1961年 7月8日

銀幕のスター加山雄三!断腸の思いで選んだ映画「若大将シリーズ」ベストテン!

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加山雄三主演映画「大学の若大将」が劇場公開された日
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期間限定で上映された加山雄三主演 “若大将シリーズ”


今年いっぱいでコンサート活動を卒業することを発表した加山雄三の最後のホールコンサートに際し、映画館でのライブビューイング実施が決定。その流れで全国のTOHOシネマズで “若大将シリーズ” が2週間限定上映された。今回選ばれた作品は『エレキの若大将』『大学の若大将』『ハワイの若大将』の3本のみであったが、名画座以外のロードショー館で若大将シリーズが観られたのはいつ以来だったろう。

DVDを持っていようが、過去に何度観ていようが、嬉しさのあまり劇場へ駆け付けたファンは少なくなかっただろう。かくいう筆者もそのひとり。シネコン制になってから初めてスクリーンで観る若大将の活躍に胸を熱くしながら、学生時代にオールナイト上映へ通っていた頃を思い出した。

悩ましいセレクト… それでも選んだ「若大将シリーズ」10作品


加山が映画界にデビューした翌年、1961年に封切られた『大学の若大将』から、1981年の『帰ってきた若大将』まで、日劇のショーと映画の名場面で構成された特別篇『歌う若大将』(1966年)を含めるとシリーズは全18作に及ぶ。老舗のすき焼き屋「田能久」の息子でスポーツ万能、MMK(=モテてモテて困る)な大学生・田沼雄一が主人公の明朗快活な青春音楽映画。シリーズ後半からは社会人篇へとスライドする。

ここでは異論反論を承知の上で、独断と偏見によるシリーズのベストテンを選ばせてもらった。しかしながらこれは本当に苦渋の選択である。どの作品にも必ず魅力的な主題歌・挿入歌があり、多彩なゲストがいて、そこに優劣をつけるのは相当に難しいけれど、断腸の思いで10作に絞ってみた。順位はどうしてもつけられないので、年代順にてご容赦願いたい。

大学の若大将


1961年7月8日劇場公開。
記念すべき第1作。京南大学の水泳部員に扮した実年齢24歳の加山が初々しい。澄ちゃんこと星由里子はキャンディストアの店員役。以後も学生篇では大学生と社会人の恋が描かれることになる。『大学のお姐ちゃん』に始まる “お姐ちゃんシリーズ” の団令子が準ヒロインとして活躍を見せるほか、田中邦衛演ずる青大将は完全な悪役で、まだ脇役の扱いだった。

当時流行っていたドドンパのリズムに乗せた劇中歌「夜の太陽」は、加山の歌手デビュー盤として発売され、当時は東宝の文芸部に所属していた岩谷時子の作詞による主題歌「大学の若大将」がカップリングされた。ただし、映画のタイトルバックに流れる同曲はデューク・エイセスが歌っている。ひばり・チエミ・いづみの三人娘の作品などを撮ってきた杉江敏男監督の手堅い演出で、シリーズの骨幹を作り上げた作品。

日本一の若大将


1962年7月14日劇場公開。
『銀座の若大将』に続く第3作。アクションものを得意とし、後に “ゴジラシリーズ” も手がける福田純のシリーズ初監督作品。当初は三部作としてシリーズを終わらせる予定であったため、すべてが丸く収まる大団円で完結編の雰囲気が濃厚である。若大将も澄ちゃんとそのまま結婚してしまいそうな勢い。シリーズ初期作品に毎回出演していた加山の実父・上原謙が、唯一青大将の父親を演じているのも面白い。

なんといっても傑作なのが主題歌だ。若大将が自身をアピールする、映画の世界観が端的に綴られた詞は、なんと青島幸男の作。植木等に「スーダラ節」や「ハイそれまでヨ」を提供していたのと同時期の作品だった。レコード版では男声コーラスの入ったドゥーワップのアレンジが施されている。広瀬健次郎の音楽も快調。

ハワイの若大将


1963年8月11日劇場公開。
好評を受けてシリーズが続くことになり、初の海外ロケが敢行された。星由里子の美しさが特に際立っている一本ではないだろうか。同時期にハワイを舞台にした『社長外遊記』などの東宝作品と同時に撮影が進められ、加山は香港スターの尤敏(ゆうみん)を相手役にした『ホノルル・東京・香港』との掛け持ちであった。

一般庶民にはハワイ旅行などまだまだ高嶺の花で、“夢の島” といわれていた時代。劇中では、後に日本語詞が付けられて「恋は紅いバラ」となる原曲の「DEDICATED」が歌われる。ほかに「HONKY TONK PARTY」「SWEETEST OF ALL」と、加山の自作曲が初めて映画に採り入れられたことでも重要な作品。まだ “弾厚作” のクレジットはない。



海の若大将


1965年8月8日劇場公開。
黒澤明監督作品『赤ひげ』の撮影に拘束されて1964年はシリーズが一旦中断し、2年ぶりの公開となったシリーズ第5作。宝塚映画の製作。『ニッポン無責任時代』など、突撃演出で知られた古澤憲吾監督がシリーズ初登板してキレのある演出を見せる。

主題歌「恋は紅いバラ」が大ヒットして、岩谷時子と弾厚作のゴールデンコンビが誕生した。愛艇・光進丸の第1世が登場し、加山=海のイメージが構築されるのに大きな役割を果たした作品でもある。田中邦衛の青大将は敵役ながらも憎めない、シリーズに欠かせないキャラクターに成長している。今は失き青山のスーパーマーケット「ユアーズ」でのロケシーンも興味深い。

エレキの若大将


1965年12月19日劇場公開。
大流行していたエレキブームが反映された第6作。自身のバンド “ランチャーズ” を結成して逸早くベンチャーズをカバーしていた加山が、映画でエレキを披露するのは必然だったろう。スポーツはアメリカンラグビー。主題歌として大ヒットした「君といつまでも」と「夜空の星」のカップリングシングルと同時に、オリジナルのインストナンバー「ブラック・サンド・ビーチ / ヴァイオレット・スカイ」がシングルリリースされたのは快挙。

当時ブルージーンズを率いていた寺内タケシも出演して、蕎麦屋の出前持ちからバンドメンバーとなる。バンドには黒沢年男(現・黒沢年雄)がいたり、司会者役で内田裕也が登場したり、後に加山夫人となる松本めぐみが女子バンドの一員として出演するなど見どころ満載。

岩内克己監督がシリーズ初メガホンをとった本作は、何より「君といつまでも」を生んだ作品として、シリーズの代表作に挙げられることも多い。当時上映は “ゴジラシリーズ” の一本『怪獣大戦争』だった。



アルプスの若大将


1966年5月28日劇場公開
「君といつまでも」の大ヒットで空前の加山雄三ブームを迎えていた中で製作・公開されたシリーズ第7作は再びの古澤憲吾監督作品。前作に続いて「君といつまでも」を歌うシーンがある。古澤監督が撮ると、本来は麻布の設定だった「田能久」が浅草に存在していることになるのが面白い。仲見世通り横に実際にあるすき焼き店「今半」で外観のロケが行われたからだろう。

スキーがテーマとなり、スイスのマッターホルンやウィーン、ローマなどで贅沢なロケを敢行。パンアメリカン航空のスチュワーデスに扮した星由里子は、青大将ならずとも惹かれてしまうほどの美しさ。クレージーキャッツ主演シリーズの『クレージーだよ奇想天外』との二本立てで、当時の東宝の興行記録を更新する大ヒットとなった。

シングルリリースされた「蒼い星くず」「夕陽は赤く」もヒットしている。映画のサントラ盤ともいえる4曲入りのコンパクト盤に収録された「ブライト・ホーン」は、先日の『加山雄三ラストショー』でも歌われた、数少ない山の名歌のひとつ。

この後、香港でロケした岩内監督の『レッツゴー!若大将』を挟んで、古澤監督がまたメガホンをとった『南太平洋の若大将』は挿入歌も豊富で、本当はベストテンに入れたかった作品である。企画段階では『南海の若大将』のタイトルで進められていた。



フレッシュマン若大将


1969年1月1日劇場公開。
さすがの若大将も大学生という設定はきびしくなり、前年の『リオの若大将』を最後に、シリーズは社会人篇へ突入する。ちなみに『リオの若大将』は名曲「ある日渚に」を生んだ作品で、シリーズで唯一音楽を担当した服部克久のボサノバ調や、GSバンドとして独立後のランチャーズのサイケデリックな演奏が聴ける秀作である。

新シリーズの第1作は実に明快なタイトルだ。突き抜けて明るい主題歌もいい。ヒロインも星由里子から酒井和歌子に交代され、澄子(澄ちゃん)から節子(節ちゃん)となった。新入社員の若大将の会社は、日産自動車がモデルとなった日東自動車。日産とのタイアップによるキャンペーンも展開された。

シリーズもので大きく設定が変わると、たいていはパワーダウンしてしまうが、若大将は社会人になっても充分に面白く見せ場を作ってくれた。サラリーマンものがお家芸だった東宝カラーと、それらも手がけてきた田波靖男の脚本力によるものだろう。

久々のシリーズ登板となった福田純の演出も快調。ずっと愛を育んできた妹・照子(中真千子)と江口(江原達怡 ※えはら たつよし)が遂にゴールイン。スナックのマダムにフラれた父・久太郎(有島一郎)を励まして歌う「りんどう小唄」は、加山の実母・小桜葉子が詞を書いた小粋な作品で、後に由紀さおりらもカバーしている。

ニュージーランドの若大将


1969年7月12日劇場公開。
社会人篇第2作も福田純監督が続けてメガホンをとった。前作と同じ日東自動車が舞台で、出演者もほぼそのままスライドしており、通常は1作毎に設定が異なるシリーズには珍しい姉妹篇のごとき内容。さらにニュージーランド、オーストラリアロケが行われてスケールアップした。

主題歌「大空の彼方」も優しいメロディの良曲だが、エンディングで流れる「氷河の上を」が躍動的で素晴らしい。これぞ正しく隠れた名曲。

俺の空だぜ!若大将


1970年8月14日劇場公開。
前作『ブラボー!若大将』で “2代目若大将” と紹介されたランチャーズの大矢茂にウェイトが移行されつつも、若大将と節子の恋模様はしっかりと描かれる。

シリーズ前半のような瑞々しい青春映画の香りが漂う演出は、これが監督デビュー作であるとともに、若大将シリーズ最初の作品となった小谷承靖監督のフレッシュなセンスによるもの。初期のレギュラーだった左卜全の活躍や、田能久ファミリーもしっかり描かれており、原点回帰を感じさせる。

帰ってきた若大将


1981年2月11日劇場公開。
1971年の『若大将対青大将』で一旦終了したシリーズが、加山のデビュー20周年記念作品として10年ぶりに奇跡の復活を遂げた。飯田蝶子が演じていたおばあちゃんは既に亡くなっていたが、その法事を兼ねて若大将が海外勤務から久々に帰国するところから物語は始まる。飯田の不在は、文学座のベテラン、賀原夏子が見事にカバーしていた。

小谷監督の手腕により、10年のブランクを感じさせない快調なテンポで物語は進行する。クライマックスとなるマラソンのシーンまで、後半のニューヨークロケも見事な仕切り。若大将と青大将の深い友情、ヒロインの坂口良子の大人な魅力、サブヒロインのアグネス・ラム、青大将が歌う「君といつまでも」などなど見どころ満載で、かつてのシリーズのファンも大納得の傑作であった。

ひとつだけ欲を言えば、脚本の段階まであった、マラソンのシーンで飯田蝶子が「雄一、がんばれ!」と呼びかける幻影のシーン、これは実現させて欲しかったと切に想う。しかしながら本当によく出来た作品であった。




―― 小谷承靖監督は『俺の空だぜ!若大将』と『帰ってきた若大将』の間に、草刈正雄主演によるリメイク版『がんばれ!若大将』と『激突!若大将』を2本撮っている。もちろん脚本は田波靖男。だからこそ若大将の世界観を一切崩さずに本家・加山の10年のブランクを埋められたに違いない。

その後、テレビドラマとして『社長になった若大将』が作られたこともあった。シリーズが進行していた頃に作られていた『お嫁においで』『何処へ』『続 何処へ』『兄貴の恋人』などといった、加山主演による若大将以外の青春映画もある。

小谷監督が2020年、最後に残った岩内監督が今年になって亡くなり、若大将シリーズの監督は全員鬼籍に入られてしまった。脚本の田波靖男や音楽の広瀬健次郎、田中邦衛や星由里子ら多くのキャストたちもまた然り。だが、遺されたフィルムはこれからもずっと観ることが出来る。ロードショー館での上映はまたしばらく機会が訪れないかもしれないが、DVDや配信、テレビ放映などでぜひこれらの作品に触れていただきたいと思う。高度経済成長時代の息吹から、きっと元気をもらえるはずである。

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2022.09.18
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カタリベ
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