2002年 1月9日

Y2Kの名曲!シティポップ・ブームの先鞭をつけたキンモクセイ「二人のアカボシ」

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キンモクセイのシングル「二人のアカボシ」発売日
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【Y2Kリバイバル】vol.3 〜 キンモクセイ「二人のアカボシ」

ドライブのお伴にしたい、キンモクセイ「二人のアカボシ」


年が明けた正月三が日の東京は、師走の慌ただしさから一転、しんと静かな都市の風景が広がっている。いつもは高速道路を夜中まで行き交うトラックや商用車も少なく、都市が静かな眠りにつく中、深夜ドライブに出かけたくなる。夜明け前の空は高く、澄み切った空気の中、星の瞬きが美しい。

そんな時、ドライブのお伴にしたい曲が、キンモクセイの「二人のアカボシ」だ。この曲は2002年1月9日に発売された彼らのセカンドシングル。【Y2Kリバイバル】という新年の企画にピッタリの1曲である。作詞作曲は伊藤俊吾。夜明けの高速をドライブするカップル。別れの気配を感じつつ、思いを打ち明けようとする主人公の忸怩たる心情が伝わる切ないラブソングだ。情景描写の豊かさも特筆すべき点である。

 眠る埋立地と 化学工場の
 煙突に星が一つ二つ吸い込まれ

 あの高速道路の橋を 駆け抜けて君つれたまま
 二人ここから 遠くへと逃げ去ってしまおうか

この埋立地と化学工場はどのあたりの風景を指しているのだろう。勝手な解釈を許してもらうなら、首都高速湾岸線の川崎扇島付近に見える、JFEスチールの巨大な赤白のタンクの横に聳える煙突か。「♪高速道路の橋」とは横浜ベイブリッジだろうか… と、想像を膨らませてしまうのは、歌詞の鮮やかな映像喚起力あってのもの。湾岸に広がる風景は、キンと冷えた冬の空気と相まって、独特の荒涼感がある。冬の夜空をイメージさせるイントロのエレピ、それに続くスライドギターの疾走感も、ドライブミュージックとしての魅力を際立たせている。



サバービアの視点で描かれているシティポップ


キンモクセイのメンバーは伊藤を含む3人が神奈川県相模原市の出身、ギター&シンセサイザーの佐々木良はお隣の東京都町田市。ドラムの張替智広だけが静岡県伊東市の出身だが相模原在住経験があるそうで、いわく “ほぼ全員相模原” だそうだ。そのためか、彼らの楽曲には都市の周縁で暮らす者の視点や生活感がある。シティポップは都市の音楽であるが、同時に郊外から見た都市風景や生活感も大きな要素の1つである。「二人のアカボシ」は、このサバービアの視点で描かれている。こういうタイプの楽曲を他に探すなら、荒井由実の「COBALT HOUR」や「中央フリーウェイ」などが近いのではないか。

“アカボシ" とは明けの明星、夜明け前の東の空に輝く金星のことだ。さらに、歌詞中にも謎のフレーズが織り込まれている。

 聞こえてるかい? みだれ髪に
 しみるようミヤウジヤウ ハルカカナタへ

「♪みだれ髪」とは、明治期の女流文学者・与謝野晶子の代表作からとったそうで、与謝野が『みだれ髪』を投稿した文芸雑誌の名前が『明星』であることに由来している。最も謎めいた「♪ミヤウジヤウ」とは明星を意味する昔のカナ表記で、そんな言葉を結びつけて詞を書いたそうだ。プロデューサーからは意味不明なので変えるよう指示されたが、そのままの形で世に出たという。

2002年には「紅白歌合戦」出場


「二人のアカボシ」は2002年のリリース当時に、全国ラジオ局が選定する最多パワープレイ楽曲となり、オリコンチャートでも最高10位を獲得。この曲のヒットによってキンモクセイはブレイクを果たし、同年末には『第53回NHK紅白歌合戦』にも出場を果たした。

キンモクセイが登場してきた時、その1970〜1980年代的なサウンドをベースにした都会的な作風が、懐かしくも新しい響きを伴って、我々のもとに届いた。まだシティポップという呼び名も現在ほど広まっていない時期で、発表段階では “昭和のムードを感じさせる懐かしい曲調のポップス” という評判であったが、間違いなく現在まで続くシティポップ隆盛の先鞭をつけた楽曲だろう。ただ、残念なことに彼らは2008年に活動休止。「二人のアカボシ」のヒットの余波で、そのセールスを落とさず努力していくうち、自分たちの作りたい楽曲がわからなくなってしまったのだという。

シティポップが日本の音楽シーンで注目を集め始めた時期に、彼らの不在は残念極まりないことであったが、それから10年の時を経た2018年に活動を再開する。彼らは “もとよりシティポップを意識した曲作りをしていたわけではない” と復活後に語っていた。また、“日本のヒット曲は時代が変わると色褪せることも多いが、それも面白い点なので、そこをあえてやるのが自分たちのスタイルだ” とも語っている。

いつも時代に対してちょっと早かったキンモクセイの音楽


「二人のアカボシ」と似たシチュエーションを持つ彼らの曲に2002年11月に発売された「車線変更25時」があるが、この曲などはビージーズの「ステイン・アライヴ」を意識したディスコ・クラシックのスタイルだ。ディスコミュージックはこの時期、現在のようなリバイバル人気には至らず、懐かしモノの扱いだったから、敢えて色褪せた感のある音楽にトライしたとも言えるだろう。

キンモクセイの音楽は、いつも時代に対してちょっと早かったのである。とは言うものの、「二人のアカボシ」は発売から24年が経過しても、今なお色褪せない魅力を放つ、ゼロ年代J-POPのスタンダードになっている。懐かしさと共に、今に通じる感覚を持ち合わせた名曲なのである。さあ、新年には明けの明星を探しに、がら空きの高速道路を走ってみるのもいいだろう。もちろんドライブミュージックのお伴に「二人のアカボシ」を流しながら。


2026.01.03
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馬飼野元宏
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