語り継がれる坂本九の名曲たち！上を向いて歩こう、見上げてごらん夜の星を、心の瞳…

没後40年を迎えた稀代のエンタテナー・坂本九

人懐っこい笑顔で誰からも愛され、世界的ヒット「上を向いて歩こう」を歌った稀代のエンタテナー・坂本九。この夏（2025年）で没後40年を迎え、存命であれば83歳。まだ現役で歌っていても不思議ではない年齢なのだ。40年前の悲しい記憶は忘れようがないが、フィルムやビデオで若き日の姿が見られ、音盤に遺された歌声も聴けるのはスターの特権であろう。８月には『坂本九』と題した３枚組のベストCDもリリースされた。昭和100年を飾るに相応しい昭和最大のスターである。

1941年12月10日、神奈川県の川崎で生まれた坂本九（本名・大島九）は高校生の頃からエルヴィス・プレスリーに憧れ、高校になると立川の米軍基地で将校クラブのステージに立ち、初めて人前で歌を披露した。その後バンドボーイを経て、1958年５月に井上ひろしとザ・ドリフターズに加入してボーカル兼ギターを担当する。このザ・ドリフターズは後のコントグループの前身である。８月26日には第３回『日劇ウエスタンカーニバル』にロカビリー歌手として初出演。そして同年12月にダニー飯田とパラダイス・キングに加入した。

初のヒットとなった「悲しき六十才」

1959年10月にビクターから発売されたダニー飯田とパラダイス・キングにとって初のシングル「何もいらない俺だけど / 題名のない歌だけど」が坂本のデビュー盤となり、Ｂ面でメインボーカルを担当。翌1960年には東芝レコード専属となり、８月に出された再デビュー盤「悲しき六十才」もダニー飯田とパラダイス・キング名義ではあったが、実質は坂本のソロで、初のヒットとなる。

ダリオ・モレノらが歌っていた「ムスターファ」のカバーだった「悲しき六十才」は、作詞家・青島幸男の処女作となった。そればかりでなく、フジテレビの椙山浩一（すぎやまこういち）との繋がりで青島を紹介された東芝レコードのディレクター、草野浩二にとっても最初のディレクション作品となる初ものづくしの１曲となった。青島はその後「九ちゃんのズンタタッタ」の作詞・作曲を手がけた後、ハナ肇とクレージーキャッツのメンバー、植木等のデビュー曲となった「スーダラ節」でその才能を一気に開花させる。

代表曲は「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」

さらに「ステキなタイミング」や「カレンダー・ガール」といったヒット曲が連なる中、1961年10月にいよいよ「上を向いて歩こう」が登場する。７月に大手町・産経ホールで開かれた『第３回中村八大リサイタル』で初披露された後、同年スタートしていたNHKの音楽バラエティー番組『夢であいましょう』におけるテレビ初歌唱（８月）を経て、10月・11月に “1今月のうた” として紹介されてヒットに至った。そして、２年後の1963年６月には「SUKIYAKI」のタイトルで『ビルボード Hot 100』の３週連続１位となる快挙。世界的に知られる日本の代表曲になった。全米１位という日本人初の記録は、以降も現在に至るまで破られていない。



歌手・坂本九の名が今も広く浸透しているのは、もうひとつの代表曲「見上げてごらん夜の星を」の存在も大きい。いずみたくが音楽を担当し、1960年に初演された同名ミュージカルの主題歌として作られた曲を劇中で最初に歌ったのは伊藤素道とリリオ・リズム・エアーズだったが、1963年の再演の際に坂本九が歌い、レコード化されてヒットに至る。作詞は「上を向いて歩こう」と同様の永六輔。多くのアーティストにカバーされ続けている両曲は、2011年の東日本大震災の後、復興に向けて制作されたCMソングに使われたことも記憶に新しい。共に日本のポップス史に残るエバーグリーンである。

ウルフルズのカバーもヒットした「明日があるさ」

他にも「明日があるさ」「幸せなら手をたたこう」などヒット曲がたくさん。意中の女性に恋心を打ち明けられない男子学生の思いをコミカルに描いた「明日があるさ」は、日本テレビの音楽バラエティー番組『夢を育てよう』のオープニングテーマとして青島幸男 × 中村八大コンビが手がけた作品だった。2000年には缶コーヒー・ジョージアのCMをきっかけに、翌年リリースされたウルフルズのカバーもヒットし、同時に吉本興業の芸人によるユニット、Re:Japanのカバーもヒットしてドラマ化までされている。



活躍の場は映画、テレビ、舞台と幅広く、タレントとして司会業もこなすなど、あらゆるメディアを席巻した。昭和初期から活躍した大エンタテナー、エノケンこと榎本健一が自分の後継者に坂本を指名したのは有名な話。小児麻痺患者のためのチャリティー『あゆみの箱』の運動など、ボランティア活動にも積極的に参加した。札幌テレビ放送主催のチャリティーショーに10年続けて駆けつけたことをきっかけに、1976年からの同曲の福祉番組『ふれあい広場・サンデー九』に取り組み、月に２回北海道の施設を取材する番組は急逝するまでの９年間にわたって放送された。

夫婦や家族の絆をテーマにした「心の瞳」

最後に紹介したいのは、没後に再注目され、スタンダードソングになった「心の瞳」だ。1984年に東芝EMIからファンハウスへ移籍後、初となったシングル「懐しきlove-song」が1985年５月にリリースされた。結果的にこれがラストシングルとなってしまったわけだが、時を経てそのカップリング曲である「心の瞳」に再評価の声が高まっていく。

作品のテーマは夫婦や家族の絆。由紀子夫人への坂本の想いが綴られた心温まるラブソングである。ラジオ番組でこの曲を聴いた中学校の音楽教師が生徒の合唱のために編曲を施した合唱曲として広まり、音楽の教科書に掲載されるようになったのだ。



初ヒットとなった「悲しき六十才」から、日本人なら誰もが知り、一度は口ずさんだことがあるであろう「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」「明日があるさ」「心の瞳」… 稀代のエンタテナー・坂本九が遺した楽曲の数々。その輝きは時代に風化されず、今も色褪せていない。

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2025.10.05