2023年 9月22日

グラミー新人賞のチャペル・ローン!ルーツはデヴィッド・ボウイとシンディ・ローパー?

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チャペル・ローンのデビューアルバム「The Rise and Fall of a Midwest Princess」発売日
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チャペル・ローンはアメリカ中西部出身のポップシンガーだ。派手で演劇的なキャラクターと、誰もが口ずさめる王道ポップを両立させた新しいタイプのポップスターである。2023年、とんでもなく完成度の高いデビューアルバムを発表。2025年には第67回グラミー賞で『最優秀新人賞』を手にしたことよって、一気にメインストリームの中心へと躍り出た。彼女は決してマニアックな存在ではない。むしろ、いまのポップのど真ん中にいる。そして、そのど真ん中で起きている変化こそが、今回のテーマである。

キセントリックなのに、メロディは驚くほど素直でキャッチーと


チャペル・ローンの音楽を初めて聴くと、多くの人は少し戸惑うはずだ。見た目や振る舞いはかなりエキセントリックなのに、メロディは驚くほど素直でキャッチー。この見た目と音の落差が強く印象に残る。普通こうはならない。個性的なアーティストほど音も実験的になり、ポップに徹するなら見せ方はシンプルな方向に向かう。しかし、彼女はその両方を同時に成立させている。この落差こそが、彼女の魅力の核だ。

“ミッドウエスト・プリンセス” というキャラクター


彼女のメロディはとにかく分かりやすい。サビは一度で覚えられ、自然と口ずさめる。徹底して誰にでも届くように作られている。これは偶然ではない。彼女にとって、ポップであることは戦略であり、必然なのだ。自身のエキセントリックな存在や、同性愛者としての個人的な経験を多くの人に届けるためには、まず入口が開かれていなければならない。誰でも入ってこられる音楽であること。その役割を担っているのが、この徹底してポップなメロディである。どれだけ中身が個人的でも、入口は広く。この設計が、彼女の音楽を支えている。

彼女はレズビアンとしてのアイデンティティを持ち、その経験を音楽に落とし込んでいる。ただし、それをそのまま語るのではなく、“ミッドウエスト・プリンセス” というキャラクターを通して表現している。これは、アメリカ中西部に根付く保守的な女性像―控えめで周囲と調和し、良い子であることを求められる存在をベースにしたものだが、彼女はそれを、そのまま再現しない。誇張し、逸脱し、時に壊す。華やかすぎる装い、過剰な感情表現……。

そこには、保守的な価値観の中で抑えられてきた衝動が溢れている。そしてその価値観を否定するのではなく、内側から乗り越えることで物語にリアリティを与えているのだ。“ミッドウエスト・プリンセス” とは、従うための役ではない。越えるための装置なのだ。



デヴィッド・ボウイ、シンディ・ローパーとチャペル・ローンの共通点


チャペル・ローンのデビューアルバムのタイトルは『The Rise and Fall of a Midwest Princess』、このタイトルを見たとき、思い出される作品があった。デヴィッド・ボウイの『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』(邦題:ジギー・スターダスト)だ。 “Rise and Fall(上昇と崩壊)” という構造とキャラクターを軸にした物語。この共通点は偶然ではない。

デヴィッド・ボウイが “ジギー” というキャラクターを通して自分を語ったように、チャペル・ローンもまた “ミッドウエスト・プリンセス” を通して自分の物語を語っている。ただし、その意味は少し違う。ボウイが異物としての自分を演じたのに対し、彼女は居場所を作るための自分を演じているのだ。そう、同じ手法が時代によって役割を変えている。ここに、ポップミュージックの連続性と今昔の違いが見える。

もう1つ見逃せないのが、シンディ・ローパーからの系譜だ。ポップでありながら個性を前面に出すというあり方から、その影響の大きさが強く感じられる。チャペル・ローンは、デヴィッド・ボウイの “キャラクターによる自己表現” と、シンディ・ローパーの “ポップの中での個性の爆発” を両立させている。その結果、曲はポップで分かりやすい。しかしその中身は強烈に個人的であるという、独特のバランスが生まれている。

2020年代、チャペル・ローンをはじめ、リナ・サワヤマ、チャーリーXCX、ピンクパンサレス、オリヴィア・ロドリゴなど、個性的な若手女性アーティストの躍進には目を見張るものがある。そんな彼女たちの共通点とはーー それは尖っているのにポップであることをやめない。むしろ、その両立こそがこれからのポップの条件になる。もしまだチャペル・ローンを聴いたことがないなら、まずは1曲サビまで聴いてみてほしい。ポップなのに、どこか普通ではない。その違和感の正体こそが、いまのポップの最前線である。


2026.05.29
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カタリベ
1972年生まれ
岡田ヒロシ
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カタリベ / 岡田ヒロシ