リレー連載:2000年代ドラマ主題歌特集 ▶ Everything / MISIA
▶ やまとなでしこ
▶ 主演:松嶋菜々子
▶ 放送期間:2000年10月9日〜12月18日
▶ 放送局:フジテレビ系
90年代の空気をそのまま残していた最後のドラマ「やまとなでしこ」 2000年10月9日、フジテレビ系ドラマ『やまとなでしこ』がスタートした。主演は松嶋菜々子。平均視聴率26.4%。最終回の視聴率は34.2%だった。現在では、視聴率が10%を超えるだけで大ヒットドラマと呼ばれるので、『やまとなでしこ』は、テレビがまだ圧倒的な力を持っていた時代の作品だったのかもしれない。ちなみに、『やまとなでしこ』は、“月9” の平均視聴率では7位、最高視聴率に至っては5位をマークしている。
1990年代、テレビというメディアは生活の中心にあった。友人との会話でも、自然とドラマの話になっていたような記憶がある。特に “月9” というのは特別なドラマ枠であった。自分はCDショップに勤務していたので、ドラマの主題歌には敏感になっていた。なぜならドラマの視聴率次第で、売り上げが大きく変わってくるからだ。
この時代は『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』『ロングバケーション』など、ドラマのセリフ、主題歌、主演俳優の服装や髪型まで話題になり、テレビドラマそのものが、時代の空気を作っていた。しかし、ミレニアムを迎えるころから、その空気に変化が見られるようになる。シングルは8cmCDからMAXIシングルに移行し、ミリオンヒットも出にくくなっていく。やがて、携帯電話(当時はまだガラケー)や、iPodが生活に侵食していくようになり、若者のテレビ離れが進んでいく。
実際、『やまとなでしこ』の後も “月9” は続いていくが、勢いは徐々に薄れていく。もちろん、『HERO』や『GOOD LUCK!!』のような大ヒット作は生まれているが、そこは、木村拓哉というブランド力が非常に大きかった。そういう意味では、『やまとなでしこ』は、90年代の空気をそのまま残していた最後のドラマだったのかもしれない。平均26.4%という数字以上に印象に残るのは、最終回が近づくにつれて、ビデオで録画はしていても、これはリアルタイムで観ないとという感覚になることだった。それが、ヒットドラマの特徴なのかもしれない。
松嶋菜々子の人気が決定的なものに 『やまとなでしこ』を唯一無二の作品にしたのが、主演の松嶋菜々子の存在だった。彼女が演じた “神野桜子” は、とにかく強烈だった。玉の輿に乗るために生きると言い切るヒロインだ。当時の月9ヒロインたちと桜子は大きく違った。欲望を隠さず、現実的で、計算高い。むしろ、その潔さに多くの女性の共感を得ていた。女性の欲望をここまで露骨に表現したヒロインは、それまでの 月9にはいなかったはずだ。
当時松嶋菜々子はすでに人気女優ではあったが『やまとなでしこ』でその人気が決定的なものになる。のちに『家政婦のミタ』でも高視聴率を叩き出すが、やはり純愛ドラマである『やまとなでしこ』に軍配が上がるだろう。もはや、松嶋菜々子ではなく “神野桜子” に自身を投影する女性が多かったのではないだろうか。だからこそ25年以上経ったいまでも、この作品は記憶に残っているのかもしれない。
感情が一番高まったところで流れ出す「Everything」のイントロ そして、このドラマをさらに決定的なものにしたのが、主題歌に起用された、「Everything」だった。同曲は2000年10月25日に発売されたMISIA7枚目のシングル。売上げは約200万枚。オリコンチャートで初の1位を獲得している。2000年代以降の楽曲としては突出した数字だ。当時は宇多田ヒカルや浜崎あゆみがチャートの中心にいたが、その中でも「Everything」は特別な1曲であった。マキシシングルの時代になっても、ドラマと主題歌の関係性は確固たるものだった。
VIDEO 90年代の月9ドラマ、『101回目のプロポーズ』ならCHAGE and ASKA、『ロングバケーション』なら久保田利伸。ドラマの余韻を音楽が引き受け、音楽を聴けば場面が浮かぶ。「Everything」もそういう曲だった。ドラマ終盤、感情が一番高まったところで流れ出すイントロ。静かに始まるのに、一瞬で空気が変わる。MISIAの声が入った瞬間、場面はさらにドラマティックになっていく。
今でも松嶋菜々子を見るだけで、「Everything」が勝手に流れてくるのは、自分だけではないかもしれない。それほど、このドラマ、そして主題歌はインパクトが大きかった。ドラマの最終回は12月18日だったこともあり、クリスマスソングではないが “冬に聴きたいバラード” の1曲に選ばれることも多い。雪の中で歌われるミュージックビデオのイメージも大きいかもしれない。ちなみに公式YouTubeの動画は1億回に迫る再生回数だ。
紅白では、アフリカのナミブ砂漠から「Everything」を歌唱 MISIAは1998年のデビュー当初から、圧倒的な歌唱力で注目されていた。ブラックミュージックの要素を自然に取り入れたスタイルは、それまでのJ-POPの女性シンガーと大きく違っていた。5オクターブの音域が、マライア・キャリーを思わせるほどのインパクトであった。「Everything」のメガヒットで、MISIAという存在は、クラブ系のR&Bを好んで聴いていた若者だけではなく、いわば国民的シンガーに成長していくことになる。テクニックを感じさせることなく、自然に感動を届けられるアーティストになっていったのだ。とは言え、当時はまだメディアに登場することはなく、どこか謎めいた存在ではあった。
しかし、2012年にようやくお茶の間に登場したMISIA。『第63回NHK紅白歌合戦』に初出場を果たし、アフリカのナミブ砂漠からの中継で「Everything」を初歌唱している。この紅白で歌うMISIAを初めて観た人も多かったかもしれない。その後、2018年からは連続で紅白歌合戦に出場しており、7回連続で紅組のトリ、そして、大トリをなんと4回も務めている。現在の紅白において、MISIAほどの歌唱力やパフォーマンス力のある女性アーティストは現れてはいないという証だろう。
配信もSNSもまだなかった2000年の冬。月曜の夜になれば、多くの人が同じドラマを観て、同じ場面で感動し、主題歌に心を重ねる。ドラマが終わったあとも、「Everything」の余韻が続き、CDショップでCDを買って自宅で何度もリピートして聴く。そんな、ある意味贅沢な時間が存在していたのだ。
2026.06.11