1972年 7月21日

【追悼:露口茂】昭和を彩った刑事ドラマ「太陽にほえろ!」愛された “山さん” を振り返る

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日本テレビ系ドラマ「太陽にほえろ!」放送開始日

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刑事ドラマの金字塔「太陽にほえろ!」


俳優の露口茂が2025年4月28日に老衰で死去していたことがわかった。93歳だった。その追悼の意味を込め、ここでは故人にとって最大の当たり役といえる、『太陽にほえろ!』の “山さん” こと山村精一というキャラクターについてクローズアップしたい。

露口さんを『太陽にほえろ!』だけで語るな、今村昌平作品でのエキセントリックな役にも焦点を当てるべき!、大河ドラマ『風と雲と虹と』もよかった、『父母の誤算』も名作だ…… など、さまざまな意見もあるだろう。だが、ここは、俳優・露口茂ではなく、山さんというキャラのみをテーマとする趣旨をご理解いただきたい。

刑事ドラマの金字塔『太陽にほえろ!』は、1972年7月21日にスタートしている。この作品は、『これが青春だ』など一連の青春ドラマを手がけていた日本テレビの岡田晋吉プロデューサーが、新たな長期安定のコンテンツとして刑事ドラマを企画したことがスタート地点になっている。映画スター・石原裕次郎の連続テレビドラマ初主演を大きな目玉としつつ、若者世代の代弁者として萩原健一、関根恵子(現:高橋惠子)を配し、青春刑事ドラマという裏テーマが設定されていたことはよく知られている。『これが青春だ』の教師役で人気者になった竜雷太の出演もそことリンクしていた。

青春刑事ドラマ「太陽にほえろ!」におけるオトナ枠担当


『太陽にほえろ!』の第1話「マカロニ刑事登場!」のオープニングでレギュラー出演者はこのような順番でクレジットされる。刑事のニックネームはクレジットされないが、わかりやすくするために入れておく。

・藤堂俊介(ボス):石原裕次郎
・早見 淳(マカロニ):萩原健一
・内田伸子(シンコ):関根恵子
・島 公之(殿下):小野寺昭
・野崎太郎(長さん):下川辰平
・石塚 誠(ゴリさん):竜雷太
・山村精一(山さん):露口茂
・内田宗吉:ハナ肇

当初、シンコは七曲署少年課勤務の警察官で、父親の内田宗吉は元刑事の飲食店経営者。その店が刑事たちのたまり場になっている設定だった。すでに多数の映画に主演していたハナ肇は別格として、露口茂は刑事役の出演者のなかでクレジットが “トメ” なのである。その時点の露口茂は誰もが知るスター俳優というわけではなかったが、この扱いからも、当初より山さんは、七曲署の捜査一係において、ボスに続くナンバー2として位置づけられていたことがわかる。

石原裕次郎より3歳上、番組開始当時は40歳


岡田プロデューサーの著書『太陽にほえろ!伝説』(日本テレビ刊 / のちに筑摩書房で文庫化)には、“青春ドラマの色を強くしすぎると、視聴者は若年層に偏ってしまう。そこで、ホームドラマの要素も入れ、刑事たちの年齢をバラけさせることで、幅広い年代にアピールするものを目指した” といった旨が記されている。シンコの父親役でのハナ肇の起用もホームドラマ色を強くするためだろう。

次に番組開始当初(1972年)の七曲署メンバーを演じた俳優の実年齢を比べてみたい。

・石原裕次郎 → 37歳
・萩原健一 → 21歳
・関根恵子 → 17歳
・小野寺昭 → 28歳
・下川辰平 → 43歳
・竜 雷太 → 32歳
・露口 茂 → 40歳

30代だった石原裕次郎の貫禄にも、10代だった関根恵子の成熟度にも驚かされる。いずれにしても、2025年10月現在、『相棒』(テレビ朝日系)の水谷豊(73歳)、寺脇康文 (63歳)と比べると全員が若手のように感じられる年齢だ。だが、当時の露口茂の年齢、40歳は今では考えられないほどの大人だった。現在の40歳、松山ケンイチ、尾上松也、松田翔太、山下智久らとはイメージがまったく違う。

山さんは、愛妻家キャラで家庭人として描かれた


前述の岡田プロデューサーの著書の一節を引用しよう。

「もっともテレビ視聴者として重要な三十代、四十代の女性をテレビの前に釘付けにするために選んだのが露口茂氏であった。露口氏はこの役目を十分に果たしてくれた」


山さんは、『太陽にほえろ!』を若者だけではなく、大人(特に女性)が楽しめるドラマにするために生まれたキャラクターなのである。そのためか、山さんには “愛妻家” という設定が与えられた。妻・高子(町田祥子)は心臓病を抱えており、医師から心臓に負担がかかることは禁じられている。そして初期から山さんと妻を描いたエピソードは何話も制作されている。

第23話「愛あるかぎり」では犯人に高子が人質にとられる。第114話「男の斗い」では高子が妊娠したがのちに流産してしまう。そして第179話「親と子の條件」では、子どものいない山村家が、高子の遠縁である夫婦の間に生まれた男児を預かることになる。実母が病死し、実父が海外転勤となることから山さんと高子が育てることになったのだ。やがて夫妻は隆というその男児を養子に迎え、実の子どものようにかわいがった。

番組スタートから約4年。第206話「刑事の妻が死んだ日」では、心臓発作で高子が入院した。捜査を優先した山さんが事件解決後に病院にかけつけたとき、高子は息を引き取っていた。 仕事に厳しい刑事が、“そばにいてやりたかった” と冷たくなった妻を見つめながら、心のなかでつぶやくシーンは視聴者の涙を誘った。

高子の死後、隆は親戚宅に預けられたが、再び血縁のない山さんの元に戻ることになる(第308話「新しき家族」)。また、山さんはかつて自分が逮捕して、その後獄死した男の娘を、家政婦として雇った。ボスは家庭とは無縁だったが、山さんはそれとは対照的な人物だった。

“落としの山さん” として視聴者を引き付ける


先に家庭人としての顔を取り上げたが、言うまでもなく刑事としても魅力的だった。山さんは番組とレギュラー陣のキャラが安定していくにつれて、ボスの右腕的な存在として、現場のリーダーとしてのイメージが強くなっていく。初期は荒々しい部分もあったが、推理力を駆使し、冷静沈着に現場を取り仕切る刑事に変化していった。“落としの山さん" と呼ばれ、容疑者の取り調べで、相手から真実を引き出すテクニックにたけていた。

第41話「ある日、女が燃えた」以降、“対決シリーズ” と呼ばれる一連の山さん主役回がある。これは、山さんが、容疑者と一対一の迫真の対決を展開し、最終的には相手を落とすというものだ。特に、第163話「逆転」は、ほとんど西村晃演じる人物と山さんの取調室のシーンだけでドラマが成立していた。まるで脚本家からの挑戦状のようなこの回で、露口茂の演技者としての力量を力強く示した。西村晃も見事だった。

山さんはもっとも出演回数の多い刑事


『太陽にほえろ!』にはボスから、最末期レギュラーの警部(渡哲也)、DJ(西山浩司)まで、計24人の刑事がレギュラー出演したが、そのなかで山さんはもっとも出演回数の多い刑事である。第1話 から第 691話まで欠かさずに出演していた。

この番組は、萩原健一の希望によりマカロニをドラマ内で殉職させ、その反響が大きかったことから、以後は恒例イベント化させていったことはあまりに有名だ。そのなかで、最後に殉職した刑事は山さんなのだ。つまり、ボス以外では、山さんは最も多くの後輩刑事、同僚たちを見送ってきた人物だともいえる。

マカロニ、ジーパン(松田優作)、テキサス(勝野洋)、ボン(宮内淳)、殿下、スコッチ(沖雅也)、ロッキー(木之元亮)、ゴリさん、ボギー(世良公則)、ラガー(渡辺徹)と、10人もの仲間の “死” を経験した山さんは、命の大切さを解き、若年者を正しい道に導こうとする姿勢を見せる刑事だった。言葉は多くないが、若い刑事たちは山さんの背中を見て成長していった。そして、多くの経験を重ね、刑事として、人間として、山さん自身も成長していた。

石原裕次郎は、足掛け15年の番組放送中、体調悪化により2度の長期離脱をしている。そして、山さんはボス不在の七曲署捜査一係を中心で支えたキャラクターだ。同時にそれは、『3年B組金八先生』をはじめとする “桜中学シリーズ”(TBS系)や『ワールドプロレスリング』(テレビ朝日系)など強力な裏番組があるなかで、『太陽にほえろ!』という番組を支えることを意味していた。石原裕次郎は太陽に例えられることが多いが、露口茂は月のような存在だった。光は強くないが、その重厚な存在感と卓越した演技力で、多くの視聴者に深く愛された。

番組降板時の露口茂は54歳


俳優にとって、このような人気番組にレギュラー出演することは安定した収入源を得られる一方で、同じ役を演じ続けることが一種のストレスになったようだ。萩原健一、関根恵子は早期に降板を希望し、時期をずらす形で認められた。竜雷太、小野寺昭はともに、番組開始から数年後にプロデューサーに降板を申し出たと証言している。どちらも遺留されて時期は伸びたが、それぞれ本人の意志で絶好調の番組を去った。また、長さんも警察学校の教官になるという設定で姿を消した。ボス以外のオリジナルメンバーで最後まで残ったのは山さんだった。

そんな山さんも番組を去る時が来た。特番となった第691話「さらば!山村刑事」で殉職することになった。当時の七曲署捜査一係は、ほかにボス、ドック(神田正輝)、トシさん(地井武男)、マミー(長谷直美)、ブルース(又野誠治)、マイコン(石原良純)、デューク(金田賢一)というメンバーだった。

隆の実父が海外赴任から帰国。再婚相手との間に子どもができないことから、山さんに隆を戻すように求める。反社会勢力による拳銃の大量密輸事件を捜査していた山さんは、隆の安全を考慮し実父の意向に従うことを決める。そんな中、反社の構成員ともみ合いになり、相打ちになることで山さんの体内に弾丸が突き刺さる。最後の力を振り絞って、ボスに電話をかけ拳銃を押収したことを報告。そして、次に電話口の隆に “今、帰るからな” と告げてまもなく、その約束を果たすことなく絶命するのだった。

番組降板時の露口茂は54歳。俳優として円熟期にあった。その後10年あまりはテレビドラマで見かけることが多かったが、1990年代半ば以降、フェイドアウトのような形で表舞台から消えていった。

露口茂は取材嫌いとされ、インタビューを受けることが少なく、トーク番組、バラエティ番組の類にもほとんど顔を出していない。自叙伝の類もない。素顔がどんな人物だったかはあまり知られていないがゆえ、 露口茂という俳優を山さんだけで語るのは必ずしも適切ではないかもしれない。ただ、素顔をイメージできないだけに、やはり山さんという魅力的なキャラクターを本人と同化させている人が多いのは事実だろう。

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