2025年 2月18日

6,000人が集結!フィシュマンズ【最新ライブレポート】想像を超えて広がり続ける音の宇宙

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フィッシュマンズのライブ「Fishmans “Uchu Nippon Tokyo”」開催日(東京ガーデンシアター)
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photo:西槇太一  

佐藤伸治がいないフィッシュマンズは、果たしてフィッシュマンズなのか


佐藤伸治が不在のフィッシュマンズ。古くからのファンは少なからずそこでちょっと引っかかってしまうのではないか。1987年に結成し、1991年にメジャーデビュー。『空中キャンプ』(1996年)や『宇宙 日本 世田谷』(1997年)といった歴史的傑作をものにして、さらに深化していくはずだった矢先の1999年3月15日に佐藤が急逝したため、バンドは活動休止を余儀なくされたのだ。

彼がいないフィッシュマンズは、果たしてフィッシュマンズなのか。とはいえ、ドラマーの茂木欣一を中心に活動再開したのが2005年。断続的ながらも丸20年が経ち、あの頃のフィッシュマンズの時間をいつの間にか超えてしまっているのも事実だ。

複雑な想いを密かに忍ばせながら参加した2月18日の “Uchu Nippon Tokyo”。しかし、フィッシュマンズはそんな杞憂が軽く吹っ飛ぶ強靭なパフォーマンスを繰り広げたのである。

カメラマン:西槇太一


矢継ぎ早に続くフィッシュマンズの代表曲


客電が消えると「POKKA POKKA」が流れてくる。もちろん佐藤伸治の声で。そう、再生したとはいえ新生フィッシュマンズは、彼の作った曲がレパートリーであることに変わりはないのだ。メンバーが登場し、茂木がひとりひとり紹介する。ギターの木暮晋也と関口 “dARTs” 道生、キーボードのHAKASE-SUN、ボーカルの原田郁子、ベースの柏原譲。この6人が現在進行形のフィッシュマンズである。

「WEATHER REPORT」のイントロがカットインされ、ハードなギターがアグレッシブなリズムに絡み合い、茂木と原田が歌っていく。続いて強力なレゲエのビートとともに「いかれたBaby」を披露し、続いて木暮がオートチューンを使って歌う「MAGIC LOVE」へとなだれ込んでいく。矢継ぎ早にバンドの代表曲が続いたからかもしれないが、冒頭からポジティブなエネルギーが充満しているところに気付く。ノスタルジーに浸る隙を与えさせないほど、グイグイとテンションを上げられてしまった。

カメラマン:西槇太一


卓越したテクニックのアコースティックギターで「BABY BLUE」を弾き語った君島大空


ここからゲストボーカリストのパートが続く。「IN THE FLIGHT」からの長いインタールードの後、永積タカシ(ハナレグミ)が「バックビートにのっかって」と「ひこうき」を歌う。この日のゲストの中で、正統派と言えるのが彼かもしれない。とくに茂木が “この曲をぜひ一緒にやりたかった” と語ったフィッシュマンズの記念すべきデビュー曲「ひこうき」の出来栄えは見事だった。

この日のゲストで、最も強いインパクトを残したのは、間違いなく君島大空だ。卓越したテクニックのアコースティックギターを披露しながら弾き語った「BABY BLUE」で一気に引き込まれた。バンドが入り「なんてったの」とメドレー形式に仕上げたアレンジも巧妙で、ホール全体の空気が浄化されていくように感じた。さらには4つ打ちのビートから始まるテンポアップした「感謝(驚)」でじわじわと盛り上げていく。君島のボーカルは繊細でありながら存在感も強く、まさに佐藤伸治の歌声に拮抗する才能だと言ってもいい。

カメラマン:西槇太一


フィッシュマンズのパブリックイメージとは正反対のダークな世界を展開したUA


ここで茂木がオーディエンスへの感謝の念を述べた後、“佐藤くんの曲はどんどんバージョンアップできる。もっと深いところへ潜っていこう” と語った。そのトークの通りここからさらにディープな世界が続く。次に登場したのはUAだが、もしかしたら賛否両論あったかもしれない。というのも、「Go Go Round This World!」を大胆にもヘヴィでエッジーな演奏に乗せて、激しく歌い上げていたからだ。

彼女のボーカルはもっと淡々としたイメージがあったのだが、ここではハードに絶唱し、おおよそフィッシュマンズのパブリックイメージとは正反対のダークな世界。しかし、これこそが茂木の言う “バージョンアップ” なのだろう。続く「WALKING IN THE RHYTHM」でもUAは力強い歌声で圧倒し、合間に自身の代表曲「リズム」の一節をスキャットで披露するという遊びを交えつつ、強烈な印象を残した。

カメラマン:西槇太一


フィッシュマンズというバンドの力量を存分に見せつけた「LONG SEASON」


そしてこの日の最大のクライマックスが、40分に渡って繰り広げられた「LONG SEASON」であったことに異論はないだろう。波の音から徐々にバンドの演奏が重なっていき、独特の緊張感を湛えながらサイケデリックトランスな世界を構築していく。

中盤ではディジュリドゥ奏者のGOMAが登場し、茂木のドラムスとのトライバルなセッションへと展開する。これが本当にすごかった。スカパラの時はニコニコしながらビートを刻んでいるあの “欣ちゃん” とは思えないくらい壮絶なドラミングからは、佐藤伸治亡き後のフィッシュマンズを背負っている覚悟が見えた、というと言い過ぎだろうか。

後半はノイジーなギターが鳴り響き、ラストは佐藤の歌声が聞こえるという演出も憎い。また、バックのスクリーンに映し出されたCOSMIC LABによるモノクロの映像も、この長尺曲のディープな世界観を見事に体現していた。「LONG SEASON」をライブでやり切ったことで、フィッシュマンズというバンドの力量を存分に見せつけたと言っていいだろう。

カメラマン:西槇太一


アンコールは「ナイトクルージング」のピースフルなセッション


本編ラストは、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーが真っ赤な衣装で登場。あの独特の歌声で、「DAYDREAM」を歌う。君島大空とはまた違うカリスマ性のあるボーカリストだけに、彼の個性とバンドの化学反応はとにかくユニーク。加えて、フィッシュマンズが有機的に深化できるバンドだということを実感させられた。

アンコールはゲストボーカリストが全員集まり、「ナイトクルージング」のピースフルなセッション。ここで茂木から、フェスへの出演、初の海外ライブの発表があり “来年は武道館…、予定はないけどやれたらいいな” というトークで会場を和ませる。しかし、東京ガーデンシアターに過去最大の6,000人を集めることができたのであれば、あながち夢ではない。本当のラストは、エンディングにふさわしい「新しい人」。茂木がMCで言っていたが、まさに “夢のような時間” だった。

茂木欣一率いる新生フィッシュマンズのエクスペリメンタルな音の宇宙


さて、佐藤伸治が不在のフィッシュマンズ。この3時間に及ぶ今回のライブにおいても、その事実をずっと通奏低音のように感じてしまったのは確かだ。そもそも今のフィッシュマンズの役割は、佐藤が遺した名曲を演奏し続けることであり、じゃんじゃん新曲を作るようなバンドではないから当然だ。だからといって、懐古的に収まることは一切ない。

むしろ、遺された音楽をさらにパワーアップさせ、新たな魅力を付加しながらじわじわと国内外の新しいリスナーに伝播している。その証明がこの6,000人を前にしたパフォーマンスだったのである。それは、この場にいたオーディエンス全員が感じていたに違いない。茂木欣一率いる新生フィッシュマンズのエクスペリメンタルな音の宇宙は、これからも想像を超えて広がり続けることだろう。


Information
茂木欣一の企画・監修によるアンソロジーアルバム『HISTORY Of Fishmans』発売



・タイトル:HISTORY Of Fishmans
・発売日 :2025年2月19日
・仕様  :LPサイズBOX仕様 (3CD+Blu-ray+28Pブックレット)
・価格  :13,200円(消費税込み)
・発売元 :ユニバーサル ミュージック

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2025.02.23
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カタリベ
1970年生まれ
栗本斉
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