『ベストヒットUSA』40周年記念:小林克也インタビュー
『ベストヒットUSA』40周年記念最終回:『ベストヒットUSA』の今後
(構成・インタビュー:本田隆)
今も続く人気コーナー「TIME MACHINE」についての逸話や、サブスクリプション時代の音楽の在り方、そして『ベストヒットUSA』のこれからについて。克也さんロングインタビュー、いよいよ最終回です。
3分間の芸術作品、音楽を後世に残す役割のビデオクリップ、
誰もやらなかったことをやるという重要性
― 話は変わりますが、僕は「TIME MACHINE」のコーナーが大好きでした。
- 克也
- 特に80年代は、昔の映像を観る機会がなかった。だから、たとえばピンク・フロイドはこんなバンドだったんだとか、サム・クックってこうなんだとか。
― コーナーの中で克也さんが事実を淡々と紹介するじゃないですか。だからこそ説得力がありました。評論ではなかった。そこで映像が深く刺さりました。「TIME MACHINE」のコーナーには、どのような思いがありましたか?
- 克也
- 僕が思っていたのは、自分も目にしていない映像だから、改めて、彼らはこういう映像を作りたかったのか… という発見になりました。それは上から目線ではなくて、アーティストと同じところに立っていました。
― 当時、古い映像ってそんなに掘り起こされていなかったんですよね。
- 克也
- そうです。当時ディレクターが2人いて、「TIME MACHINE」のためにレコード会社に行って探していました。それでもレーベルが変わったりなどの事情で失われているものも多いので、倉庫を探したりもしていました。それで「克也さん、すごいものを発見しました!」っていうのを何度も聞いたことがあります。本当は忙しくて探している場合じゃないわけですよ(笑)。だけど、すごい映像を見つけた時は大手柄! っていうのは覚えていますね。それで逆にレコード会社がびっくりするんです。こういうものがお金になるんだ。喜ぶ人がいるんだ! っていうのが分かるわけです。
― まだ、再発とか盛んではなかった頃ですよね。
- 克也
- だから「TIME MACHINE」っていうのは何が出てくるのか分からない、お前ら何を探せるか… というところがあったから、面白かったですね。しばらくすると、レコード会社も事情が分かってきて古い映像が見つかると「これはロックじゃないけど使えるか?」とか、「これは日の当て方によってみんな喜ぶよ」とか、そんな話になっていました。
― ジミ・ヘンドリックスの映像とか衝撃的でした。
- 克也
- ジミヘン関係はいろいろ残っているんです。
― 「TIME MACHINE」の中で克也さんが特に印象に残っているのは、ピンク・フロイドでしたか?
- 克也
- ピンク・フロイドの来日公演の映像があったの覚えていますか? これは、完成されたものではなく、記録映像なんですが、すごく貴重でしたよ。普通は編集されたライブ映像でも想像力を働かせて観るじゃないですか。その背景にどういうことが起きていただろうかとか。
― そうなんです。そのような部分がロック、音楽と深く付き合えたきっかけなのかもと今改めて思いました。
- 克也
- たとえば、ジャーニーが『Raised On Radio』…“ラジオ育ち” というアルバムを出して、それで結局ジャーニーは失敗するんですが、当時、猫も杓子もビデオクリップを出すものだから、「俺たちは音楽だけを聴いてもらって頭の中で絵を描いてほしい」と言っていて… そういうものですよね。音楽って。
もちろんビデオクリップにもいい作品と悪い作品があって、たとえば、ホール&オーツの「プライベート・アイズ」という曲があって、これは探偵のことですよね。でも片や、ストーカー的な意味合いもありますよね。「ずっと君を見てるよ」という。それで、ディレクターが「こういう曲できたんだけど、映像を作ってくれないか」となると、それで、トレンチ・コートにサングラス探そう。となったわけです。でも、それは本人たちがすごく恥ずかしいとなったわけです。やはり、ビデオクリップで歌詞の後追いの映像を見せてもなにもならないわけです。
その後、ビデオクリップに芸術性を求めるという機運が高まってきて、レコードと同じような価値のものになるわけですよね。それで作品のクオリティを競うようになって、その中から有名な映像作家が出てくるようにもなった。3分という芸術品を作る。そこに発展がありましたよね。
― マイケル・ジャクソンの「スリラー」とかいかがでした?
- 克也
- あれは、ハリウッドの監督が作っているから。でも、そういう有名な監督が作らなくても、いい作品はいっぱいありますよね。それでいくと、ピーター・バラカンがやっていた「ボッパーズMTV」というのは、彼がイギリス人だから、イギリス人アーティストのビデオクリップを紹介していましたよね。イギリスの場合、あまり予算がないから、頭を使って作っているものが多かった。そこから有名な作家も出てくるんです。そういう土壌があったんですね。
― イギリスのビデオクリップには街中で撮影しているものとかも多くありますよね。
- 克也
- それとか、エルヴィス・コステロのワンカットの作品とかも。普通プロはワンカットにしませんよね。だから、そこでワンカットってすごいものなんだと改めて思ったり。やはり映像も音楽と同じで、誰もやらなかったものをやるという、それが芸術の始まりというか…。それが時代を作ってきたと思いますよ。
― そして、音楽を後世に残す役割としてビデオクリップがあったということですね。
- 克也
- そうですね。
音楽にすぐ手が届く何でも聴ける時代、
若い世代へ小林克也からのメッセージ
― この40年間はあっという間でしたか?
- 克也
- あっという間ではないんだろうけど、振り返るとあっという間でしたね。特に80年代は無我夢中だったから早かったですね。
― 今僕らがやっている「Re:minder」というサイトも、最初は50代の方がもう一度音楽を聴いて欲しいという思いで作ったところがあります。だから僕らが想像していたのが、40代、50代の人がメインということなんですが、ここ2年ぐらいで20代、30代のユーザーがどんどん増えてきているんですね。10代にも80年代の音楽にすごく興味を持ってくれる人がいて、そういう若い音楽ファンにメッセージはありますか?
- 克也
- そういう若い世代はうらやましいなと思います。音楽にすぐ手が届く、何でも聴けたりする時代だから。ただ、僕らの場合は辞書を引いても百科事典を引いても分からないことがありました。今はネットで検索すれば一発です! みたいなそういう時代になっている。何でも手が届くから、届かないものは何かな… って。僕らの時代は届かないものがいっぱいあったんだけど、彼らにとって届かないものは何かな… って思った時に、たとえばビートルズって、すでに大人のものになっている。でも若い連中がビートルズを聴いた時に違う発見みたいなものがある。それが、どういう風に刺激するのか… っていうのは、こっちがシミュレーションするしかなくて、そこにはお父さん、お母さんが聴いていたから知ったというのもあるかもしれないし、そうではない聴き方もあると思います。そういうのは興味ありますよね。「どうして君はここにたどり着いたんだ?」みたいな。
― 時代が古いから古い音楽ではなくて、彼らにとって、ビートルズは新しい音楽なんですよね。
- 克也
- それはそうですよね。
― はい。それでは最後に、この前の40周年アニバーサリーのステージで、「あと2~3年は続けたいとのを聞いて、出来る限りは頑張っていただきたいと思いました。
- 克也
- (笑)とりあえずはね。2~3年は予想がつくけど、その先はどうなるか分からないからね。初めて俺は80なんだなと思うんだけど、それはなぜ80なのか(笑)。数字は80だし、その80というものは何なんだ… っていうのはありますよね。
5回に渡ってお送りしした『ベストヒットUSA』40周年企画、小林克也さんロングインタビュー、いかがでしたでしょうか。未だ現役を貫く克也さんの鋭い考察力を感じていただけたら何よりです。