スリー・ストーリーズ by Re:minder
輝く還暦アイドル ② 中森明菜
“伝説" から “ひとりの人間” へと戻れた中森明菜
明菜ちゃん!
2022年の再始動報告から3年経ち、のびのびと歌手活動を続ける中森明菜。むしろ、10代の頃よりも今のほうが “ちゃん!" と呼びたくなるあどけなさがある。2018年の活動休止以来、もう芸能界に戻ってこないかもとずっと思っていた。ようやくその不安がほぼなくなるような、とびきり自然な笑顔を見せてくれている。7月に還暦を迎えたが、そんな彼女を応援できるのが、本当に嬉しい。
昭和、平成と、芸能界の華やかさと過酷さが、中森明菜というフィルターを通して見えていた。コンプライアンスなどゼロ、権力がものをいった1980年代。中森明菜は、自分を摩耗するかのように光り輝き、明らかにすり減っていった。平成に入ってからも、何度か活動休止を挟みつつ、ドラマ出演もし、ヒット曲を出し続けたけれど、彼女のペースとは言い難かった。
そして令和。やっと環境が整った。―― そんなイメージがある。誤解を恐れずにいうと、彼女は還暦を迎え、ようやく “伝説" から “ひとりの人間” へと戻れたのではないだろうか。
YouTubeという心強いツール
彼女の完全復活のプロセスを追っていくと、YouTubeを中心とした、配信ツールが大きなカギとなっている。いきなり、不特定多数が見るテレビに出演するという高いハードルがなくなったのだ。YouTubeをはじめとした便利なツールを使い、自分を信じてくれる人、待ってくれる人に向けて、自分のペースで復活すればいいのだ。まさに、明菜ちゃんにぴったりであった。
2023年12月23日に公式ウェブサイト『AKINA NAKAMORI OFFICIAL』が立ち上がり、そこに映る明菜ちゃんは、“ちゃんと” 年を取っていた。そして数々の名曲を、今の声を活かしたJAZZアレンジで歌い、再び私たちの心を動かす。若い頃の伸びやかな歌声も好きだったけれど、現在のビブラートが細かく利いた歌声は、濃厚で神聖な聴き心地。
ドリップコーヒーのように、ぽつん、ぽつんと一滴ずつ、感情が落ちてくるように、静かに沁みる。無理に1980年代の伝説を再現しようとしない。だからこそ、彼女の魅力がよりストレートに伝わってくるのだ。私はガッツポーズした。これだよ、YouTubeの正しい使い方はこれなんだよ!
その後、明菜ちゃんは動画を上げ続けつつ、ミッツ・マングローブや中川家など、彼女のファンを公言し、応援し続けてきた人たちのラジオや番組に、まるで恩返しをするように出演していった。香取慎吾とのコラボレーション「TATTOO(feat. 中森明菜)」もそうである。 “中森明菜” としての活動がうまくいくために動くのではない。ただただ大好きな人たちのために動くのが一番の喜び、というスタンス。それが回り回って、彼女の追い風になっているイメージなのだ。
お帰りなさい!明菜ちゃん
そして、ついに野外フェス『ジゴロック2025〜⼤分 ”地獄極楽” ROCK FESTIVAL』に出演。このライブで、彼女は叫ぶ。
盛り上がっていますか~? 明菜だ。生きてたぞ~!(中略)7月になったら還暦だ~! もうちょっと、あとちょっともうちょっと10年くらい前だったらもうちょっと踊れたかもしれない。だけど、精いっぱいやっているつもりだ!
私はその映像を見て大感動した。なんというか、ものすごくホッとしたのだ。ああ、彼女を悲哀の歌姫と伝説化し、腫物のように触るような風潮を、中森明菜自身が終わらせたのだ。明菜ちゃんが明るく自分の年齢を叫び、息を上げながら「TATTOO」や「愛撫」を歌っている姿が眩しかった。「DESIRE -情熱-」では会場からの、温かな「♪はー、どっこい!」という合いの手が響いていた。誰かにお尻を押され、高い高い木の上に上がってしまい、1人で降りられなくなっていたが、長い時間をかけてようやく降り、居心地の良い草原にやっと足をつけた。そんなシーンが目に浮かんだ。
本当にお帰りなさい、明菜ちゃん!
その後も、アニメ『あらいぐま カルカル団』のゲスト声優、インスタ開設、明治チョコレートのCM出演、『VOGUE JAPAN』のロングインタビューと、順調に、ゆっくりと活動の場を広げている。昭和・平成では、ままならなかった “マイペース"を、60歳にして手に入れた中森明菜。還暦は、もう一度生まれ直すという意味があるらしいが、明菜ちゃんを見ると、本当にそうだと思えるのだ。
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2025.10.07