第4回日本のエバーグリーン。
「ロンバケ」はリゾートミュージックなのか?
(構成:本田隆)
鮮やかでキラキラしていながらも哀しみが根本にあるアルバム、それが「A LONG VACATION」。「想い出はモノクローム」だけど、鮮やかで懐かしくてキラキラしている。そんなエモーショナルで感情を揺さぶる「ロンバケ」の歌詞や世界観を深堀りしていきます。
―ロンバケって哀しみが根本にあるアルバムだよね。だけど、そうは見えない。だから今の話を聞いて、みんなちゃんと聞いているなぁって思いました。哀しみだけど、そうは見えない。鮮やかでしょ。想い出はモノクロームだけど鮮やかなんだよ。
- アヤ
- 鮮やかで懐かしくてキラキラしてるんですよね。
- 昌太郎
- 普通リゾート系の音楽って、シティポップも、あんまりこういう歌詞がウエットなものってないんだけど、「ロングバケーション」はメッセージが強くて、そこにポップなメロディが乗っているというのは、特別なものだと思います。
- アヤ
- これからリゾート行くっていうより、以前行ったリゾートのことを思い出しているという感じに近いな(笑)。
- ルネ
- そうですね… あらかじめ失われているもの… 喪失感がありますね。
- 昌太郎
- 「恋するカレン」の次が「FUN×4」ですよね。「そうさ哀しい女だね 君は」の後に「手に入れてしまったよ お目当てのあの娘を」ってなるから、振られたのになんで? って、そこでプッって笑った想い出もあるかな。
- ルネ
- そのあと「さらばシベリア鉄道」でさぁっと突き放される感じもありますね。
―大滝さんのメロディや、松本隆さんの歌詞、鈴木茂さんのギターも素晴らしいですよね。そうすると、このアルバムを作ったスタッフの中で共通認識があったと思いますか?
- 昌太郎
- たぶん、はっぴいえんどの人たちなので、言葉を交わさなくても(大滝さんの)やりたいことが分かったんだと思います。
―なるほど。お互いの個性も分かっているし、81年という時代も分かっていたと思います。はっぴいえんどは、あの時代に敢えて古臭くやっていたと思うんだけど、時代を超えても聴かれ続けるエバーグリーンなアルバム、っていうのを考えて作っていたのではと僕は思います。
- 昌太郎
- 大滝さんが当時から必ず言っていたのは「日本の音楽にもエバーグリーンがあることを証明したい」って。だから必ずこれをやりたいというテーマはあったと思います。何十年も持つ音楽。これをテーマに作っていたと思います。
- ルネ
- まさにそうだったんでしょうね。
- アヤ
- すごくエモーショナル。情緒的な音楽なので、最初は大滝詠一さんがリゾートに行きたいという気分に任せて作った音楽だと思いました。だけど、大滝さんのことを掘るにしたがって、どれだけ勉強家で、感情を揺さぶる彼の音楽が、どれほど膨大な彼の理論や知識に裏打ちされた結晶だったということを知った驚きと言ったら!
- 昌太郎
- 音楽をやっている人間からしてみると、ポップスの教科書なんですよ。この1枚にいろんなことが入っていて、これを聞いて、これを勉強すれば大抵のことは分かるだろっていう、そういうアルバムなので。大滝さんが81年までにいろいろ考えてきたことを凝縮されたものがあるという。
- アヤ
- 研究成果なんですよね。
- 昌太郎
- 山下達郎さんもおっしゃっていたけど、大滝詠一さんという人は音楽家というよりも、発明家だったり哲学者だったりに近いものがあると。だから普通の音楽家とは違うんですよね。一緒に『マツコの知らない世界』に出演した、さにーさんから「大滝さんって男性からのファンが多い気がしますが、なぜですか?」って聞かれて、その時は答えられなかったのですが、今思うと、普通のミュージシャンと違っていて、商業ミュージシャンはパフォーマンスで振り切るじゃないですか。ヒットを出していくために。
でも大滝さんの場合は、アルバムが研究の成果みたいなところがあるので、常に自分の理想を追い求めて高めているもののうちのひとつなんです。男の人はロマンチストが結構多いから、研究熱心な男に憧れるみたいな部分があると思うんです。それでユーモアセンスもある人じゃないですか。だから、そういう男についていきたくなるのかなって。だから男の人のファンが多いと。 - アヤ
- 女子だって、そんな男の子は好きですよ!
- 昌太郎
- 今でこそ宅録っていって家で簡単にプロツールスを導入して音楽を作れるようになったけど、この時代はそういうのはなかったのに、大滝詠一さんは自分の家にスタジオを作っていろんなミュージシャンを呼んで実験だとかをしていたらしくて。普通じゃないですよね。以前、星野源さんリモートでラジオ収録して放送した時に、つボイノリオさんが「何十年も前に大滝さんがやってたよ(笑)」って言っていました。
- ルネ
- 何もかも早いですよね。ビデオデッキの話とか。大滝さんは家にビデオデッキを20台も置いていて常に番組を録画していたけど、それを観るわけでもなかった。むしろ観るものと観ないものを選別するところに自分のクリエイティビティが出る、というお話があって、これは、ちょうど今言われていることなんですよね。こんなにも情報が手に入る時代では、何を選ぶかっていうことが創造的な行為になる。それを何十年も前からやっている人だったんですね。
- 昌太郎
- あと、もともと喫煙者だったんだけど、機材がダメになるという理由で煙草を辞めているというから。家の中にプラズマクラスターを何十台も置いていたり。異常ですよね(笑)。あと、萩原健太さんが言っていましたが、ある日、そのビデオデッキがパソコンに変わったという話も。
- ルネ
- パソコン通信もだいぶ早くからやっていましたよね。
- 昌太郎
- そうですね。90年代の半ば頃から自分でホームページを立ち上げて、研究成果を書いたりしていましたね。
- アヤ
- それで、テレビに出るのが嫌いというのが面白いですよね。テレビに出るのが嫌いだからテレビが嫌いかと思いきや、20台のビデオデッキで録画するくらい見るのは大好きという(笑)。
―大滝さんってコレクターの側面もありますよね。それって、一般的にはオタクだけど、それをカッコよく思わせたところもあるよね。
- アヤ
- 高校時代、学費を全部レコードにつぎ込んで最初の学校は1年で退学になったという…。
- 昌太郎
- 昨日、ある音楽ライターさんとお会いする機会があって、その人がレコード店で働いている時、系列店に輸入盤を専門に取り扱う店があって、ある時、大滝さんから電話がかかってきて、入荷したレコードを棚の端から端まで一気に買っていったという。聴き方も半端じゃない。
- アヤ
- インターネット以前の時代に多くのものに出会うというのは、精神力と、足を使って、お金を使ってやらないと出来ないことだから。
自分の趣味やカルチャーを掘り下げるだけでなくて、それを多くの人に伝える手段とか、新しい聴き方を広めるところまでカバーする研究熱心さみたいなところすごい! - ルネ
- オリジナルの人ですよね。掘っていっても閉じるのではなく、それを広げる手段にまで興味があって。
- 昌太郎
- だから一時引きこもりの代表、大滝詠一とまで言われていたのに対し「引いてはいるが、籠ってはいない」と言ってましたね。
- ルネ
- サイコー! 何それ! めっちゃいい!
- アヤ
- おうち時間のハシリですよね。
<次回予告 3月19日更新予定>
次回はいよいよ最終回。鼎談を通じて、より深くなったロンバケへの思いを語ってもらいます。
高橋 昌太郎(たかはし しょうたろう)
1991年生まれ。作曲家、音楽勉強家、ディスクジョッキーなど。
小学校4年生のとき、テレビドラマの主題歌として流れてきた山下達郎の「LOVELAND, ISLAND(ラブランド、アイランド)」に衝撃を受けて昭和ポップスの虜に。
ジャンル問わず、音楽の歴史や芸能文化を研究、発表したりしている。
Twitter : @ongakubenkyouka
Instagram : @shotaro_reverblue
郷ルネ
1994年生まれ。早稲田院生。オンライン昭和スナック「ニュー・パルリー」のママ。11歳の時、フィンガー5にシビれて以来、昭和に傾倒する日々を送る。70年代歌謡曲、80年代アイドル、グループサウンズ、渋谷系も好き。映画と古着好き。
ミヤジサイカ(アヤ)
1996年生まれ。東大院生。オンライン昭和スナック「ニュー・パルリー」のママ。カーステレオから流れていた、ユーミン、サザン、松田聖子… 80年代の音楽に心を奪われ幼い頃から昭和カルチャーに親しむ。歌謡曲バー「スポットライト」の元アルバイト。同世代の友人たちと昭和的スポットに出かけ、バブル期のカルチャーを追体験するのが趣味。