大阪の大学に勤めるようになって、驚いたことの一つは『そうだ 京都、行こう。』のCMを教え子たちが知らないことだった。『My Favorite Things』のイントロを聴かせても、実際にCMを見せても、きょとんとしている。なるほど、「そうだ 広告、やってなかった。」のだ。
関西地区の地上波テレビではJR東海のCMを目にする機会はない(民放BSでの全国放送もあるが、接触率はかなり低い)。あのテーマ曲も、長塚京三の声も、かれらにとっては何の記号でもない。むしろ、かれらにとっての京都の広告は『そうだ 京都、行こう。』ではなく、京阪電車『おけいはん』なのだ。大阪での新幹線のCMといえば、JR西日本「山陽新幹線で西に行こう」であり、人々がイメージする音楽は谷村新司なのである。
JR東海が地上波テレビCMの投下エリアに選んでいるのは、首都圏〜名古屋まで。だから『クリスマス・エクスプレス』のCMも、オンエア開始の1988年当時は、関西はもちろん、九州や四国の人にも、いったい何の事やらちんぷんかんぷんだった筈だ。『そうだ 京都、行こう。』も例外ではなく、全国の人が目にするCM素材ではない。露骨なローカルCMならいざ知らず、あんなクォリティの高いCMが地域限定なのは驚きだが、あくまで東海道新幹線の旅客輸送量をアップさせるための宣伝と知れば、納得がゆく。
だから面白いのは、JR東海の京都CMの事情を説明すると「東京の(全国放送の番組を関西ではこう言う)バラエティで、なんで京都のシーンにこれを使うのか初めて分かりました」なんて言う子がいる。この現象を、東京中心主義に毒されてしまった結果と見るか、否、こまかいスポンサーの事情までは思い至らないと見るかは、意見のわかれるところ。ただ、キー局の番組制作者は、ときに自分たちの常識を疑ってみる必要はありそうだ。
My Favorite Things(私のお気に入り)
作詞:Oscar Hammerstein II
作曲:Richard Rodgers
1959年につくられた有名なスタンダードナンバー
ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の一曲で、ジョン・コルトレーンのカバーも有名
2016.04.04
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