2025年 9月26日

第68回グラミー賞最優秀新人賞【オリヴィア・ディーン】ヴィンテージが世界で支持される理由

6
0
 
 この日何の日? 
オリヴィア・ディーンのセカンドアルバム「ジ・アート・オブ・ラヴィング」発売日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 2025年のコラム 
風街ぽえてぃっく2025 第一夜:風編【ライブレポート】松本隆 作詞活動55周年記念

松本隆 作詞活動55周年記念「風街ぽえてぃっく2025」最終出演者発表は水谷豊と綾瀬はるか!

風街ぽえてぃっく2025 第二夜:街編【ライブレポート】松本隆 作詞活動55周年記念

星野哲郎生誕100年記念コンサート!圧巻すぎる北島三郎、里見浩太朗、小林旭の3ショット

2025年【80年代アイドルの現在地】松田聖子、田原俊彦、中森明菜、小泉今日子、斉藤由貴…

【Do As Infinity インタビュー】⑤ 伴都美子が30代で人生を共にすると決めた1曲とは?

もっとみる≫




第68回グラミー賞最優秀新人賞受賞したオリヴィア・ディーンの魅力


第68回グラミー賞の最優秀新人賞は、例年にも増してハイレベルな候補者が揃っていた。チャートを席巻するポップアーティスト、SNSを起点に急速な支持を集めた新世代、強烈な個性でシーンを揺さぶる才能。どの候補が選ばれても不思議ではなかった。その中で、オリヴィア・ディーンが選ばれたことは、派手さや話題性ではなく、音楽としての完成度とアーティストとしての深みが評価された結果だ。この受賞は、2026年の音楽シーンが《何を価値あるものとして選び取ったのか》を、はっきりと示している。

そう、オリヴィア・ディーンの魅力は、最新のトレンドだけを追っていては見えてこない。むしろ、彼女がどのような音楽を聴き、どの系譜に自分を置いているのか。その音楽的ルーツを丁寧にたどることで、彼女の音楽が、ヴィンテージでありながら新しい理由が浮かび上がってくる。過去の音楽をそのまま再現するのではなく、現代の生活に合う形へと更新する。その感覚こそが、オリヴィア・ディーンの本質だ。

UKソウルの継承者、繊細で洗練された音楽


彼女の音楽の土台にあるのは、UKソウルの流れだ。アメリカのソウルミュージックが、力強い歌唱や感情表現を前面に押し出すのに対し、UKソウルはより内省的で、感情の細やかな揺れを大切にしてきた。その結果として生まれるサウンドは、洗練されていて、どこか都会的な響きを纏っている。オリヴィア・ディーンは、その特徴を現代のポップミュージックに自然に落とし込んでいる。彼女の楽曲は、意識して聴き込むこともできるし、生活のBGMとして流しておくことも厭わない。

朝の準備、移動中、夜のひとり時間。どんな場面でも邪魔をしない。それでいて、ふとした瞬間に感情に触れてくる。この聴きやすさは、単に軽いという意味ではない。メロディーやアレンジが的確だからこそ、生活の中に無理なく入り込むことができる。



エイミー・ワインハウスと「Messy」に宿る音の質感


ファーストアルバム『Messy』には、エイミー・ワインハウス以降のUKソウルの影響が表れている。少しざらついた音像、ヴィンテージ感のあるサウンド、完璧に整えすぎない録音。そのすべてが、感情をより直接的に伝えるための選択だ。ヴィンテージな質感を使いながら、現代のポップスとして機能させている。その更新力が、彼女の音楽を今のものにしている。

オリヴィア・ディーンの歌唱は、ソウルシンガーにありがちなパワフルさとは一線を画す。
ノラ・ジョーンズを思わせる、つぶやくような歌い方。声を張らず、言葉を丁寧に置いていく。その抑制が、逆に歌の説得力を高めている。歌いすぎないことで、聴き手の感情が入り込む余地が生まれる。その距離感から私は優しさを感じる。優しい歌い口は、目下の最新作であるセカンドアルバム『ジ・アート・オブ・ラヴィング』をとても上品な作品に仕上げている。



オリヴィア・ディーンの指針になっているローリン・ヒル


オリヴィア・ディーンは、魅力的なシンガーであると同時に、優れたソングライターでもある。シンプルで、誰にでも届くポップソングを書く力。その点で、キャロル・キングのような存在を思わせる。個人的な感情を描きながら、誰の物語としても成立する。その普遍性が、彼女の楽曲を時代を超えるものにしている。

彼女が最も大きな影響を受けた存在として挙げるのが、ローリン・ヒルだ。音楽性の幅、ジャンルに縛られない姿勢、アーティストとしての自立。そのすべてが、オリヴィア・ディーンの指針になっている。象徴的なのは、彼女のミドルネームが “ローリン(Lauryn)” であるという事実だ。幼い頃から、その存在が人生と表現の中心にあったことが分かる。彼女は、その影響を隠すことなく、自分の音楽へと昇華させている。

柔らかな音楽に宿る、強い意志、2026年を生きる私たちのサウンドトラック


グラミー賞の受賞スピーチで、オリヴィア・ディーンは自身を移民の孫娘だと語り、アイスアウトの立場を明確にした(*1)。その姿勢は、彼女の音楽とも重なる。穏やかだが、決して曖昧ではない。芯があるからこそ、柔らかくいられるのだろう。

芯がありながらも優しい歌声は、私たちの生活に寄り添いながら、感情の深部に確実に触れてくる。歌いすぎないが、確かな技術がある。派手さはないが、激シブというわけではない。ピンポイントに心地良い塩梅で歌とサウンドを鳴らしているのだ。強い意志と説得力、そして優しさを持つオリヴィア・ディーンの歌は、2026年の私たちのサウンドトラックとして、日常をさりげなく素敵なものにしてくれる。


(*1)米国移民税関強制局(ICE: Immigration and Customs Enforcement)の取り締まりや存在に反対する姿勢


2026.03.03
6
  Songlink
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1972年生まれ
岡田ヒロシ
コラムリスト≫