ボーカリストを1作ごとに変え、次々に放たれた K.J.の秀作群
平成期のヒット曲がリバイバル的に聴かれ始めている昨今だが、その中でも2010年前後に数多く現れたのが “男性ラッパー feat.女性R&Bボーカル” という組み合わせのラブソングである。恋人同士の心の内を、男女それぞれに語っていく形式は、おそらくSOULJAの「ここにいるよ feat.青山テルマ」(2007年)とそのアンサーソング「そばにいるね」の大ヒットを契機に一般化したと思われる。
その中でも、強く平成感を伝えてくれるのが、童子-T のプロデュースによる “K.J. with 女性ボーカリスト” シリーズだ。ボーカリストを1作ごとに変え、次々と放たれた《平成セツナキ》の秀作群をここで解説していきたい。
あの頃に戻れない / K.J. with MAY'S
2010年6月30日、その第1弾として発表された「あの頃に戻れない」のMAY’Sは、片桐舞子と河井純一の男女ユニット。言葉を飲み込むようなヴォーカルは、まさしくディーヴァ第2世代以降のボーカルスタイルで、ファルセット部分に入ると切ない思いがキューッと凝縮されていく。サウンド面もキラキラしたエフェクトが加わり、これもまた平成サウンドの特徴といっていいだろう。ちなみにこのミュージックビデオに出演しているのは、人気モデルの “てんちむ”。
キライになれない / K.J. with 紗羅マリー
「キライになれない」の紗羅マリーは、女性ファッション誌『ViVi』の専属モデルとして活動し、2010年に歌手デビューした。彼女自身のダブルボーカルによるイントロなしの歌い出し、ビブラートを用いないクールなボーカルスタイルは、かえって切なさを倍増させる効果がある。
君がいた冬 / K.J. with Tiara
君がいた冬 / K.J. with TiaraのTiaraは、ケツメイシの「さくら」など、多くの楽曲にコーラスで参加したのち、2007年に「Magic☆」でインディーズデビュー。2009年にSpontaniaがフィーチャリングで参加した「さよならをキミに... feat. Spontania」でメジャーデビューを果たしている。
歌詞の内容は、クリスマス前に別れを選んだカップルが、学生時代の甘い記憶を男女それぞれに辿っていくストーリー。ミュージックビデオは別々の場所から別れを告げるシーンから始まるのだが、スマホでなく二つ折りのガラケーで想いを伝えるのが、平成ならではの光景だ。
近づきたくて / K.J. with YU-A
「近づきたくて」のミュージックビデオも最初に登場するのは、これまた懐かしいデコレーション携帯。洋服屋に勤めるギャルが、仕事の愚痴や彼氏との日々を相談相手の男性に打ち明けるが、男は友達以上恋人未満の関係を打ち破りたい。互いの感情が徐々に溢れ出していく様がリアルすぎるが、1980年代の歌謡曲のような哀愁メロディーが、その切なさを増幅させる。YU-Aのやや低めの落ち着いた声質が耳に心地よい。
YU-Aは、オーディション番組『歌スタ!!』(日本テレビ系)に合格し、その前に合格していたCHiE、DEMと3人で、和製デスティニーズ・チャイルド構想が打ち出され、“Foxxi misQ” のグループ名で2006年にデビュー、2009年にソロデビューを果たしている。
助手席にいさせて…。with hiroko(mihimaru GT)/ K.J.
「助手席にいさせて…。」でヴォーカルを務めるのは、平成ソングの代表格「気分上々↑↑」の大ヒットで知られるmihimaru GTのhiroko。パリピ感満点のスタイルでお馴染みだが、ここでは一転して、ミディアムのダンスビートに乗せ、落ち着いた大人の女性像を歌っている。また、この曲はドライブミュージックとしても楽しめる平成期のネオシティポップ的な楽曲。さらに言えば、最後のドライブという設定は、平山三紀の「真夏の出来事」(1971年)から延々と連なる日本のポップスの人気シチュエーションなのだ。
愛されたい…愛してる?with AZU / K.J.
「愛されたい…愛してる?with AZU」は上記の楽曲群よりややテンポが早い。ルックスはいいが人生設計に乏しいダンサー志望の彼氏に、辛くても孤独でも、君にいて欲しいと訴える女性。正直この、だめんず感がなんともリアルで、胸が痛くなる女性リスナーも多いであろう。ボーカルのAZUはこの時代の女子高生層に高い人気を誇ったシンガーで、本作でもキュートに歌いこなしている。
K.J.とは、ラッパーのKOHEI JAPANの別名義
そして、これらの作品で一貫してラップパートを務めているK.J.とは、ラッパーのKOHEI JAPANのこと。KOHEI JAPANは、RHYMESTERのMummy-Dの実弟で、ジャパニーズ・ヒップホップ黎明期から活動をスタートさせ、1993年にMELLOW YELLOWを結成。2000年よりソロ活動をスタート。2007年にアルバム『Family』でメジャーデビューを果たしている。
そして、2010年に童子-Tのプロデュースで、K.J.名義でも活動を開始。最初はシークレットでの楽曲発表だったが、その独特のフロウにより、KOHEI JAPANであることは、一部リスナーには知られていた。
メジャーデビュー前後に家族愛を歌うラッパーとして話題となったが、初期の攻撃的なスタイルへから方向転換したこの時期のフロウが、一連のシリーズでも絶大な効果を発揮している。また、声やフロウにそこまで違いはないのに、優しすぎて思いが届かない青年からダメ男まで、的確に演じ分ける様は圧巻である。
K.J.名義では通算9作品のフィーチャリング作品を発表、『K.J.with…』『K.J.Loved…』といった2枚のアルバムも残している。このプロジェクトが新鮮だったのは、参加した女性ボーカリストたちが、いずれも平成感溢れる、ガーリーな魅力を備えていたこと。そして、楽曲がいずれも切ないメロディーであったことだ。
女性側の心情は歌で表現され、男性側のアンサーは淡々としたリリックで綴られていく。すれ違う男女の想い、打ち明けられなかった心情、まさに5分間の交差するラブストーリーだ。そう、誰もが経験したことのあるシチュエーションだからこそ、多くのリスナーから支持を得たのだ。そして、そこで歌われている内容は、今聴いて共感を得られる普遍的な愛の形であって、単なる平成リバイバルではない。
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2026.03.01