埋もれた名作、朝比奈マリア「ディスコ・ギャル」
近年シティポップブームと言われてから、数々の過去の作品が評価されるようになった。竹内まりや「プラスティック・ラヴ」、松原みき「真夜中のドア」から始まり、今では70年代・80年代アイドルの楽曲もシティポップとして評価されるようになった。しかし、まだまだ埋もれている作品はたくさんある。
朝比奈マリアのデビュー曲「ディスコ・ギャル」は、まさにDJ界隈や一部のマニアックな人しか知らない、埋もれた作品と言えよう。
朝比奈マリアは、歌手・雪村いづみとイタリア系アメリカ人の男性の間に生まれる。モデルとして芸能界デビューすると、ハーフタレントとしてバラエティ番組などでも活躍していた。
当時の私は小学生。キャロライン洋子やゴールデン・ハーフのエバといったハーフタレントと同じジャンルのバラエティタレントという認識でテレビを見ていたのだが、ある日、彼女がテレビで歌っている姿を見かけることになる。
ーー それが朝比奈マリアのデビュー曲「ディスコ・ギャル」である。
山下達郎と吉田美奈子がコーラスで参加
当時流行りのディスコサウンドに乗せ、ほどよく混ざる英語の歌詞、コーラスの美しいハーモニー… 私はちょうと、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの音楽に興味を持ち始めた頃で、この曲も子ども心に「なんかカッコええやん!」と思った。
後に作曲がすぎやまこういち、コーラスが山下達郎と吉田美奈子(超贅沢!)であることを知ったときに、驚きとともに「なるほど!だからカッコいい仕上がりだったのか!」と納得したものだ。
しかし、当時は何度か曲を聴いていくうちに、最初の「カッコいい」印象が薄れていったのだ。
まず、デビュー曲なのに大胆不敵なコーラスの歌詞に軽く引いてしまったのだ。
Maria,you’re gonna be a Dancing Queen!
Maria,you’re gonna be a Disco Queen!
Maria,you’re gonna be a Superstar!
マリア、キミはダンシングクイーンになれるよ!
マリア、キミはディスコクイーンになれるよ!
マリア、キミはスーパースターになれるよ!
ダンシングクイーンやディスコクイーンはともかく、デビュー曲でいきなり「キミはスーパースターになれるよ!」って…
そして全体の歌詞の内容をざっくりまとめると
踊りに誘われる →
私にできるはずないわ →
(できるよ)だめよ →
(やってみなよ)一度だけ踊ってみるわ →
踊ってみたらリズムが体を走るわ! →
星になったみたい!快感よ! →
宇宙の中を飛んでゆくわ!世界中がきらめくわ!
そしてその結果が
Maria,now you’re a Superstar!(マリア、もうキミはスーパースターさ!)
という、なかなかに強引な流れ(笑)。
しかもこの曲、当時ご本人が出演するアイスクリームのCMに使われていたのだが、出だしのフレーズが、
お口に冷たい風が吹くわ〜
ーー と替え歌になっていて、曲のコンセプトはどこへやら… という感じだった。洗練された、スゴくカッコいい曲なのに、どこか色物扱いされていたような気がしたのである。
その後「知る人ぞ知る名曲」のような存在で、私もすっかり忘れていたのだが、サブスクで配信されていることを知り、40年ぶりに聴いてみた。
細野晴臣をはじめ、豪華な顔ぶれで作られたアルバム「MARIA」
ストリングやブラスを散りばめたゴージャスなイントロ、洗練されたコーラスワーク… ジャズ・フュージョン界では有名なドラマー、ハーヴィー・メイソンがアレンジに関わっていて、丁寧に作られているのが分かる。
なお、この「ディスコ・ギャル」も収録されているアルバム『MARIA』の作家陣は細野晴臣(作曲)、佐藤健(作曲)、松任谷正隆(編曲)、坂本龍一(編曲)、池田理代子(作詞)など豪華な顔ぶれだ。
例えば「おんな ともだち」は作曲:細野晴臣、編曲:イエロー・マジック・オーケストラ。しかしテクノではなく歌謡曲テイストなのが面白い。セリフ入りの「訣別(わかれ)」はスローなバラード。ジャズっぽい「殿方ご免あそばせ」もコミカルなアレンジで楽しい。「金色のなぎさ」や「心のままに」は「ディスコ・ギャル」と同じハーヴィー・メイソンがアレンジに関わっているので、疾走感のあるフュージョンサウンドが心地よい。
残念なのは、テレビ番組で歌を披露する機会はかなりあったのに、セールス的に全く奮わなかったこと。プロモーション次第ではもっと売れたのではないかと思う一方、日本の歌謡界においてこのアプローチは早すぎたのかもしれない。
せっかくシティポップが盛り上がっている今、この名作を埋もれさせるのはもったいない。サブスクでも配信されているし、今月には7インチアナログで復刻されたようなので、ぜひこの機会に聴いていただけると嬉しい。
ところで朝比奈マリア、歌手活動はシングル2枚とアルバム1枚のみ。その後は二科展に出展した油絵が入選したことと、アクセサリーデザイナーとして活躍していることしかわからない。歌手活動はもうしないのだろうか… あえて今歌ってほしい気もするが。
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2023.03.07