チープ・トリック、最後の来日公演
チープ・トリックが来日する。フェアウェル・ツアーだ。そして、2025年10月1日に開催される東京公演は、彼らの聖地である日本武道館でのライブ!今回の来日公演を見逃したら、日本でチープ・トリックのライブを観ることは今後できない。何があっても譲れない必見のライブだ!
チープ・トリックの代表作は『チープ・トリックat武道館』であることに異論を挟む余地はないだろう。代表作であり世界的な最初のヒット作がライブ盤というアーティストも極めて珍しいが、チープ・トリックのライブが、それほどまでに魅力的だということの証明と言える。
音楽至上主義を貫くリック・ニールセンのユーモアセンス
チープ・トリックはバカテクの演奏能力があるわけでもないし、ライブにおいて派手な舞台演出があるわけでもない。彼らのライブはご機嫌にポップなナンバーを熱くストレートに演奏するという極めてシンプルなもの。そこにちょっとしたユーモアを加えると不思議なことに唯一無二のチープ・トリックの個性が発揮される。
このユーモアセンスを担っているのはギターのリック・ニールセンだ。
いつもちょっと小さめのベースボールキャップを被った変なおじさんが面白おかしいステージアクションを所狭しと決めながら、ラウドなギターをかき鳴らす。同時代に活躍した多くのギタリストたちはライブになるとこれ見よがしに派手なギターソロを弾きまくって陶酔するものだが、リックはそんなことはしない。そのかわりにネックが何本もついているド派手で変な形のギターを弾いてくれる。
リック・ニールセンの変なおじさんキャラ設定とユーモアのセンスはロックをやることへの照れ隠しのように思えてならない。ロックスターとしてカッコつけるのって、ナルシストじゃないとできないことだと思うのだが、リックはロックスター気質になれない自分に自覚的で、それでもロックをやり続けるためのペルソナとして、面白おかしい変なおじさんギタリストを演じている。こうしたキャラ設定とは裏腹に、ギタープレイはポップな楽曲を引き立てる堅実な演奏を身上とし、音楽至上主義を貫く姿勢からは、生真面目な性格が垣間見れる。
チープ・トリックのアイドル人気を支えてきたロビン・ザンダー
ついつい私の推しメン=リック・ニールセンのことばかりを書いてしまったが、他のメンバーだってライブにおいて、その魅力を存分に発揮している。
フロントマンのロビン・ザンダーは甘いマスクでチープ・トリックのアイドル人気を支えてきたボーカリスト。その歌声はルックス同様に甘くロマンティックなスローナンバーから轟音ギターに負けないシャウトまで歌いこなす本格派だ。ベースを弾くのはロビンと共にアイドル人気を二分していたイケメンのトム・ピーターソン。彼が弾く12弦ベースの音はぶっとく、リックがかき鳴らすノイジーなギターと融合することでライブ演奏のダイナミズムを生み出している。
そして、ドラムはオリジナルメンバーのバン・E・カルロスの後を引き継ぎ、ダックス・ニールセンが叩いている。そう、彼はリック・ニールセンの息子で、父親のようなエキセントリックなキャラクターではないが、チープ・トリックのドラマーとして10年以上のキャリアを積んでおり、他のメンバーとのコンビネーションもバッチリだ。更にギターとコーラスのサポートメンバーとして、今回の来日公演にはロビン・ザンダーの息子、ロビン・テイラー・ザンダーが同行する。私も彼を観るのは初めてなので、今から楽しみで仕方ない。
現在進行形のロックバンドが再び武道館のステージに立つ
個性あふれるオリジナルメンバーの結束に若い血を導入して、現役バリバリのライブをやってのける力量があるのにフェアウェル・ツアーなんて勿体ないとしか言いようがない。しかし、オリジナルメンバーの年齢や健康状態を考えると仕方ないことなのだろう。リック・ニールセンが変なおじさんから変なお爺さんになってしまう前にステージ活動から身を引く決断をしたことも実に彼らしい幕引きだと思う。
同時代を生きた多くのバンドがナツメロバンドになってしまったにもかかわらず、チープ・トリックはルーツ回帰の枯れた渋いバンドにもならず、もちろんナツメロバンドにもならなかった。また、1990年代以降はパワーポップの元祖としてオルタナティブ・ロックのバンドたちからのカルトな支持とリスペクトを集め、現役感を維持したまま今日に至っている。
2025年10月1日、彼らは再び日本武道館のステージに立つ。私は最後の “at武道館" を存分に楽しみたいと思っている。チープ・トリックのライブを観るのはおそらく今回が最後になるわけだが、寂しい気持ちで観るのは絶対に嫌だ。だって、感傷的になるのは彼らに一番似合わないのだから。
▶ チープ・トリックのコラム一覧はこちら!
2025.09.30