『ベストヒットUSA』40周年記念:小林克也インタビュー
『ベストヒットUSA』40周年記念第4回:現在の音楽についての考察
(構成・インタビュー:本田隆)
2003年にBSで復活した『ベストヒットUSA』克也さんならではの鋭い視点で切り込んだ、今の音楽事情についても語っていただきました。
80年代より門戸が開放、国際的に様々な血が混じり合うアメリカンチャート
― 80年代の音楽の流れを見ておられて、『ベストヒットUSA』は89年に地上波でも放送が終了しました。その後2003年にBS朝日で再開する時には、80年代に地上波でやられていたことをそのまま踏襲しようと思われましたか? それとも、新しく変えてやろうと思われましたか?
- 克也
- 変えてやろうというのは、あまりなかったですね。でも、やりながらいつも、毎回、毎回、「このままではダメなんだ」っていうのが出てくるわけです。それはどういうことかというと、VJはラジオで言えばレコードを回すようなものですよね。すでにあるものを回すわけです。そうすると、どのような顔をして紹介すればいいのか… っていうは、いつも考えるわけですよね。それで、選曲というものも大切になります。今、何が受けるんだろう… って。
そうすると、もう80年代のレコードを回してもいいんだよ… ってことになりますよね。それを90年代のものを回すと受けるかな? とか、新しく出てきた人たちの作品は、これと混ぜるとどうなるんだろう? とか。放送再開時は80年代を過ぎて20年も過ぎているわけだから、我々と同じところにいる日本のお客さんが、どのように変わっていったのか… っていうのを考えます。求めるものが違いますから。
― それは感じますよね。やはり、視聴者の年齢層も高くなったと思うんです。その中で、80年代の曲の重要性もあると思いますし、今の音楽を知ってもらいたいという気持ちもありますよね。
- 克也
- もちろん、それはあります。僕の年なんかだと、ティーンエイジャーのために作る音楽なんかは、普通の世界では聴いていないですよね。でも、それを生業としたから、どんなことが起こるかは見てますよね。若いからってなめちゃいけないな… っていうのと、何かの焼き直しじゃないかとか、いろいろな意見が出てきますよね。だから、自分に興味を持たせるために、自分の中で面白がっているということですね。
― ご自身が興味を持たないと伝わらない部分もあると思います。例えば、最近のアメリカのチャートだとか見て、克也さんはどのような意見をお持ちですか?
- 克也
- 基本的には80年代と変わっていないと思いますが、ただ、いろいろな変化があって、当時よりも門戸は解放されているなと思います。昔からヨーロッパのものは、いち早くアメリカで取り入れられましたが、最近は韓国なんかのシーンに影響されたりしますよね。だから、そういう意味でチャートは変わっていくし、ひとつの製品と見た時、80年代とは変わっているのと、携わる人間がアメリカ人ばかりではなくて、いろいろな会社、いろいろな人間が携わっています。
一番分かりやすいのはスウェーデンやノルウェーなど、人の才能を輸出する国の人が活躍していますよね。例えば、今一番有名なプロデューサーというと、マックス・マーティンというスウェーデン人じゃないですか。だから、みんなスウェーデンに行って音源を作ったりしています。そういう意味で国際的になっている感じがあります。
― すると、アメリカ独自の音楽というのではなく、いろんな血が混じり、アイディアが混じっているのが曲に表れているということですね。
- 克也
- その混じり方というのは半端じゃないですよね。今のチャートでいくと、ロックチャートというのが意味を成してなくて、今の2位がビリー・アイリッシュで1位が24kゴールデンというヒップホップを意識したようなサウンドで、ガンガン鳴るようなロックはないですよ。今は。
― 確かにラウドな音というのはなくなりましたよね。
- 克也
- それにはいろいろな理由があって、今のサブスクリプション、ストリーミングの時代にあの音は損するんですよ。音圧が強くなってくると、リミッターを蹴飛ばしてしまうんですよね。だから、ものすごく隙間が空いていて「こんな編成でいいの?」みたいな音のほうが向いているんですよね。
― やはり、リスナーが何で聴くかによって音も変わってくるんですね。
- 克也
- そして、それを享受するのは若い世代だから、世代の変化によって音楽の主流も変わってくる。新しい世代が新しいものを求めているんですよ。だからそれに音楽業界が応えるような感じですよね。冷静な目で見てみると、新しいものとは限らず、これは回転しているのかと思う部分もあります。今人気のあるオリビア・ロドリゴっていう18歳ぐらいの女の子ですが、ああいう風な歌手は60年代、70年代にいっぱいいたような感じがするんですよね。相変わらずの恋の歌だし…。
― 50年代からある普遍的なラブソングですよね。
- 克也
- 昔より、精神年齢が高いというのはありますけどね。50年代の子ども子どもしたものとは違うというのは感じますね。
― コニー・フランシスの「カラーに口紅」のようではないということですね。
- 克也
- しかし、「カラーに口紅」というのは永遠のモチーフだから、こういう風なものをネタにしないだけで、もっと捻ってうまくやっています。そうやって若い子に受けるポップスが出来上がっています。
<次回予告:
最終回>
次回いよいよ最終回!人気コーナー「TIME MACHINE」についてや、『ベストヒットUSA』の今後について、若い世代へのメッセージと内容盛りだくさんです!