1995年 10月4日

庵野秀明の思考そのもの「新世紀エヴァンゲリオン」のオマージュ元を紐解いてみよう!

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思わぬアクシデントから不朽の名作となった「新世紀エヴァンゲリオン」


制作現場の思わぬアクシデントが、空前のヒット作に繋がることがある。

監督、スティーブン・スピルバーグの名を一躍世に知らしめた映画『JAWS』は、撮影用に特注のサメのロボットを3体作ったが、海中に入れると故障続きで、満足なカットがほとんど撮れなかった。仕方なく、スピルバーグは海上を動く背ビレだけを見せたり、魚影のカットをインサートしたりして、ジョン・ウイリアムズの音楽でひたすら煽った。おかげで “見えない恐怖” が強調され、曰く “土曜の昼にやっている日本的なホラー映画から、ヒッチコックのような見せないスリラーになった” ―― 同映画は、当時の世界最高興行成績の記録を塗り替えた。

また、富野由悠季監督を一躍、アニメ界のレジェンドに押し上げた『機動戦士ガンダム』(第1作)は、当初52話の予定だったが、視聴率が平均5.3%(関東地区)と奮わず、また玩具の売上も低調で、全43話に短縮された。ちなみに、通称“トミノメモ” と呼ばれたプロットには52話まで記されており、読むと―― どうも冗長というか蛇足の感をぬぐえない。やはり、ア・バオア・クーにホワイトベースが不時着し、シャアとアムロが白兵戦の一騎打ちを演じた末に、シャアがキシリアを討ち、アムロが仲間たちのもとへ還る感動のラストだったから、同作品はアニメ界の不朽の名作になれたのだろう。

そして―― あの庵野秀明監督の伝説的作品『新世紀エヴァンゲリオン』も、制作途中でスケジュールが破綻するという不測の事態を迎える。庵野監督はどうしたのか。窮余の策と言おうか、ラスト2話は通常のアニメの表現様式を捨てたのである。ラス前回、字幕と短い映像で、主人公・碇シンジの内面が綴られる衝撃の作風に変化する。更に最終回、自らの存在意義と他人との境界線を問いかけるシンジ。遂に画面は色すら塗られていない線画となり、しまいには脚本のページをカメラがそのまま映し出す――。椅子から立ち上がるシンジ。“僕はここにいてもいいんだ!” その瞬間、背景が地球になり、メインキャストたちが現れ、“おめでとう” と拍手をしながら祝福する。―― な、なんだ、このラストは!

深夜の再放送を経て世間に見つかった「エヴァンゲリオン」


エヴァのラストは、瞬く間に業界を横断する “事件” になった。様々な識者が様々なメディアで語り、頭を抱える者、突き放す者、一方で評価する者、絶賛する者―― 間もなくその渦は、業界を超えて、アニメに関心のない一般層へも波及する。そしてエヴァは伝説になった。それまでアニメ好きには、その純文学的内容と、庵野監督ならではの過去の名作からヒントを得たオマージュ描写が評価され、コアな人気を博していたが―― 最終回の “事件” 以降、深夜の再放送を経て―― エヴァは世間に “見つかった” のである。

その後、エヴァが庵野秀明監督のライフワークとなったのは承知の通りである。そして現在まで、先のテレビ版を含む、都合3通りのエンディングが作られた。テレビ版のラスト2話(1996年)、翌年の劇場版『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air / まごころを、君に』(1997年)、そして新劇場版の4部作の完結作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)である。なぜ、こんな壮大なコトになってしまったのか。もとをただせば、全てあのテレビ版のラストのせいである。結果的に、あの伝説のラスト2話が、エヴァを唯一無二のシリーズに仕立てたのである。

そう、制作現場の思わぬアクシデントが、空前のヒット作に繋がることがある――。

少々前置きが長くなったが、今回はテレビ版の『新世紀エヴァンゲリオン』の話である。今年は―― 今から30年前の1995年に、同作品が始まった記念すべき年にあたる。僕は以前、当リマインダーに『始まりは DAICON3!庵野秀明が【新世紀エヴァンゲリオン】を生み出すまでの長ーい物語』と題したコラムを書いたが、本コラムはその続編である。大丈夫、今回はソコまで長くない。

アニメ主題歌史上に燦然と輝く超・名曲「残酷な天使のテーゼ」


エヴァの企画が立ち上がったのは、本放送からさかのぼること2年前の1993年である。その前年、当時、庵野監督が所属していたガイナックスは、映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(監督:山賀博之 / 1987年)の続編『蒼きウル』の企画を進めており、庵野監督はその “監督” を山賀サンから打診されていたが、諸事情あって企画はとん挫。時間の空いた庵野監督は、会社とは別に、たった1人で企画を考え始めた。それがエヴァだった。

ある日、庵野監督は、たまたま旧知のキングレコードの大月俊倫プロデューサーと会う機会があり、彼から社交辞令で “庵野さん、何かやりたい企画があったら持ってきてよ” と言われたという。そこで庵野監督、真に受けてエヴァの企画を持っていったところ、大月Pは思わぬ来訪に喜び、“やりましょう” と即決。そこから庵野監督がガイナックスに逆プレゼンして―― という、少々複雑な成り立ちでエヴァの座組ができあがる。

それを受けて、大月Pがテレビ東京と話をつけて、水曜18時半の枠を確保する。で、ここからが庵野監督の真骨頂。大月Pに2つの条件を提示する。1つ目は、スポンサーに玩具メーカーを入れないコト。2つ目は、試写会でテレビ東京のプロデューサーが何か言ってきても、一切直さないコト。どちらも異例の要求だが、庵野監督の作家性を理解する大月Pは承諾した――と、言葉では簡単だけど、背広組(テレビ東京や広告代理店)と、庵野監督の間に立って調整した彼の苦労は想像するに余りある。

思えば、エヴァは庵野監督と大月Pら、少数精鋭で作られ、爪あとを残した。それは、小回りの利く最少ユニットで連ドラが作られ(プロデューサーと脚本家)、高視聴率を連発した1993年〜1998年の『新・黄金の6年間』の王道パターンである。

ちなみに、主題歌「残酷な天使のテーゼ」(作詞:及川眠子 / 作曲:佐藤英敏)だけは、レコード会社の意地にかけて、逆に庵野監督の意見を一切入れず、大月俊倫プロデューサーが全権を握って、製作総指揮をとったそう。餅は餅屋。おかげで、アニメ主題歌史上に燦然と輝く超・名曲が生まれた。

 残酷な天使のテーゼ
 窓辺からやがて飛び立つ
 ほとばしる 熱いパトスで
 思い出を裏切るなら
 この宇宙(そら)を抱いて輝く
 少年よ神話になれ



庵野監督はこの作品でアニメから足を洗うつもりだった?


さて――『新世紀エヴァンゲリオン』、ストーリー自体はさして複雑ではない。物語の舞台は、西暦2015年の日本の第3新東京市。さかのぼること15年前に、南極で未曽有の大災害 “セカンドインパクト” が発生して、世界の大半は沈み、人類の多くは死に絶えてから15年―― ようやく復興の兆しが見えたタイミングで、15年ぶりに謎の敵 “使徒” が出現する。

で、主人公の14歳の少年・碇シンジ(声:緒方恵美)の登場だ。ある日、彼は何も説明を受けないまま、父親の碇ゲンドウから第3新東京市に呼び出される。そして、いきなり巨大な汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン初号機のパイロットとなって、襲来する謎の敵 “使徒" と戦うことを命じられる。以下、次々と現れる “使徒" を倒していくというのが、基本フォーマット。

ここまで読むと、まるで『未来少年コナン』と『機動戦士ガンダム』がミックスしたみたいな話を連想するが、まぁ、その通りだ(笑)。“逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…” でお馴染みの内向的な主人公・碇シンジは、まんまアムロ・レイである。つまり、エヴァの魅力とは、庵野監督のオマージュ総ざらいと言ったところ。これは僕の想像だけど、庵野監督は、この作品でアニメから足を洗うつもりだったんじゃないだろうか。

思えば、1981年の『DAICON3』からこの世界に身を投じて、東京へ進出してガイナックスを仲間と立ち上げ、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』と作ってきて、いろいろあって疲れ果て、最後くらい、自分のやりたいコトをとことんやらせてもらおうと。だから、友人である大月俊倫プロデューサーにも、かなりムチャなお願いをした。そう考えると、エヴァとは少年時代から現在に至る庵野サンの思考そのものであり、そのオマージュ元を紐解く作業が、エヴァの健全な楽しみ方かもしれない。

庵野監督の原点 “美少女・メカ・爆破”


まず、庵野監督といえば、その原点は『DAICON3』の時から変わらず “美少女・メカ・爆破” である。まず、“美少女” ―― これは、綾波レイと惣流・アスカ・ラングレーのWヒロインという贅沢な布陣だ。特に口数が少なく、感情をオモテに出さない謎の美少女・綾波レイ(声:林原めぐみ)の威力が凄い。“エヴァの半分は綾波レイで出来ている” と言っても過言じゃない。初回に包帯姿で出てくるところから、庵野監督のフェティシズム(美少女+包帯)が読み取れる。ちなみに、あのショートカットは、宮崎駿監督のフェティシズム(ヒロインはショートカットでなければならない)を受け継いだものと推察する。

そして、“あんた、バカぁ!” が口癖の惣流・アスカ・ラングレー(声:宮村優子)だ。こちらは、ファンが高じて、庵野監督自身が原画で参加した『美少女戦士セーラームーン』シリーズへのオマージュだろう。ちなみに、同シリーズから受けた影響は大きく、シンジの保護者兼上司の葛城ミサトの声役は、“月野うさぎ” の三石琴乃サン、綾波レイの名前は “火野レイ” から、シンジの声役の緒方恵美サンは同シリーズの打ち上げの席で監督自ら打診したという。

続いて、“メカ” ――これは兵器としてのエヴァンゲリオン初号機に他ならない。ずばり、そのモチーフ元は初代ウルトラマンである。特にあの前傾姿勢なんて、スーツアクターを務めた古谷敏サンの “クセ” を実によく捉えてる。加えて、格納庫からの発進シーンは、『ウルトラセブン』のウルトラホーク1号の発進シーンが元ネタだろう。ちなみに、セブンが参考にしたのが、サンダーバードの発進シーン。これぞ、美しきオマージュの連鎖である。

そして―― “爆破” シーンは言わずもがな、使徒の爆破シーンだ。ちなみに、使徒のオマージュ元は『風の谷のナウシカ』の巨神兵。こちらは、庵野監督自身が、巨神兵が崩れ落ちるシーンの原画を描いたことを思えば、なんとも不思議な縁である。

そうそう、エヴァの世界観として、未来都市であるはずの第3新東京市が、まったく未来っぽくないのも印象的だ。ミサトとシンジが暮らすマンションにしても、シンジが通う学校にしても、どこか昭和感が漂う。あれ―― 想像だけど、『ウルトラセブン』が元ネタではないだろうか。例えば、セブンがメトロン星人とちゃぶ台を囲んで話し合うシーンを始め、本来、セブンは未来の話なのに、しばしば昭和な風景が登場する。アレによって、セブンや宇宙人といった荒唐無稽な設定に、妙にリアリティが付加されるのである。エヴァもしかりである。

おっと、大事なオマージュネタを忘れていた。あのサブタイトルの書体である。ご存知、市川崑監督の映画『犬神家の一族』から。そして―― 謎が謎を呼ぶ「人類補完計画」は、アーサー・C・クラークの不朽の名作『幼年期の終わり』に他ならない。それ以外にも―― まぁ、この先は皆さんで探してください。思わぬ庵野監督の歴史が埋もれているかもしれません。

エヴァンゲリオンとは、庵野秀明のことである。

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カタリベ
1967年生まれ
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