【Y2Kリバイバル】Strange Things / DOUBLE
次のトレンドはジャパニーズR&B? 2022年4月、宇多田ヒカルが『コーチェラ・フェスティバル』に出演した。コーチェラとはアメリカのカリフォルニア州で開催される世界最大級の音楽フェスであり、日本からはきゃりーぱみゅぱみゅやPerfumeなども出演している。宇多田ヒカルはアジアにルーツのあるアーティストをサポートする88rising(エイティーエイト・ライジング)の出演枠だったわけだが、個人的には「First Love」の選曲に納得がいかなかった。日本やアジア圏でウケるようなバラードよりも、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のテーマソングとなった「One Last Kiss」とかをやればいいのにと思ったのだ。
2022年といえば、シティポップのブームが一般化し始めた年。ブームを牽引してきたDJたちは新しい動きの芽をなかなか見つけられずにいた。ただ、その流れが1990年代のJ-POPに波及していたことや、ブルーノ・マーズやアリアナ・グランデなど、1990年代のR&Bにオマージュを捧げる楽曲を発表するアーティストも多かったことから、次のトレンドは1990年代のジャパニーズR&Bに向かうのでは?という予想はあった。そんな中、ジャパニーズR&Bというワードが聞こえてきたのは意外なところからだった。
ネットでバズっているDOUBLE「Strange Things」 それは 2024年初頭。英国の女性プロデューサー、ロレイン・ジェイムズが、自身のXで公開したジャパニーズR&Bのプレイリストの中に、「Rebirth(interlude)」「U」「 Stay With Me」といった、DOUBLEの楽曲を多く採り上げたのだ。ロレイン曰く、その出会いは偶然で、2023年にベルリンでたまたま見つけた女性R&Bシンガー、シャイアン(Cheyenne)のレコードをきっかけとして日本のR&Bを調べるうちにハマっていったのだという。
―― DOUBLEの「Strange Things」がネットでバズっている。どうやらアメリカでウケているらしい。
そんな声が聞こえてきたのはその少し後だ。シングルカットすらされていないアルバム収録曲がなぜ? その理由はイマイチハッキリしない。インフルエンサーの影響だとか、この曲で踊っている動画が再生されているとか、このR&Bバラードがウケた理由は色々あるだろうが、ただ単にいい曲だからなんて甘い理由が通じるわけもない。考えられるのは、Y2K時代のR&Bリバイバルが始まっていたということだ。
例えば、韓国のガールズグループ NewJeans。ドラムンベースなどY2K時代のサウンドを取り入れた楽曲は大きな話題となったが、これらはTikTokなどのショート動画とも相性が良く、2000年代当時のヒット曲も “踊ってみた動画” に使われたりするケースが散見された。DOUBLEの「Strange Things」はバラードなので、こういった楽曲とは傾向が違うものの、この時代ならではの質感という点で、受け入れられる下地があることは容易に想像できる。
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他のジャパニーズR&Bのアーティストと決定的に違ったDOUBLE DOUBLEが他のジャパニーズR&Bのアーティストと決定的に違ったのは、しっかりR&Bであろうとしたことだ。私見ではあるが、1990年代後半から2000年代前半のジャパニーズR&Bの多くは歌謡曲の亜流だったのではないかと思っている。つまり、R&B的な16ビートに日本人ウケするキャッチーなメロディを乗せたもの。要するに “歌” が主役だった。先に挙げた宇多田ヒカルの「First Love」もそんなタイプの楽曲である。
対してDOUBLEの音楽は、R&Bのメロディに日本語をいかに乗せるかという点にこだわっていた。リズムの隙間に短いメロディをはめていくというR&Bの曲作りは、日本語の性質とは相性が悪い。しかし、旬のトラックを取り入れていたDOUBLEにとってはこのこだわりこそがキモだった。日本風のメロディを残した多くのジャパニーズR&Bがもっさりとした仕上がりになっていたことは、DOUBLEのサウンドとは対照的だ。
一方で、本格的な音作りをすればするほどにセールスからは遠ざかる。10周年を記念してリリースされた「残り火 -eternal BED-」のようなメロウでほどよくキャッチーな名曲ですら、DOUBLE(TAKAKO)はポップすぎると快く思っていなかったことを、当時、インタビューしたときにTAKAKOが語っていたことが印象に残っている。ここからもTAKAKOがR&Bらしさにどれだけこだわっていたのかということが伺える。しかし、それはメロウを否定していたわけではない。
VIDEO DOUBLEは『Ballad Collection Mellow』(2010年)というバラードのベストアルバムを出すほどに、スロウにはこだわりがあったはずだ。しかし、ここでもメロディとリズムの関係が変わることはない。スウィートなメロディまでもがリズムの一部なのだ。「Strange Things」もまさにそんな1曲だった。シティポップ以降、日本の音楽が世界に発見されて、その日本らしい独自性も含めて理解が進んでいる。リズムへの解像度が20年前とは桁違いに進んだ現代においても、DOUBLEのこだわりはそのまま通用するクオリティを持っていることは見逃せない。
2026.02.14