてゆく。

幼い頃から培ってきた演技力が高く評価された小川範子のレコードデビュー


芸名を「小川範子」に改めた1987年には、TBS系『スタンドバイミー~気まぐれ白書~』で反抗期の少女を演じたり、TBS系『3年B組金八先生スペシャル6 新・十五歳の母』で妊娠する中学生役を熱演して、幼い頃から培ってきた演技力が高く評価されることとなる。

そこで遂に歌手デビューの話が聴こえてきたのだった。テレサ・テンや早見優が所属するトーラスレコードからのデビューが決まり、1987年11月25日にファーストシングル「涙をたばねて」がリリースされた。11月のデビューは1988年組の新人ということになり、Winkや西田ひかる、谷村有美らと同期にあたる。

中崎英也の曲、川村真澄の詞による「涙をたばねて」は、たしかに名曲だし、表現力も素晴らしいのだけれど、個人的にはちょっと暗いイメージが強すぎるように思えてしまった。

ラジオ番組の素の喋りを聴いていても、決してそんな大人しいだけのキャラではなかったのに、少々作り込まれ過ぎていた感がある。「永遠のうたたね」「こわれる」「ガラスの目隠し」と続いた1988年のシングルも、マイナー調が主体で統一感が保たれていた。同じ女優のレコードでも、次はどんな曲で来るだろうか予測がつかなかった斉藤由貴とはまた違う、一貫して穏やかな展開だった。

しかしそれはあくまでも一個人の感想であり、ずっとブレずに、たおやかな少女路線を貫いていた “歌手・小川範子” に心酔していたファンは多かったのだろう。

「ザ・ベストテン」にランクイン。内に秘めた少女のひたむきさを最も感じさせる「桜桃記」


セールス的にも悪くなかった。1989年春にトーラスから出されたプレス資料では、「88年新人実績第1位」と掲げられ、女性新人部門のレコード売り上げ、オリコンウィークリーの読者人気投票、月刊明星の女性読者が選んだ期待できる新人女性アイドル、それぞれの第1位がアピールされた。そしてそこでアナウンスされたのが、1989年3月8日発売のニューシングル「桜桃記」であった。

「’89春、少女からの旅立ち」というコピーの下、通算5枚目のシングルとなった「桜桃記」は「ひとひら」と読む。そしてこれが個人的に一番好きな小川範子の楽曲である。それまでの路線が保たれつつ、内に秘めた少女のひたむきさを最も感じさせる曲。当時15歳にしては随分と丁寧でしっかりした彼女の歌唱と、儚げな佇まいのギャップに魅了され、特徴的なサビのメロディは何度でも聴きたくなる。

さらに印象深いのは、この曲が僅か1週間だけ、かの『ザ・ベストテン』にランクインしたことだ。3月23日の放送で9位となり、番組初登場。ところが翌週にはもう10位圏外となり、再登場の機会がないまま、半年後に番組は終了してしまった。まさしく “ひとひら” の想い出。これは彼女自身にとっても、きっと忘れられない出来事だったに違いない。

この後もコンスタントにリリースが続いたようで、90年代だけで10数枚のシングルが出されていたのは、女優活動も活発だっただけにちょっと意外に思える。小川範子は “短冊” と呼ばれるCDシングルの時代に最も潤沢にリリースを重ねたシンガーだった。が、やはり今も聴きたいのは「桜桃記」の頃なのだ。

「桜桃忌」は作家・太宰治を偲ぶ日だが、「桜桃記」は歌手・小川範子を思い出す傑作である。歌の中で描かれた、好きな気持ちを伝えられないままのさよなら。少女の切ない想いが時を超えて胸をしめつける。

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2023.07.20
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カタリベ
1965年生まれ
鈴木啓之
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カタリベ / KARL南澤