1973年 3月

由美かおる「ニュー・アルバム」時間を超越した “元祖 カッコイイ女” の原点がここに!

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由美かおるのアルバム「由美かおる ニュー・アルバム 」発売月
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世の男性諸氏を大いにヒートアップさせた由美かおるの美しい肢体


由美かおるが1973年に発表したLP『由美かおる ニュー・アルバム』が、2月14日にアナログ盤でリイシューされる。これは、歌謡曲のレコードコレクターにとってはちょっとしたニュースである。このアルバムを中古レコード店やオークションサイトで見かけた方は、相当な高値がついていることをご存知であろう。そして、その理由が何であるかは一目瞭然なのである。

ジャケットは、上半身を露出した由美かおるがバストアップで写っている衝撃的なもので、ちょうどこのアルバム発売の1ヶ月後、73年4月14日に公開された由美の主演映画『同棲時代-今日子と次郎-』で大胆なヌードを披露し、ことに映画ポスターが大きな話題を集めたことともリンクしている。同年秋の主演映画『しなの川』でも全裸姿を披露しており、その美しい肢体は世の男性諸氏を大いにヒートアップさせた。

時代的なものを踏まえてか、今回のリイシューではジャケットが袋とじ仕様。だが、キリリとした表情でこちらを見つめる由美かおるは、一切媚びる所のない凛々しさを漂わせている。それは芸術的な美しさとかっこよさを兼ね備えた姿でもある。また、今回はオリジナル盤に収録されていたヌードポスターも封入され、レコード盤は収録曲「炎の女」に合わせたレッド・ヴァイナル仕様だ。



実際のところ、トップを露出したレコードというのは結構な枚数があり、特に『ヒット!ヒット!ヒット!』とか『哀愁のムード歌謡』とか、所謂スタジオミュージシャンたちが、当時のヒット曲をインストカバーした、俗に “歌のない歌謡曲” と言われるLPには、外国人モデルの美しい肢体が表面にバーン!と出ていた。お色気系の映画に多く出演していた女優たちが歌うレコードにも、こういうジャケットが存在する。シングルでは大映女優・渥美マリの「可愛い悪魔」が名高く、アルバムでは、こちらも近年、アナログリイシューがなされた池玲子の『恍惚の世界』がある。

歌手としてのデビューは浜口庫之助作曲の「レモンとメロン」


由美かおるは1950年の京都生まれ。小学校6年生で西野バレエ団に入団、66年には日本テレビの深夜番組『11PM』に出演、67年からは音楽番組『レ・ガールズ』にレギュラー出演し、抜群のプロポーションを活かして歌い踊り、人気を博した。この番組から生まれたレ・ガールズは、西野バレエ団の精鋭を集めたユニットで、金井克子、奈美悦子、原田糸子と由美の4人組。後半には江美早苗(のちの作詞家・中里綴)も加わり、松竹映画『ミニミニ突撃隊』(68年)、女性アクションドラマ『フラワーアクション009ノ1』(69年:フジテレビ)にもこのメンバーで出演している。

歌手としても67年2月10日にクラウンから浜口庫之助作曲の「レモンとメロン」でデビュー。キューティポップの名曲に数えられる「いたずらっぽい目」や、ひとりGS風の「星空のシェドン」など名作も多いが、12枚のシングルをリリースして、71年にはフィリップスに移籍。その後もレコード会社を移籍しながら通算33作品を発表している。

ドリフのコント「ちょっとだけヨ」のバックで流れる「タブー」も収録


今回リイシューされる『由美かおる ニュー・アルバム』は、彼女の2作目のアルバムで、A面はフィリップス移籍第1弾の「タバコの火を消して」と、72年2月に発売された純歌謡曲「もいちど河原町」などのオリジナル曲を収録。B面には前述の主演映画『同棲時代-今日子と次郎-』の主題歌で、大信田礼子が歌った「同棲時代」をカバーしているほか、レ・ガールズの先輩・金井克子の「他人の関係」、お色気歌謡の先駆者、奥村チヨの「ひき潮」などを収録。

後半の洋楽カバーも、小山ルミが歌った「恋のマイアミ・ビーチ・ルンバ」や、ザ・ドリフターズの加藤茶が『8時だョ!全員集合』で披露した、ストリップコント “ちょっとだけヨ” のバックで流れる「タブー」まで収録されている。ちなみに「タブー」はインスト曲にみなみらんぼうが詞をつけており、凄まじいほどのアップテンポに変わっているので、一聴の価値あり。

73年6月には本盤収録の「炎の女 / ラブ・スキャンダル」をシングルカット。真っ赤なドレスの由美かおるが挑発的にこちらを見つめるセクシーなジャケットで、歌番組でも露出度の高い衣装と激しいダンスで殿方を悩殺していた。
ちなみに、この「炎の女」を含む、フィリップス時代のシングル全10枚20曲はデジタル配信もスタートしている。



セクシー歌謡のアイコンになっていた“フィンガー・アクション”


この1973年は、セクシー系歌手の全盛期だった。72年6月に山本リンダが「どうにもとまらない」でカムバックを果たし、この73年にも大傑作「狙いうち」を発表、センセーショナルな楽曲と衣装で時代の寵児となっていた。

彼女に続くかのように、中島淳子が夏木マリと改名し「絹の靴下」をヒットさせ、さらには安西マリアが「涙の太陽」でデビュー、前述の金井克子「他人の関係」もこの年のヒットであり、他にも女優の渚まゆみが「奪われたいの」を発表。由美かおるの「炎の女」もこの一連のムーヴメントの中にあったのだ。

「絹の靴下」「涙の太陽」「他人の関係」といった楽曲に共通する点として、片手を使った振り付けがある。由美かおるも「炎の女」では、片手をひらひら振りながら、大きくスリットの開いたドレスで歌い踊った。これらは “フィンガー・アクション” と呼ばれ、この時代のセクシー歌謡のアイコンになっていた。

女性であることの自己肯定感を高める ”女性上位歌謡”




それまでのお色気歌謡には男性従属的なイメージが強くあったが、この72〜73年に現れた女性歌手たちのお色気路線はそれとは全く異なり、自らの美貌や美しい肢体を武器に、男を挑発し、女性であることの自己肯定感を高める ”女性上位歌謡” 的な色合いが強い。

そしてもう1つのテーマには “変身” があった。イメージチェンジの言い換えだが、特撮ドラマ『仮面ライダー』によりこの言葉が流行、セクシー系歌手では山本リンダのイメチェンが “変身” と呼ばれた。夏木マリも再デビュー歌手であり、金井克子や由美かおるも、それまでのイメージを覆す、大人の女性の妖艶な魅力を前面に打ち出した楽曲で変身を成功させたのである。

ちなみに由美かおるは、この73年に日本雑誌協会が決める、その年に大きく活躍した芸能人に贈られる『ゴールデンアロー賞』のグラフ賞を受賞している。このグラフ賞は70年が辺見マリ、71年が池玲子、72年に山本リンダと、4年連続でセクシー系の歌手・女優が受賞しているのだ。

この時期を境に、由美かおるはそれまでの健康的で溌剌としたイメージに加え、大人の魅力が加わり、80年代に入ると、リンダ・カーター主演の海外ドラマ『紅い旋風ワンダーウーマン』の第2・第3シーズンの日本語吹き替えを担当。セクシーなコスチュームで戦うヒロインの声を当てている。

時代を超越した元祖・カッコいい女の原点




86年から2000年まで出演したTBSの時代劇『水戸黄門』の、かげろうお銀役では、毎回放送される入浴シーンで、中高年世代のアイドル的な存在となった。同時に変わらぬスタイルの良さに、同性からも注目が集まった。

そのジャケが災い(?)してか、これまでリイシューの話がなかなか成立しなかった『由美かおる ニュー・アルバム』だが、内容は、それまでのキューティ路線から妖艶な大人の女性に変貌していく過程が記録された好盤である。魅力的なジャケットに惑わされず(というのは、男性諸氏には難しいが)、時代背景を踏まえた上で、針を落としてみてほしい。時間を超越した “元祖・カッコいい女” の原点がここにある。

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2024.02.13
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