9月21日

カバー多数!大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」J-POPスタンダードとして愛される理由

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「ザ・ベストテン」初登場で2位にランクインした「そして僕は途方に暮れる」


毎週独自のランキングを発表していたTBSテレビの音楽番組『ザ・ベストテン』。毎日新聞出版の週刊誌『サンデー毎日』にはその結果が毎週掲載されるなど、『オリジナル・コンフィデンス(オリコン)』、『ミュージック・ラボ』、『ミュージック・リサーチ』などのチャート誌と並ぶほどの大きな影響力を持っていた。

番組では、松田聖子、田原俊彦、近藤真彦、中森明菜などの、ランキング常連歌手が、初登場でいきなり上位にランキングされることはあったが、通常は下位からじわじわとランキングを上げていくことがほとんどだった。そんな中、まだ一度もベストテンにランクインをしたことが無かった大沢誉志幸(現:大澤誉志幸)の「そして僕は途方に暮れる」が1985年2月、初登場でいきなり2位にランクインしたことは、大きな話題となった。番組に本人が出演しなかったにもかかわらず、当時筆者が通っていた学校でも、翌日はその話題で持ちきりだった。

シングル「彼女には判らない (Why don't you know)でソロデビュー


大沢誉志幸は、クラウディ・スカイのボーカリストとして1981年にビクター音楽産業からデビュー。アルバム『明日はきっとハレルヤ』とシングル「悲しきコケコッコ」「私は蝉になりたい」をリリースするも、バンドの方向性の違いから解散。82年からは作曲家として、沢田研二「おまえにチェックイン」「晴れのちBLUE BOY」、中森明菜「1/2の神話」、山下久美子「こっちをお向きよソフィア」などを提供。並行してソロ活動も行い、83年6月22日にEPIC・ソニーよりアルバム『まずいリズムでベルが鳴る』、シングル「彼女には判らない (Why don't you know)」でソロデビュー。のちに、吉川晃司がデビューアルバムの収録曲「宵闇にまかせて」をカバーするなど、音楽業界内では高い評価を得た。

84年4月1日には、シングル「その気××× (mistake)」をリリース。資生堂のCMソングに使用されたこともあり、オリコン最高第23位のヒットを記録。新進気鋭のシンガーソングライターとして注目されるようになる。7月10日には、同曲を収録した3rdアルバム『CONFUSION』をリリース。9月21日には「そして僕は途方に暮れる」がシングルカット。日清カップヌードルのCMソングに起用されて大量にオンエアされた。



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もともとは「凍てついたラリー」というタイトルでほかの歌手に提供した楽曲


「そして僕は途方に暮れる」は、ブラックミュージックをルーツに持つ大沢にしては意外な8ビートのミディアムバラードだが、もともとは「凍てついたラリー」というタイトルで、鈴木雅之など他の歌手に提供した楽曲だった。ただ、いずれもレコーディングされることなく大沢の元へ戻ってきたところ、プロデューサーの木﨑賢治から “人に書いた曲で、まだ世に出ていないものはないか” と尋ねられたため、この曲を提案。

共同プロデューサーの小林和之、作詞家の銀色夏生を加えた4人で、大沢のオリジナル曲として作り直した。そのとき、銀色が作った “途方に暮れる” という一節が目に飛び込み “これはいける” と思いメロディに乗せたところ、見事にはまった。詞と曲が偶然に見事にはまることが時としてあるが、この時がまさにそれだった。

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Aメロのコード進行は、日本人好みのカノン進行


Aメロ部分で1オクターブを使用したレンジの広いメロディラインは大沢ならではのもの。ソウルミュージックで培ったボーカリストゆえに生まれたメロディだろう。Aメロのコード進行は、ヨハン・パッヘルベル作曲の「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調」、通称「パッヘルベルのカノン」で使用されている日本人好みのカノン進行のバリエーション。

カノン進行は、赤い鳥「翼をください」、ZARD「負けないで」、森山直太朗「さくら(独唱)」などに使用されているコード進行。サビにあたるBメロ部分は、フレデリック・ロウ作曲のジャズ・スタンダード「恋をしたみたい」で使用されたコード進行で、ロウ進行、ⅣⅤⅢⅥ(4536)進行、王道進行などと呼ばれ、荒井由実「卒業写真」、スピッツ「ロビンソン」、MISIA「Everything」などに使用されていて、こちらも日本人好み。我々が好む2つのコード進行を上手くまとめて、その琴線に響くハーモニーを生み出している。



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日本のポップスのスタンダードとして多くのボーカリストがカバー


そして、編曲を担当した大村雅朗は、イントロのコードにナインスを付け加えたアドナインスを使用したサウンドを提示。トライアドのコードではシンプルすぎて、メジャーナインスではトーンが多すぎて調性がぼやけてしまう。トライアドのコードをアドナインスにする手法は、前年にヒットしたポリス「見つめていたい」で使用されて広まった手法。ポピュラリティとソフィスケイトを同居させたサウンドを生み出すのに絶妙なコードだ。印象的なイントロは、大村の編曲による功績も大きいだろう。

オリコンシングルチャートでは最高6位を記録。累計28.2万枚を売り上げた。その後何度もセルフカバーして、2023年の「2023 movie version」まで、計7バージョンをレコーディング(古内東子とのデュエットでのカバーもあり)。また、福山雅治、ハナレグミ、佐藤竹善、中森明菜、柴咲コウなど、多くのボーカリストもカバー。日本のポップスのスタンダードとして、今も多くのリスナーに聴かれ続けている。

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2024.09.20
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