シュガー・ベイブは今でこそ、日本のロック史において重要な役割を果たしたバンドと評価されているが、その活動期間は1973年〜1976年ときわめて短かったし、リアルタイムで脚光を浴びたバンドでもなかった。活動中に発表したレコードもアルバム1枚とシングル1枚(DOWN TOWN / いつも通り)のみという、客観的にみればマイナーバンドだった。
シュガー・ベイブの前身は、山下達郎が組んでいたアマチュアバンドだ。このバンドには正式名は無かったが、メンバーにはシュガー・ベイブのベーシストとなる鰐川己久男がおり、さらにバンドの解散記念に自主制作されたアルバム『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』(1972年)にはギタリストの村松邦男も参加していた。
『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』はビーチ・ボーイズのカバーが6曲の他、マンフレッド・マン、ムーングロウズ、バディ・ホリー、エヴァリー・ブラザーズなどのカバーが納められており、100枚しかプレスされなかったにも関わらず、ほとんど売れなかったという。しかし、このアルバムが思いがけない役割を果たすことになる。
同じ頃、東京・四谷にあったロック喫茶『ディスクチャート』で、3人組フォークグループのメンバーだった大貫妙子をソロデビューさせるためにデモテープを作ろうという動きがあった。そこに『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』がきっかけで山下達郎も参加するようになり、いつしか山下と大貫を中心としたロックバンドが結成されることになる。
シュガー・ベイブが活動をスタートさせた頃、東京・高円寺のロック喫茶『ムーヴィン』のスタッフが『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』を手に入れて、お店で流していた。これを、大滝詠一のもとに身を寄せていたココナツ・バンクの伊藤銀次が聞いて、クオリティの高さに驚き、大滝に報告した。これがきっかけで、大滝詠一は同年9月21日に東京・文京公会堂で行われるはっぴいえんど解散コンサートのココナツ・バンクのステージにコーラスとして山下、大貫、村松を起用する。
『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』のグループとシュガー・ベイブはまったく別物なのだけれど、この時、大滝詠一はシュガー・ベイブをバンドではなくコーラスグループだと思っていたのではないか、という説もあった。それほど、山下達郎を中心としたコーラスワークは印象的だったのだろう。